お盆を終えた翌日。お供えのお花、どう処分するのが良いのでしょう?
お盆にかぎった話ではありません。お彼岸のあと、月命日のあと、法要のあと。あるいは、いただいたお供えのお花がそろそろ限界かな、というとき。「お供えする」ことの作法はよく語られるのに、「お供えを終える」ことの作法は、意外なほど語られていません。だから多くの方が、あの少し落ち着かない気持ちを抱えたまま、なんとなくごみ袋に入れてしまうことになります。
この記事は、その「終わりかた」だけをまとめたものです。いつ下げるのか、どう分けて捨てるのか、川に流してはいけないのはなぜか、花瓶や仏具はどう洗うのか、まだ元気な花が残っていたらどうするのか。そして次回、お供えのお花をもっと長くきれいに保つには何をすればいいのか。お盆の翌日に読んでも、三月や九月のお彼岸のあとに読んでも役に立つように書いています。
はじめに、いちばん大事なことをお伝えしておきます。お花の下げ方・供え方の細かい決まりごとは、地域や宗派、そしてご家庭の習わしによって大きく異なります。この記事に書いてあることは「一般的にこう言われている」という範囲の話です。迷ったときは、菩提寺(お付き合いのあるお寺)やご家族・ご親戚のやり方を優先してください。ここに書いてあることが、そちらより正しいということはありません。

地域や宗派で違いますが、感謝の気持ちで紙に包んで一般ゴミに、または送り火と一緒に焚き上げるのが一般的。「ありがとうございました」と心の中で唱えて。
お盆の流れを、ざっとおさらい
「送り盆の翌日」という言葉が出てきたので、まずお盆そのものの流れを短くおさらいしておきます。ご存じの方は読み飛ばしていただいてかまいません。
迎え盆と送り盆
お盆は、ご先祖様をお迎えして、一緒に過ごし、またお送りするという流れでできています。初日にあたるのが迎え盆で、迎え火を焚いて「こちらですよ」と目印にする風習があります。最終日が送り盆。送り火を焚いて、お送りする日です。京都の五山送り火のような大がかりな行事も、この「送り火」の系譜にあるものです。
お花の立場から見ると、この四日間はお花にとってなかなか過酷な期間でもあります。真夏の室内で、締め切った仏間で、四日間。迎え盆の日にいちばんきれいだったお花が、送り盆の頃には少しくたびれている——これはごく自然なことで、けっして手入れが悪かったわけではありません。
七月盆と八月盆——地域で日付が違う
お盆の日付は全国一律ではありません。大きく分けて二つあります。
- 七月盆(新盆)……七月十三日が迎え盆、七月十六日が送り盆。東京や神奈川の一部、静岡の都市部、金沢市の一部など、都市部を中心に行われます。
- 八月盆(旧盆・月遅れ盆)……八月十三日が迎え盆、八月十六日が送り盆。全国の多くの地域がこちらです。世間で「お盆休み」と言われるのもこの時期ですね。
なぜ分かれたのか。もともとお盆は旧暦の七月十五日ごろの行事でした。明治に暦が新暦へ切り替わったとき、新暦の七月は農作業がいちばん忙しい時期と重なってしまいます。そこで多くの農村では一か月遅らせた八月に行うようになり、農業の影響が少なかった都市部ではカレンダーどおり七月に行った——という説明が広く知られています。さらに、沖縄や奄美のように現在も旧暦で日を決める地域もあり、その年によって日付が動きます。
つまり「お盆の翌日」は、七月十七日の方もいれば、八月十七日の方もいるということです。この記事を、日付ではなく「行事が終わったあと」の記事として読んでいただきたいのは、そのためでもあります。
新盆(にいぼん・はつぼん)のとき
ややこしいのですが、「新盆」という言葉には二つの意味があります。ひとつは、先ほどの七月盆のこと。もうひとつは、故人が亡くなって四十九日を過ぎたあと、初めて迎えるお盆のことです。地域によって「にいぼん」「はつぼん」「あらぼん」と読み方も変わります。
この意味での新盆は、通常のお盆よりも丁寧に営まれることが多く、お花の量も供養の規模も大きくなりがちです。当然、片付けるお花の量も増えます。白を基調にするか色を入れてよいかといった作法も地域差が大きいところなので、初めての新盆を迎えるご家庭は、事前に菩提寺やご親族に確認しておくと安心です。「あとから困らないように先に聞いておく」のは、失礼でもなんでもありません。
なぜ「終わったあと」が大事なのか
お花を供えるところまでは、みなさん一生懸命です。どの色にしよう、何本にしよう、間に合うだろうか。ところが行事が終わると、急に関心が薄れます。仏間のお花が茶色くなったまま一週間、二週間。よくあることです。
枯れたまま置かないという考え方
お供えのお花に生花がふさわしいとされる理由のひとつに、「花はやがて散る」ということ自体に意味を見る考え方があります。形あるものは移り変わっていく、という仏教の教え(諸行無常)を、花が身をもって示している——そういう受け止め方です。
ただ、それは「枯れたまま放っておいてよい」ということではありません。むしろ逆で、移り変わるものだからこそ、区切りをつけて丁寧に見送る。お供えの花はご先祖様に向けたものであると同時に、供える人自身の心を整えるためのものでもある、とよく言われます。枯れた花をそのままにしておくと、その両方が少しずつ濁っていきます。
現実的な理由もあります
気持ちの問題を抜きにしても、傷んだ花を夏の室内に置き続けるのは、あまりよい状態とは言えません。
- においが出ます。花瓶の水は気温が上がると急速に菌が増え、独特の臭気になります。仏間はお線香の香りを楽しむ場所でもあるので、これは避けたいところです。
- 小さな虫が寄ってきます。濁った水や腐りかけた茎は、コバエの発生源になりやすい環境です。
- 花びらや葉が落ちて、片付けが増えます。乾いて崩れた花びらは、あとになるほど拾いにくくなります。
- 花瓶や仏具に汚れが定着します。ぬめりも水垢も、早く洗えば簡単に落ちますが、放置するほど手強くなります。
「終わりを丁寧に」は、精神論であると同時に、いちばん省エネな段取りでもあるのです。
お花を下げるタイミングは、いつ?
ここがいちばん多い疑問だと思います。結論から言えば、全国共通の決まりはありません。考え方がいくつかあり、それぞれに理屈があります。ご自分の家に合うものを選んでいただくのがよいと思います。
考え方その一:行事が終わったら下げる
送り盆で送り火を焚いたら、その日か翌日にお飾りとお花をまとめて片付ける。いちばんすっきりした考え方で、お盆飾り(精霊棚や提灯など)の片付けとタイミングを揃えられるのが利点です。法要のあと、お彼岸のあとも同じ考え方が使えます。まだきれいな花が残っていても、区切りとして下げてしまうやり方です。
考え方その二:枯れてきたら下げる
日付ではなく花の状態を見て判断するやり方です。ふだんの仏花はこちらの考え方で扱われることが多く、「枯れたら替える」がいちばん基本的な目安とされています。行事のあとも、まだ元気なら数日そのまま楽しみ、傷んできた順に抜いていく。花を無駄にしないという意味では、いちばん自然な向き合い方かもしれません。
考え方その三:家の習わし・お寺の指示に従う
そして、これがいちばん優先されるべきものです。「うちは送り火の日の朝に下げる」「お寺でまとめて焚き上げてくださるから、その日まで置いておく」など、地域や宗派、お寺ごとの決まりがある場合があります。とくにお墓のお花については、霊園や寺院が「お参りのあとは持ち帰ってください」というルールを設けていることがあります。お墓に花立を置いたままにすると、傷んだ花や水が周囲に迷惑をかけるためです。掲示板や案内を一度確認しておくとよいでしょう。
迷ったときの目安
行事の区切り(送り盆・法要・お彼岸の明け)を過ぎていて、花に傷みが出ているなら、下げてよいタイミングです。逆に、まだ生き生きしているなら、無理に急ぐ必要はありません。「枯れたものを放置しない」ということだけ守れていれば、日付そのものに神経質になることはないという考え方が一般的です。
🌸 お盆のお花を「美しく見送る」3つの作法
では、下げたお花をどう扱うか。昔から語られてきた見送り方を三つ、ご紹介します。どれかひとつが正解というものではなく、住まいの環境やお気持ちに合うものを選んでいただければと思います。
① 紙に包んで一般ゴミへ
もっとも一般的な方法。白い和紙や半紙で包み、「ありがとうございました」と心で唱えながら一般ゴミへ。お花への敬意の気持ちを大切に。
「ごみに出す」と聞くと気が引ける方も多いのですが、現代の暮らしではこれがもっとも現実的で、かつ社会的にも正しい方法です。ポイントは、そこにひと手間の作法を添えること。半紙や白い紙、なければ新聞紙でもかまいませんが、花をそのまま袋に入れるのではなく、いったん紙に包む。この一動作があるだけで、扱いがずいぶん違って感じられます。塩をひとつまみ振ってから包む、という習わしを持つ地域やご家庭もあります。
手順にすると、こうなります。
- 花瓶やお仏壇から花を取り出し、水気を軽く切る(濡れたままだと袋の中で傷みやすく、においも出ます)。
- ワイヤーやリボン、吸水スポンジなど、花以外のものを外す(詳しくは次の章で)。
- 半紙や白い紙に包み、ひと声かける。「ありがとうございました」でも、「おつかれさま」でも、心の中でかまいません。
- お住まいの自治体の分別ルールに従って、決められた日に出す。
この「ひと声かける」という部分に、宗教的な決まりはありません。手を合わせる方もいれば、何も言わずに静かに包む方もいます。作法というより、自分の気持ちの区切りをつけるための所作だと思っていただければ十分です。
② 送り火と一緒に焚き上げる
マンションでなく一軒家にお住まいなら、送り火の小さな炎と一緒に少しだけ焚き上げる方法も。ご先祖様と一緒に「あの世へ送る」象徴的な見送りに。
ただし、こちらはできる環境が限られます。現在の住宅事情では、庭で火を扱えるお宅のほうが少数です。また、自治体によっては野外での焼却について条例で制限を設けている場合があり、消防への配慮も必要です。集合住宅のベランダは論外として、戸建てであっても、風のある日や隣家との距離が近い場所では避けてください。焙烙(ほうろく)という素焼きの皿の上でおがらを少量燃やす、というのが伝統的なやり方ですが、量を増やせばそのぶん煙も火の粉も出ます。
実際的な代替として、お寺や神社で行われるお焚き上げ(供養焼却)に持ち込むという道もあります。ただしこれは、どこでも受け付けているわけではありませんし、受け付けの対象も「お札・お守り・人形」などに限られていることが多いものです。お花を受けていただけるかどうかは、必ず事前にお問い合わせください。
③ ドライフラワーや押し花にして残す
特別なお花だった場合、ドライフラワーや押し花にして残すのも素敵な見送り方。アルバムに貼ったり、額に入れたり。「お盆の思い出」として家族の記憶に。
ただし、すべての花がドライに向くわけではありません。ここは花屋として、はっきりお伝えしておきます。
- 向きやすいもの……もともと水分が少なく、花びらがしっかりしたもの。千日紅、スターチス、あじさい(秋色になったもの)、バラ、かすみ草、ユーカリなどの枝葉ものが代表的です。
- 向きにくいもの……水分が多く、花びらが薄いもの。ユリ、ガーベラ、チューリップなどは、乾かす途中で崩れたり、茶色く変色したりしやすい花です。仏花によく使われる菊も、大輪のものは中心に水分が残りやすく、きれいに仕上げるのは簡単ではありません。
作り方の基本は、風通しのよい日陰に逆さに吊るすこと。逆さにするのは、花の首がまっすぐのまま乾いて形が崩れにくいからです。直射日光に当てると紫外線で色があせるので、必ず日の当たらない場所を選びます。梅雨どきや真夏の湿度の高い時期は乾くまでに時間がかかり、そのあいだにカビたり茶色くなったりしやすいので、扇風機やサーキュレーターで風を送る、除湿機のある部屋に吊るす、といった工夫をすると仕上がりが安定しやすくなります。
押し花にするなら、傷みの少ない花びらを選んで、厚めの本に挟むだけでも作れます。花びら一枚、葉一枚でも、あの日の記憶は十分残せます。
なお、「お供えしたものを手元に残してよいのか」という点についても、考え方は分かれます。「気持ちがこもったものだから残してよい」という方もいれば、「供えたものは送り出すべき」という方もいます。ここも、ご家庭の考え方に従っていただくところです。
「川に流す」は、もうしてはいけません
お供えものを川や海に流す——精霊流し、灯籠流し、供物流し。日本各地に長く続いてきた美しい習俗です。ご年配のご家族から「昔は川に流したものだ」と聞いたことのある方もいるでしょう。
ですが、個人が花やお供えものを川や海に流すことは、現在では行わないでください。これは気持ちの問題ではなく、法律とルールの問題です。
理由その一:法律上、不法投棄にあたりうる
廃棄物処理法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)は、廃棄物をみだりに捨てることを禁じています。「家庭から出たわずかな量だから」「自然のものだから」という理由で例外になるわけではありません。河川敷や水辺は、実際に不法投棄が発生しやすい場所として行政が注意を呼びかけている場所でもあります。悪気がなくても、結果として法に触れる行為になりかねません。
理由その二:環境への負荷
花そのものは自然のものですが、現代の花束には自然に還らないものが必ずと言っていいほど混ざっています。針金(ワイヤー)、ビニールのテープ、ラッピングフィルム、プラスチックの留め具、そして吸水スポンジ。とくに吸水スポンジは水に浮きながら細かく砕けていく素材で、水辺に出せばそのまま散らばります。花だけを流したつもりでも、水の中には残るものが残ります。
実際、伝統行事として続いている灯籠流しでも、近年は環境への配慮から、下流で流したものを回収する方式に切り替えている地域が増えています。使う素材を見直したり、流す数を制限したりする取り組みも各地で行われています。つまり「流す文化」そのものが、時代に合わせて形を変えているということです。
理由その三:地域のルールがある
川や海は、誰かの管理する場所です。漁業権のある海域、水道の取水がある河川、条例で投棄が禁じられている水辺。地元で長く続く行事は、こうした関係先との調整の上に成り立っています。個人が同じことをしてよい、という話にはなりません。
「流す」という所作に込められていたのは、送り出す気持ちです。その気持ちは、紙に包んで手を合わせるという形でも、まったく同じように表せます。作法は形を変えられます。変えてはいけないのは、気持ちのほうです。
ごみに出すときの、正しい分け方
ここは、いちばん実務的なところです。分別のルールは自治体ごとに違います。必ずお住まいの市区町村のごみ分別表(冊子、あるいは公式サイトの検索ページ)で確認してください。そのうえで、多くの地域に共通する考え方を整理します。
花・葉・茎
植物そのものは、多くの自治体で「燃やすごみ(可燃ごみ)」として扱われます。地域によっては、生ごみ・剪定枝と同じ扱いだったり、量が多い場合に長さの制限があったりします。
出す前のひと手間として、水気をしっかり切ること。茎の中には意外なほど水が残っています。濡れたまま袋に入れると重くなり、においも出て、収集所でも扱いにくくなります。新聞紙に半日ほど広げておくだけでもずいぶん違います。長い茎は袋に収まる長さに切ると、袋も破れにくくなります。
吸水スポンジ(フローラルフォーム)
アレンジメントの器に入っている、緑色のあのスポンジです。お供えのアレンジメントには、まず入っていると思ってください。
これは植物ではなく樹脂でできた人工物です。素材によって扱いが変わり、可燃ごみでよい自治体もあれば、燃やせないごみに分類する自治体もあります。「よく分からないから花と一緒に」ではなく、必ず確認してください。メーカーの案内や、購入した花店に聞くという手もあります。
どの分類で出す場合でも共通するのは、水を切ってから出すということ。吸水スポンジは見た目以上に大量の水を抱えています。そのまま捨てると袋がずっしり重くなり、破れの原因にもなります。軽く握って水を出すか、数日乾かしてから出すのが親切です。ぼろぼろ崩れやすいので、新聞紙などにくるんでから袋に入れるとよいでしょう。
ワイヤー・リボン・フィルム・プラスチックの留め具
花束やアレンジメントには、思っている以上に「花以外のもの」が使われています。
- ワイヤー・地巻き線……金属です。茎の中に刺さっていたり、フローラルテープで巻かれていたりして見えにくいので、茎を触って硬いものが入っていないか確かめると見つけやすくなります。多くの地域で金属ごみや燃やせないごみの扱いです。
- リボン・ラッピングフィルム・セロファン……プラスチック製が主流です。自治体によってはプラスチック資源として回収します。
- 給水チューブ(茎の先についている小さな筒)……プラスチックです。ゴムのふたも一緒に外します。
- プラスチック製・陶器製の器……プラスチックの器は容器として、陶器の器は燃やせないごみや陶磁器類として。大きなものは粗大ごみ扱いになることもあります。
分けるのが面倒に思えるかもしれませんが、慣れれば数分の作業です。むしろ、この解体作業そのものが、お花との時間を締めくくる静かな時間になることもあります。
お供えの果物・お菓子・お団子はどうする?
お花と一緒に困りがちなのがこちらです。傷んでいなければ、家族でいただいてしまってよい、という考え方が広く知られています。「お下がりをいただく」という言い方をすることもあります。ただし夏場は傷みが早いので、無理はなさらず。食べられない状態のものは、生ごみとして自治体のルールどおりに処分してください。この点も宗派やご家庭で考え方が異なりますので、迷われたら菩提寺にご確認を。
花瓶と仏具を、きれいに戻す
花を下げたら、器を洗います。ここを飛ばして翌シーズンを迎えると、次のお花の持ちが目に見えて悪くなります。花瓶の内側に残った菌が、新しい水をすぐに濁らせてしまうからです。片付けと同時に洗ってしまうのが、いちばん効率的です。
ぬめりの落とし方
花瓶の内側のぬるぬるは、菌の膜(バイオフィルム)です。すすいだだけでは落ちません。手で触ってぬめりが消えるまで、物理的にこすり落とすのが基本です。
- 口の広い花瓶……スポンジと中性洗剤で内側を全面こする。底の角に残りやすいので念入りに。
- 口の狭い花瓶……手が入りません。ここで昔から使われるのが、粗塩やお米を少量と水を入れて振る方法です。粒が小さなたわしの役目をして、届かない内壁や底のカーブをこすってくれます。柄の長いボトル用ブラシがあれば、それがいちばん確実です。
- それでも落ちない汚れ……重曹と酸素系漂白剤を少量ずつ入れ、四十度から五十度ほどのお湯を注いでしばらく置いてから洗う方法があります。
ただし、漂白剤を使う前に必ず素材を確かめてください。金属製やアルミ製、塗りのあるもの、塩素系が使えない素材に漂白剤を使うと、錆びたり、変色したり、表面が傷んだりすることがあります。仏壇まわりの花立や花瓶は金属製のものが多いので、ここは特に注意が必要です。判断がつかないものは、洗剤とブラシだけにとどめておくのが安全です。
白い水垢が残るとき
ガラスの花瓶の内側にうっすら白い曇りが出るのは、水道水のミネラル分が固まった水垢です。こちらはアルカリではなく酸で落ちる汚れなので、クエン酸を溶かした水にしばらく浸けてから洗うときれいになりやすくなります。(塩素系漂白剤とクエン酸などの酸性のものは、絶対に混ぜないでください。)
金属の仏具は、慎重に
真鍮(しんちゅう)の花立や燭台がくすんでいたら、まずは乾いた柔らかい布で拭くところから。これだけでかなり印象が変わります。それでも落ちない黒ずみには、重曹を水で練ったペーストを塗って数分置き、柔らかい布で円を描くように優しく磨き、そのあと水かぬるま湯でしっかり洗い流して、乾いた布で水分を完全に拭き取る、という方法が紹介されています。水分が残ると、そこからまた変色します。
気をつけたいのは金メッキや漆塗り、色付けのしてある仏具です。研磨剤入りの磨き剤や重曹でこすると、表面の加工そのものを削り取ってしまうことがあります。取り返しがつきません。素材が分からない仏具、古いもの、ご先祖から受け継いだものは、乾拭きだけにとどめるか、仏具店に相談してください。「きれいにしようとして傷める」のは、お手入れでいちばん多い失敗です。
洗った花瓶は、伏せてしっかり乾かしてからしまいます。生乾きでしまうと、においやカビの原因になります。
まだ元気な花が残っていたら
行事は終わったけれど、菊もりんどうもまだしゃんとしている。捨てるには忍びない。よくあることです。
活け直してよいか、という考え方
これも、はっきりした決まりはありません。考え方は大きく二つです。
- 「供えたものは、供えたまま送り出す」という考え方。お供えは差し上げたものなのだから、途中で用途を変えるべきではない、という受け止め方です。丁寧なお家ほど、この考え方を大切にされることがあります。
- 「いただいたものを大切に使い切る」という考え方。お供えのお下がりを家族でいただくのと同じように、花も最後まで楽しませていただく、という受け止め方です。花を無駄にしないという点では、こちらも十分に筋の通った考え方です。
どちらが正しいということはありません。ご家族やご親戚の考え方、菩提寺の教えに合わせていただくのがよいと思います。もし活け直すのであれば、玄関や食卓など日常の場所に移すよりも、同じお仏壇のまわりや、故人を思う場所に置くほうが気持ちが落ち着く、という方もいらっしゃいます。
活け直すときの手順
残す場合は、ここでひと手間かけると持ちが変わります。
- 傷んだ花・葉をすべて外す。茶色くなった花びらを一枚残すだけで、周りの花の傷みが早まることがあります。
- 茎を切り戻す。切り口が茶色くなっていたり、ぬるぬるしていたら、それは菌に傷められている証拠です。数センチ切り上げて新しい断面を出します。水の中で切る「水切り」にすると、切り口に空気が入りにくく、吸い上げが戻りやすくなります。
- 水に浸かる部分の葉を取る。水中の葉は腐って水を汚す最大の原因です。
- 器はきれいに洗ったものを使う。古い水をそのまま足すのは、菌を足しているのと同じです。
- 水は浅めに。菊などの茎がしっかりした花は、深水よりも浅めのほうが水が傷みにくくなります。
落ちた花びらや葉
仏壇や床に散った花びらは、そのつど拾って、花と一緒にまとめておきます。乾いてしまうと粉のように崩れて掃除しにくくなるので、気づいたときに片付けるのがいちばん楽です。きれいな形で残ったものだけを取っておいて、押し花にする——という楽しみ方もあります。
次に備えて——お供えに向く花・避けたほうがよいとされる花
片付けの記事ですが、最後は「次」の話をさせてください。片付けをしながら「今回はこの花が早くだめになったな」と気づくことがあります。その気づきを、次のお供えに生かすのがいちばんもったいなくない使い方です。
ここでも先にお断りしておきます。以下は「一般にこう言われている」という話で、絶対の禁止事項ではありません。地域によって、宗派によって、そしてご家庭によって、まったく違う考え方があります。とくに「故人が好きだった花」は、多くの場合それ以上に優先されるものです。
よく使われる花
お供えの定番といえば菊です。花持ちがよく、香りが穏やかで、花びらが散りにくい。日本の夏の室内でこれだけ長くもつ花はそう多くありません。定番になるには理由があるということです。ほかに、りんどう、けいとう、カーネーション、スターチス、トルコキキョウ、そして枝ものではみそはぎなどがよく使われます。夏場は、より暑さに強い花を軸にすると、片付けの回数そのものが減ります。
色については、白・黄・紫を基調にするという言われ方をよくしますが、ピンクや淡い色を入れることも一般的です。四十九日を過ぎるまでは白を中心に、それ以降は色を入れてよい、とする考え方もあります。ここも地域差が大きいところです。
避けたほうがよいとされる花と、その理由
理由を知っておくと、「絶対だめ」ではなく「こういう配慮の話なのだ」と分かって、判断しやすくなります。
- とげのある花(ばら、あざみなど)……とげが「殺生」や痛みを連想させるため、と説明されます。また、お参りの方が手を傷つける恐れがあるという実際的な理由もあります。近年は、とげを丁寧に取り除いたばらであれば構わないとする考え方も広がっており、白いばらがお供えに使われることも珍しくなくなりました。
- 毒のある花(すいせん、すずらん、きょうちくとう、彼岸花など)……仏様に毒のあるものを供えるのはふさわしくないという考え方に加え、小さなお子さんやペットが誤って触れたり口にしたりする危険を避ける、という実用的な理由があります。
- 香りの強い花(オリエンタル系のゆり、ヒヤシンス、きんもくせいなど)……お線香の香りを邪魔してしまうためと言われます。狭い仏間で香りがこもると、お参りの方が気分を悪くすることもありますし、虫を寄せる原因にもなります。とはいえ、ゆりは葬儀や法要でごく一般的に使われる花でもあります。要は「場所と量による」ということです。
- つる性の花(あさがお、クレマチス、ジャスミンなど)……つるが絡むことを嫌う、という言い伝えによるものです。
- 一日でしぼむ花(むくげなど)……すぐに終わってしまうため、お供えとしては扱いにくい、という実際的な面もあります。
- 花首から落ちる花(つばきなど)……落ち方が縁起にそぐわないとされることがあります。
並べてみると、「縁起の話」と「実際に困る話」が半々くらいであることが分かります。とげは危ないし、毒は危ないし、強い香りは狭い部屋でこもる。昔の人が言い伝えの形で残した配慮が、そのまま今も通用しているわけです。
ですから、迷ったときの基準はひとつでよいと思います。「お参りに来る人が気持ちよく手を合わせられるか」。そこが満たされているなら、花の種類はもう少し自由に考えてよい、というのが今の一般的な受け止め方です。それでも心配なときは、菩提寺やご家族に一言おたずねください。
夏のお供え花を、少しでも長くもたせるために
お盆やお彼岸(とくに夏)のお供えは、花にとって一年でいちばん厳しい条件で置かれます。気温が上がれば水の中の菌は一気に増え、朝きれいだった水が夕方には白く濁っている——夏場にはごく普通に起こることです。ここを押さえておくと、片付けのタイミングも自然と遅くなります。
水替えは、夏は一日二回でも
ふだんは一日一回でも、真夏は朝と夕の二回が理想です。水を替えるときは、水だけ入れ替えるのではなく花瓶の内側も一緒に洗うのが大事なところ。ぬめりを残したまま新しい水を入れても、菌はすぐに元の数に戻ってしまいます。水温が上がると花は水を吸いにくくなるので、冷たい水を使う、氷をひとつ落とす、といった工夫も助けになります。
切り戻しをためらわない
茎の切り口が茶色くなったり、指でさわってぬるっとしたら、そこは菌に傷められています。その状態では、いくらきれいな水に挿しても吸い上げてくれません。思い切って一、二センチ切り上げて、新しい断面を出してあげてください。切れ味のよい花ばさみか、なければよく切れるはさみで、斜めに、すばやく。断面をつぶさないことが肝心です。水の中で切る「水切り」にすると、切り口に空気が入りにくくなります。
置き場所を見直す
直射日光の当たる窓辺は避けて、涼しく、風通しのよい日陰に。ただし、エアコンの風が直接当たる場所も避けてください。乾いた風に当たり続けると、花びらから水分が奪われて一気に傷みます。「涼しいところ」と「風が当たるところ」は違う、というのが夏のいちばんの落とし穴です。
もうひとつ、意外と見落とされるのが果物のそばです。熟した果物から出る成分が、花の老化を早めることがあります。お供えの果物と花を近くに置くのは、この意味では不利な組み合わせです。気になる方は、少し離してみてください。
延命剤と、造花という選択肢
切り花の延命剤(栄養と抗菌のはたらきを兼ねた液)は、夏場ほど差が出やすいものです。花を買ったときに小袋がついてくることも多いので、捨てずに使ってみてください。使うときは規定の濃度を守ること。濃くすれば効くというものではありません。
そして、造花(アートフラワー)を使うという選択肢も、いまはごく一般的になりました。遠方でなかなかお参りに行けない、お墓が屋外で夏はすぐに傷んでしまう、高齢で頻繁な水替えが難しい——そういう事情があるご家庭では、無理をして生花を枯らしてしまうより、造花のほうが結果として丁寧なお供えになることもあります。近年の造花は驚くほど精巧です。
ただし、「お供えは生花で」という考え方を大切にされる宗派・ご家庭もあります。造花を使う場合も、まずは菩提寺やご家族に一言おたずねいただくのが安心です。使う場合は、色あせやほこりを放っておかず、ときどき拭いて、傷んだら取り替える。造花にも造花の手入れがあります。
よくあるご質問
Q. 送り盆の日に下げそこねて、数日たってしまいました。
気に病むことはありません。気づいた日に、丁寧に下げてください。日付そのものより、傷んだものを長く置かないことのほうが大事だという考え方が一般的です。
Q. 生ごみと一緒の袋に入れてもいいのでしょうか。
自治体の分別上は問題ない場合がほとんどです。それでも気になるという方は、花だけを紙に包んでから同じ袋に入れる、あるいは別の袋にする、という方もいます。ここは決まりではなく、ご自分の気持ちが落ち着く形を選んでいただくところです。
Q. 庭に埋めてもいいですか。
ご自宅の敷地内であれば、そういう方もいらっしゃいます。ただし、必ず花と葉だけにしてください。ワイヤー、リボン、吸水スポンジ、ラッピングは土に還りません。量が多いと分解しきれずににおいや虫のもとになるので、少量にとどめるのが無難です。
Q. お墓に供えた花は、持ち帰るべき?
霊園や寺院のルールによります。「お参り後はお持ち帰りください」と決められているところが少なくありません。掲示や案内をご確認ください。ルールがない場合も、次に来るまで長く置くことになるようなら、持ち帰って処分するほうがまわりのご迷惑になりません。
Q. お盆用の提灯やお飾りは、どうすればいいですか。
繰り返し使うものは、乾いた布で汚れを落とし、湿気の少ないところにしまいます。使い切りのお飾り(おがら、ほおずき、まこもなど)は、お花と同じ考え方で、自治体のルールに従って処分するのが一般的です。地域によっては、お寺でまとめて引き受けてくださるところもあります。

「終わりを丁寧に」もお花への愛情の一つ。お盆のお花、心を込めて見送ってください。
お花を見送る、ということ
お花を下げたあとの仏間は、少しがらんとして見えます。あんなに色があった場所が、急に静かになる。あの感じが苦手だという方は、たぶん少なくありません。
けれど、その静けさもまた、行事の一部なのだと思います。迎えて、過ごして、送って、片付けて、また日常に戻る。花は、その流れをいちばん分かりやすい形で見せてくれる存在です。咲いて、開いて、少しずつ色を落として、終わる。四日間か、一週間か、その短さのなかに、ちゃんとひとつの時間があります。
半紙に包む、水を切る、花瓶を洗う、伏せて乾かす。どれも小さな手仕事です。けれどこの手仕事のあいだだけ、手を動かしながら、亡くなった方のことや、その日そこにいた家族のことを、静かに思い返せます。作法というのは、たぶんそのための時間なのでしょう。ごみに出すこと自体が失礼なのではなく、何も感じないまま出してしまうのが少し寂しい、というだけの話です。
そして片付けが終わったら、花瓶はきれいに洗って、乾かして、しまってください。次にお花を迎えるための準備は、もう始まっています。お彼岸も、月命日も、また巡ってきます。
行事のあとの、少し気の抜けた午前中。窓を開けて、花瓶を洗って、手を拭く。夏の光が、洗い上げたガラスに当たっている。それくらいの、静かな時間として過ごしていただけたら十分だと思います。
※本記事は日本の暦・季節文化を紹介するものです。気軽な参考としてお楽しみください。分別・処分の方法はお住まいの自治体のルールを、作法については菩提寺やご家族の習わしをご確認ください。
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