秋になると、店先でススキを束ねている時間が増えます。夏のあいだは背の高い枝ものが主役だった作業台に、細くて頼りない穂が並びはじめると、ああ今年も月の季節だな、と思います。
2026年の中秋の名月は、9月25日(金)です。ところが今年は少しややこしくて、天文学でいう満月はその2日後、9月27日の未明に訪れます。「名月なのに満月じゃないの?」と不思議に思われるかもしれません。これは間違いでも手抜きでもなく、暦のしくみからいえばごく自然に起きることです。
この記事では、まず「なぜ2日ずれるのか」を、算数の言葉をなるべく使わずにご説明します。そのうえで、お月見という行事がどこから来たのか、なぜススキを飾るのか、そしてススキという少し扱いの難しい草をどう生ければ長く楽しめるのかを、花屋の立場からまとめました。三方(さんぽう)も和室もなくても、月見の飾りは十分に成り立ちます。そのあたりも具体的にお話しします。
2026年の中秋の名月は9月25日(金)。満月は27日の未明
国立天文台の発表によると、2026年の中秋の名月は9月25日です。そして天文学上の満月、暦の言葉でいう「望(ぼう)」の瞬間は、9月27日の1時49分。日付にすると2日の開きがあります。
2026年の月見カレンダー
- 中秋の名月(十五夜)……9月25日(金)
- 満月(望)……9月27日(日)1時49分
- 十三夜(後の月)……10月23日(金)
名月と満月の日付がずれること自体は、実はよくあります。ただし2日もずれるのは少し珍しいことで、前回2日ずれたのは2017年、次に2日ずれるのは2043年だといわれています。今年はちょっとしたレアな年、ということになります。
とはいえ、心配はいりません。満月の2日前の月は、肉眼で見るぶんにはほとんど満月です。ほんのわずかに左側が欠けていますが、望遠鏡でもなければ気づかない程度の差です。むしろ、完全な満月よりも、わずかに欠けたところに影ができて、月の表面の凹凸が少しだけ立体的に見える、という見方もあります。
25日の夜、月はどのあたりに出るか
満月に近い月は、太陽と入れ替わるように動きます。日が沈むころに東の空から昇りはじめ、夜が更けるにつれて高く上がっていきます。東京では9月25日の22時半すぎに、ほぼ真南のいちばん高いところに来ます。高さは地平線から50度あまり。見上げる、というより、少し首を上げるくらいの位置です。
ですから、飾りを置く場所を考えるときは「東から南にかけての空が見える窓」を探すのが正解です。夕方から夜10時ごろにかけて、月は東から南へゆっくり移動していきます。西向きの部屋しかない場合は、深夜近くまで待つか、玄関先やベランダに出て東を向くことになります。
金曜日の夜、というのも今年は都合がよいところです。翌日の予定を気にせず、遅い時間まで月を眺めていられます。
なぜ名月と満月は2日もずれるのか
ここがこの記事のいちばん説明したいところです。少していねいに、順を追ってお話しします。
そもそも「中秋の名月」は暦の上の日付
中秋の名月とは、旧暦(太陰太陽暦)の8月15日の月のことです。「十五夜」という呼び名も、この「15日」から来ています。
旧暦は、月の満ち欠けを基準にした暦です。ルールはとてもシンプルで、新月の瞬間を含む日を、その月の1日(ついたち)にすると決まっています。新月のことを暦の言葉では「朔(さく)」といいます。「ついたち」という読み方が「月立ち」から来ているという説があるのも、この考え方の名残りです。
2026年の場合、9月11日が新月でした。ですからその日が旧暦8月1日。そこから数えて15日目が9月25日、つまり旧暦8月15日になります。これが今年の中秋の名月です。
ここで大事なのは、十五夜は「1日から数えて15日目」という、カレンダーの数え方で決まるということです。月がどれくらい満ちているかを見て決めているわけではありません。
いっぽう満月は「瞬間」で決まる
天文学でいう満月は、まったく別の決め方をします。地球から見て、月がちょうど太陽と正反対の方向に来た瞬間。それが満月です。日付ではなく、時刻まで決まる「瞬間」です。今年でいえば9月27日の1時49分がその瞬間にあたります。
つまり、十五夜と満月は、そもそも物差しが違うのです。片方はカレンダーの日数、もう片方は天体の位置。この二つがぴったり一致するほうが、むしろ偶然に近いということになります。
ずれの正体は、月の速さが一定でないこと
では、なぜ「15日目」が満月からずれてしまうのでしょうか。
新月から満月までは、平均するとおよそ14.8日かかります。「だいたい15日」なので、十五夜と満月はだいたい合う。ここまではよいのですが、この14.8日というのは、あくまで平均です。実際には、そのときどきで1日以上前後します。
理由は、月が地球のまわりを回る軌道が、きれいな円ではなく楕円(だえん)だからです。楕円ですから、地球に近づく時期と、遠ざかる時期があります。そして天体は、近いところでは速く動き、遠いところではゆっくり動きます。
身近なもので例えるなら、陸上競技のトラックを走るとき、カーブでは内側に寄って一気に加速し、直線に出ると少し落ち着く、という感じに近いかもしれません。月は一定のペースで回っているわけではなく、速くなったり遅くなったりしながら地球を一周しています。
そのため、「新月から満月まで」にかかる日数も、毎回すこしずつ変わります。月の動きが速い時期にあたれば13日台で満月になりますし、遅い時期にあたれば16日近くかかることもあります。今年はゆっくりめの時期にあたったため、15日目の9月25日はまだ満月には届いていない、というわけです。
もうひとつの要因——朔が「何時」に起きたか
ずれを生むもうひとつの事情があります。旧暦は「新月の瞬間を含む日」を1日にするので、新月が朝の6時に起きても、夜の23時に起きても、どちらもその日が1日になります。
もし新月が夜遅くに起きた場合、その日の大半は実質「まだ新月前」だったことになります。そこから15日目を数えると、月の満ち欠けの実感より、まる1日近く早い日付になってしまう。逆に新月が朝早い時刻なら、15日目は満月に近づきます。
この「日付に切り上げる」ことによる最大1日近いずれと、先ほどの「月の速さが一定でない」ことによるずれ。この二つが同じ向きに重なると、今年のように2日のずれが生まれます。ちなみに条件によっては名月のほうが満月より後になることもあり、いつも名月が先というわけではありません。
三行でまとめると
- 十五夜は「新月の日から数えて15日目」というカレンダーの決まりごと
- 満月は「月が太陽の正反対に来た瞬間」という天文の現象
- 月の速さが一定でないので、15日目が満月とは限らない
昔の人は、もちろん望の時刻など知りませんでした。それでも「十五夜」を大切にしてきたのは、正確な満月を見たかったからではなく、暦の節目としてその夜を祝ったからです。2日ずれていても名月は名月。そう思えば、気が楽になります。
お月見の歴史——中国の中秋節から、江戸の「芋名月」へ
お月見という行事は、日本で自然に生まれたものと、外から入ってきたものが、長い時間をかけて混ざり合ってできています。
中国の中秋節が伝わった
もとをたどると、中国の「中秋節」にいきつきます。旧暦8月15日に月を祭る行事で、いまも中華圏では月餅を贈り合う大きな節句として続いています。
これが日本に伝わったのは、平安時代のことといわれます。文献の上では、貞観元年(859年)に八月十五夜の宴が開かれた記録が残っているとされ、平安の貴族たちのあいだで「観月の宴」が広まっていきました。
平安貴族は、月を直接見なかった
おもしろいのは、当時の月見が「空を見上げる」だけの行事ではなかったことです。『源氏物語』にも月の宴の場面が描かれていますが、貴族たちは船を浮かべ、酒を酌み交わし、楽器を鳴らし、和歌を詠みました。
そして、盃に注いだ酒や、池の水面に映った月を愛でたといわれます。空の月をじかに見上げるのではなく、水や器に映った月を眺める。直接見ないことでかえって深く味わう、という感覚は、後の「無月」「雨月」を惜しむ心にもつながっていきます。
江戸で庶民の収穫祭になり、「芋名月」と呼ばれた
貴族の風雅な遊びだった月見が、庶民のものになったのは江戸時代です。ここで性格が大きく変わりました。詩歌の宴ではなく、収穫を感謝し、翌年の豊作を願う祭りになったのです。
ちょうどこの時期に収穫を迎えるのが里芋でした。そこで里芋を月に供える習わしが広まり、十五夜は「芋名月(いもめいげつ)」という別名で呼ばれるようになります。稲作が広まる以前、日本では芋類が主食に近い存在だった時代があり、その記憶がこの行事に残っているのだ、という説明もされます。
関西で月見団子を里芋のような形につくる地域があるのも、この流れをくむものだといわれます。関東では丸い団子を積むのが一般的ですが、地域や家によって作法はかなり違います。「うちのやり方と違う」と思われても、それはどちらかが間違っているのではなく、地域差だとお考えください。
十三夜(後の月)は10月23日。「片見月」を嫌う風習
お月見は、実は一度では終わりません。十五夜のおよそ一か月後、旧暦9月13日の月を「十三夜(じゅうさんや)」または「後(のち)の月」と呼んで、もう一度祝う習わしがあります。2026年の十三夜は、10月23日(金)です。
十五夜が中国から入ってきた行事なのに対して、十三夜は日本で生まれた風習だとされています。少し欠けた月——満月まであと二日ほどの、右側がわずかに丸みきらない月——を美しいとする感覚は、いかにも日本的です。
十三夜は「栗名月(くりめいげつ)」「豆名月(まめめいげつ)」とも呼ばれます。この時期に穫れる栗や枝豆(大豆)を供えたことに由来します。十五夜が芋、十三夜が栗と豆。供え物にその季節の収穫がそのまま出ているのが、農の行事らしいところです。
片方だけ見るのを「片見月」といって嫌った
江戸では、十五夜だけ見て十三夜を見ないことを「片見月(かたみつき)」「片月見(かたつきみ)」と呼び、縁起がよくないとして避けられました。「片付見」に通じるから、という言葉遊びのような説明も残っています。
もっとも、この風習には現実的な事情もあったようです。江戸の遊里・吉原の客寄せから広まったという説があり、十五夜に吉原で月を見た客は、片見月を避けるために十三夜にももう一度通わなければならない、という仕掛けだったといわれます。縁起かつぎと商売が、うまいこと噛み合っていたわけです。
いまとなっては、縁起の善し悪しを気にする必要はまったくありません。ただ「もう一度、秋の月を見る口実がある」と考えれば、悪くない習わしだと思います。十五夜のススキがまだもっていれば、栗を足すだけで十三夜の飾りになります。9月25日と10月23日、両方カレンダーに印をつけておくのをおすすめします。
お供えの意味と、なぜススキを飾るのか
月見の飾りには、団子・秋の実り・ススキという三つの要素があります。それぞれに理由があります。
月見団子——数には諸説ある
丸い団子は、月そのものを模したものといわれます。米でつくるのは、江戸時代に稲の豊作を願う意味が加わったからだと説明されます。
数については、いくつかの説があります。
- 15個……十五夜にちなむ。下から9個・4個・2個と積むのが一般的な並べ方とされます
- 12個……その年の満月の数、つまり1年の月数にちなむ。閏月のある年は13個にしたといいます
- 5個……簡略にして5個だけ供える形も広く行われています
十三夜には13個、または3個とする例もあります。どれが正解ということはなく、地域や家によって異なります。個数にこだわるより、お好きな数で気軽に用意されるのがよいと思います。
里芋・栗・枝豆——秋の実りをそのまま
里芋は、先ほどの「芋名月」の主役です。皮つきのまま蒸した「きぬかつぎ」を供える地域もあります。栗と枝豆は、どちらかといえば十三夜の供え物ですが、十五夜に一緒に並べてもかまいません。
要するに、その季節に穫れたものを月に見せて、無事に実ったことを感謝する。それが供え物の芯にある考え方です。ぶどうを添える家もあります。蔓(つる)のあるものは月とのつながりを願う、といういわれ方をすることもあります。難しく考えず、旬のものを少し並べる、で十分です。
ススキを飾る三つの理由
では、なぜススキなのでしょうか。よく挙げられるのは次の三つです。
ひとつめ、稲穂の代わり。本来なら実った稲穂を供えたいところですが、旧暦8月15日の時点では、まだ稲の収穫には早い。そこで、姿の似たススキを稲穂に見立てて供えたといわれます。垂れた穂の形が、たしかに稲によく似ています。
ふたつめ、依り代(よりしろ)。依り代とは、神様が降りてくるときの目印になるもののことです。月の神様がススキを目印に降りてくると考えられ、そのために立てて飾る、という説明があります。正式には1本だけ立てるのだ、という説もあります。
みっつめ、魔除け。ススキの葉は縁がぎざぎざしていて、切り口も鋭い。その鋭さが災いを退けると考えられ、供えたススキを軒先に吊るしておくと一年間病気をしない、と伝えられる地域もあります。
なお、こうした由来やお供えの作法は、地域や宗派によってかなり異なります。ここに書いたものが唯一の正解というわけではありませんので、ご家庭や地域の習わしがあれば、そちらを優先してください。
扱うときの注意
ススキの葉は、ふちに細かいぎざぎざがあります。束をつかんで引き抜くように動かすと、指をすっと切ってしまうことがあります。切れ味がよいので、痛みより先に血が出ていることも珍しくありません。持つときは葉をなでる向き(根元から穂先へ)に動かし、束ね直すときは手袋があると安心です。小さなお子さんに触らせるときは、葉ではなく茎を持たせてください。
ススキの扱い方——穂を開かせないために
ここからは実務の話です。ススキを買ってきたお客様から、いちばん多くいただくのが「穂がふわふわに開いてしまった」というご相談です。
なぜ穂が開くのか
ススキの穂は、花が咲いたあと、種を風に飛ばすために開きます。細い毛のついた種が、綿のようにふくらんでいくわけです。つまり、穂が開くのは傷んでいるのではなく、植物として正常な次の段階に進んでいるということです。
この変化は、乾燥が進むほど早くなります。暖かく乾いた部屋、エアコンや暖房の風が当たる場所、直射日光の入る窓辺。こうした環境では、一日二日で見違えるほどふくらむことがあります。開いたあとは、少しの振動でも綿毛が飛びはじめ、床にぱらぱら落ちます。
開かせにくくする方法(一般に言われているもの)
完全に止める方法はありません。ここは正直に申し上げます。「これをすれば絶対に開かない」という手は、残念ながら存在しないとお考えください。そのうえで、遅らせるためによく紹介されている方法をいくつかご紹介します。
- 買ってすぐ飾らず、涼しい場所で待たせる。お月見の当日か前日に買うのがいちばん確実です。1週間前に買って部屋に飾っておくと、当日にはふくらんでいる可能性が高くなります
- 暖房・エアコンの風を避け、直射日光を避ける。乾いた風は穂の開きを早めます。玄関の下駄箱の上など、涼しくて風の通らない場所が向いています
- 水を早めに抜いてドライにする。これは花屋のあいだでよく言われる方法です。水に挿しておくよりも、逆に早めに水から上げて自然乾燥させたほうが、形が保たれて散りにくい場合がある、といわれます。飾ってから数日で水を抜き、そのまま乾かしていく形です
- 酢を薄めた水、あるいはアルコールに切り口を浸ける。切り花全般の水揚げの方法として紹介されることがあります。ただし酢は入れすぎると茎の中の水の通り道が縮んで、かえって水が上がらなくなることがあるといわれます。使うとしてもごく薄く、2%程度までにとどめるのが無難です。ススキで確実に効果があるとまでは言えません
- ヘアスプレーを軽く吹く。穂を固めて綿毛の飛散を抑える目的で紹介されることがある方法です。近づけすぎると穂がべたついて色が変わることがあるので、離してごく軽く、が前提になります
いずれも「必ずこうなる」とお約束できるものではありません。効きめには個体差も環境差もあります。ひとつ確実なのは、買うタイミングを遅らせるのがいちばん効くということです。
水と日持ち
ススキを水に挿しておくと、水が濁りやすくなります。イネ科の草はどれもそうなのですが、茎から出るものが水を傷めます。濁った水はさらに茎の切り口を詰まらせるので、悪循環になります。
- 水は少なめ(器の底から5cmほど)で十分です。深く挿すと茎が腐りやすくなります
- 水替えは毎日か、少なくとも一日おきに。器の内側のぬめりも指で洗い流してください
- 水を替えるときに、切り口を1cmほど切り直すと水の通りがよくなります
- 水に浸かる高さの葉は、あらかじめ取り除いておきます
この手入れをすれば、穂の状態にもよりますが、涼しい場所でおおむね1週間前後は形を楽しめることが多いです。そのあとは無理に水に挿さず、乾かしてドライにしてしまうほうが、きれいなまま長く残ります。乾いたススキは、そのまま10月の十三夜まで持ち越せることもあります。
ススキが手に入らないときの代わり
ススキが売り切れていることも、そもそも近所で扱っていないこともあります。そういうときは、細長い穂のある草なら十分に代わりになります。
- エノコログサ(猫じゃらし)……道端で手に入ります。背は低いので、小さめの器で。何本か束ねると見栄えがします
- パンパスグラス……ススキをうんと大きくしたような穂。存在感が強いので1本で決まります。乾きやすく、そのままドライになります
- 稲穂……そもそもススキが代役だったわけですから、本物があるならこれ以上のものはありません。花屋で扱いのある時期です
- ミスカンサス、ベアグラスなどの細い葉もの……穂はありませんが、風に流れる線を出せます
- タカノハススキ(斑入りのススキ)……葉に横縞の入る園芸品種。庭にあれば使えます
河原や土手のススキを採ってくる方もいらっしゃいますが、河川敷や公園は管理者があり、勝手に採ってはいけない場所も多くあります。私有地では当然お断りが必要です。念のため申し添えます。
月に合わせる花——ススキだけでは、少しさびしい
ススキ一種でもきりっと決まりますが、そこに色のある草花を一種類か二種類足すと、ぐっと秋らしくなります。この時期に手に入りやすく、月見に合う花をご紹介します。
- 桔梗(ききょう)……澄んだ青紫。夜の光の下でも色が沈みすぎず、形もはっきりしています。ススキとの相性がとてもよい花です
- 女郎花(おみなえし)……黄色の小花が霞のように広がります。ススキの隙間を埋めるのに向いています。水が下がりやすいので、深水につけてから使ってください
- 藤袴(ふじばかま)……くすんだ淡い紫。乾くと桜餅のような香りが立つといわれます。あまり主張しないので、他の花を引き立てます
- 吾亦紅(われもこう)……えんじ色の小さな穂。細い線と点で構成されていて、ススキと組ませると景色になります。ドライにもなります
- りんどう……秋の切り花の定番。青紫が濃く、しっかりした茎で扱いやすい。長持ちする点でも安心です
- 秋明菊(しゅうめいぎく)……白や薄紅の一重の花。茎が細くしなやかで、ふわりと風をはらんだ姿になります。花もちはやや短め
- ホトトギス……花びらに紫の斑点が散る、変わった形の花。和の趣が強く、少量でも印象が残ります
お気づきかもしれませんが、この顔ぶれの多くは「秋の七草」と重なります。ススキ(尾花)、桔梗、女郎花、藤袴。月見の花と秋の七草は、もともと同じ土壌から出てきたものです。秋の七草についてはこちらで詳しく書いていますので、あわせてご覧ください。
色は、しぼったほうがきれいに見える
月見の飾りは、夜に見るものです。夜は色が沈みます。赤やオレンジのような強い色は暗いところでは黒っぽく見え、逆に白や淡い黄色はよく浮かびます。
ですから、色数を欲張らないほうがきれいにまとまります。目安としては、ススキ+色のある花1〜2種類。紫系(桔梗・りんどう)でまとめるか、白(秋明菊)を一点効かせるか、どちらかにしぼると失敗しません。
飾り方の実際——三方も和室もなくていい
「正式にはこう」と言われると身構えてしまいますが、家にあるもので十分に成り立ちます。
三方の代わりになるもの
三方(さんぽう)は、団子を盛る木の台です。持っているご家庭のほうが少ないでしょう。代わりになるものはいくらでもあります。
- 木や漆のお盆に、半紙か白い紙を敷いて団子を盛る
- 脚つきの菓子器、コンポート皿(脚のあるガラス皿)
- 白い平皿。シンプルなものほど団子が映えます
- 木の丸いカッティングボード。意外と合います
ポイントは、少しでも高さのあるものに載せることです。台に高さが出ると、それだけで「供えている」空気になります。器がなければ、平皿の下に本を一冊敷いて布をかける、でも成立します。
ススキを倒さない工夫
ススキは背が高く、穂のほうが重いので、とにかく倒れます。ここがいちばんの実務課題です。
- 器は重いものを選ぶ。陶器の壺、厚手のガラス、石の器など。軽いプラスチックやブリキの缶は、まず倒れます
- 器の口は狭く、丈は高く。口の広い器だと茎が四方に散って自立しません。徳利や一輪挿しのような、口の狭い縦長の器が向いています
- 剣山(けんざん)を使う。浅い水盤に剣山を沈めて挿すと、思いどおりの角度で固定できます。ススキの茎は中が空洞なので、剣山の針が刺さりにくいことがあります。そのときは茎を斜めに切るか、茎の下端に細い枝を差し込んで芯にすると刺さりやすくなります
- 重しを入れる。器の底に洗った小石やガラス玉を入れると、重心が下がって安定します。水も濁りにくくなります
- 高さは器の1.5〜2倍まで。これ以上長いとバランスが崩れます。思いきって切ってください。ススキは短くしてもさまになります
置く場所——月の見える窓辺に
床の間がなくてもかまいません。月が見える窓辺、それだけで十分に月見の場所になります。
おすすめは、東から南向きの窓のそばに小さなテーブルを寄せて、そこにススキと団子を並べる形です。窓を背にして飾るのではなく、窓に向かって飾ると、月とススキが同じ視界に入ります。夜、部屋の照明を落として、月あかりだけでススキの影が壁に伸びるのを眺める。これがいちばん贅沢な楽しみ方だと思います。
洋室でも問題ありません。白い壁に細いススキの線が入ると、むしろモダンに見えます。器を和のものにしなくても、シンプルなガラスや無地の陶器で十分です。テーブルに敷くものを、白い麻の布か、生成りのランナーにするだけで空気が変わります。
マンションのベランダから
ベランダに出て見上げるなら、室内の照明を消してから出るのがこつです。目が暗さに慣れるまで数分かかります。明るい部屋から出てすぐだと、月ばかりが白く飛んで、まわりの空の色が見えません。
ベランダに飾りを出す場合は、風に注意してください。ススキは軽いので、器ごと倒れることがあります。手すりの内側の、風の当たりにくい足元に置くほうが安全です。集合住宅では、落下したものが下の階に迷惑をかけることもありますので、置きっぱなしにせず、その夜だけにするのが無難です。
周りに建物が多くて月が見えない、という場合もあります。9月末の月は、日没後しばらくは低い位置にいます。時間が経つほど高く上がりますから、22時ごろまで待つと建物の上に出てくることがあります。あきらめる前に、少し遅い時間にもう一度出てみてください。
月が見えない夜と、夜に咲く花
最後に、月が出なかったときの話をしておきます。
「無月」「雨月」という言葉
日本語には、名月の夜に月が見えないことを表す言葉が、ちゃんとあります。
- 無月(むげつ)……名月の夜、曇って月が見えないこと
- 雨月(うげつ)……名月の夜が雨で、月が見えないこと
どちらも秋の季語です。見えないことを残念がるだけでなく、「雲の向こうがぼんやり明るい」その気配ごと味わう。そういう言葉として使われてきました。見えないものを惜しむ気持ちに名前をつけてしまうのは、この国の言葉のいいところだと思います。
9月下旬は、秋雨前線や台風の影響を受けやすい時期です。晴れないことは珍しくありません。もし25日が曇りでも、飾りを片づける必要はありません。翌日でも翌々日でも、月は空にあります。むしろ2日後の27日は暦の上の満月ですから、そちらで仕切り直すという手もあります。
月あかりで咲く花、夜に香る花
月が見えなくても、夜の植物は楽しめます。
月下美人(げっかびじん)は、その名のとおり夜に咲くサボテンの仲間です。日が落ちてから大きな白い花を開き、朝にはしぼんでしまう一夜花。ジャスミンに似た甘い香りが、驚くほど遠くまで届きます。開花は6月から10月ごろにかけてで、とくに秋は咲きやすいといわれます。鉢で育てていらっしゃる方は、名月の時期に蕾がふくらむこともあります。夜に咲く花を、夜の空の下で見る。これ以上に月見らしい組み合わせはないかもしれません。
夜の暗がりでよく見えるのは、白い花です。昼間は目立たない白が、暗くなるほど浮き上がってきます。秋明菊の白、白い桔梗、白の小菊。月見の飾りに白を一点入れておくと、照明を消したあとも花の位置がわかります。
香りでいえば、この時期はキンモクセイの走りにあたります。開花はおおむね9月中旬から10月下旬。年や地域によって前後しますが、名月のころにはもう、夜の風にあの香りが混じりはじめる年もあります。花の咲いている日数は3日から7日ほどと短いので、香った日が見ごろだと思ってください。夜、窓を開けて月を待っているときにふっと香ってきたら、それも秋のごちそうです。
中秋の名月は、9月25日の金曜日。満月は27日の未明で、2日ずれます。けれど、その2日を気に病む必要はありません。もともと十五夜は、月の丸さを測る行事ではなく、秋の実りに区切りをつけるための夜だったのですから。
ススキを一束、器に立てる。団子でも、なければ栗のお菓子でも、皿に載せて隣に置く。照明を落として、東の窓を見る。それだけで、その部屋は月見の座敷になります。特別な道具も、和室も、正しい作法もいりません。
穂を開かせない完璧な方法はありませんし、月が出ない年もあります。それでも毎年ススキを束ねるのは、うまくいかないことも含めて、秋という季節がそういうものだからだと思います。今年の名月は金曜日。少し夜更かしできる日です。
KIKYOYA FLOWERS
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