5月5日、こどもの日。スーパーや花屋さんの店先に、細長い濃い緑の葉が束になって並ぶ季節がやってきました。
「なんで端午の節句に菖蒲なんだろう?」——子どもの頃に思った素朴な疑問、大人になっても答えを知らずにいる方が多いのではないでしょうか。
今回は、5月5日と菖蒲の深い関係を、植物の性質からひも解いてみます。知れば知るほど、この細長い葉が愛おしく見えてくるはずです。
菖蒲と端午の節句——その意外な起源

端午の節句の起源は、古代中国にさかのぼります。旧暦の5月5日は、夏の始まりを告げる時期であり、湿気と熱が増して疫病が流行しやすい「毒気の季節」と恐れられていました。
そこで人々が用いたのが、強い香りを放つ植物・菖蒲(ショウブ)です。その独特の芳香が邪気を払うと信じられ、軒先に飾ったり、お風呂に入れたりする風習が生まれました。それが日本に伝わり、武家社会では「菖蒲」と「尚武(武道を重んじること)」の音が同じであることから、男の子の節句と結びついていったのです。
植物が持つ「香り」という力が、何千年もの時を越えて今日まで続く行事を作り上げた——そう思うと、菖蒲の葉を手にするだけで少し神妙な気持ちになりませんか。
「菖蒲」「アヤメ」「ハナショウブ」——この3つは別の植物です

ここで一度、混乱を整理しておきましょう。端午の節句で使われる「菖蒲(ショウブ)」は、アヤメ科ではなくサトイモ科の植物です。花は地味で目立たず、むしろ葉と根茎が主役。
- 菖蒲(ショウブ):サトイモ科。細長い葉に強い香り。花は小さく目立たない。端午の節句で使われるのはこれ。
- アヤメ:アヤメ科。紫の美しい花が特徴。乾いた土地を好む。
- ハナショウブ:アヤメ科。水辺に咲く大きな花。「菖蒲まつり」で見られるのはこちらが多い。
「いずれアヤメかカキツバタ」ということわざがあるように、見分けるのが難しいことで有名ですが、端午の節句の主役はサトイモ科の「ショウブ」。花より葉と香りに意味がある、珍しい植物です。
菖蒲が持つ本当の力——精油成分の秘密
「邪気払い」は迷信では、実はありません。菖蒲の根茎には「アサロン」「オイゲノール」などの精油成分が含まれており、現代の研究でも以下のような働きが確認されています。
- 血行促進:お風呂に入れると、皮膚から精油成分が吸収され、血の巡りを助ける
- 鎮静・リラックス効果:独特の清涼感ある香りが神経を落ち着かせる
- 殺菌・防虫効果:軒に飾ることで虫を遠ざける効果も
古代の人々が「邪気を払う」と表現したものは、今の言葉で言えば「抗菌・防虫・リラックス効果」だったわけです。先人の知恵の的確さに、改めて驚かされます。
菖蒲湯の正しい作り方——5月5日の夜に試してみてください

せっかくなら、今年は菖蒲湯をやってみませんか。思っているよりずっと簡単です。
- 花屋さんで「ショウブ(菖蒲)」を購入。5〜10本あれば十分です。
- 葉と根茎をよく洗い、束のまま浴槽に入れる。
- 熱めのお湯(42〜43℃)を張り、10〜15分ほどなじませる。
- 少しぬるくなったら入浴。葉を軽くもむと香りが立ちます。
ポイント:根茎(根の部分)が特に香り成分を多く含んでいます。葉だけでなく、根つきのものを選ぶと香りが格段に豊かになります。
お風呂上がりは、じんわりと体が温まり、清々しい気持ちになるはずです。子どもと一緒に入れば、植物の香りを身体で覚える、いい時間になると思います。
菖蒲を飾る——暮らしに取り入れる方法
- 軒先や玄関に吊るす:昔ながらのスタイル。葉を束ねて玄関扉や軒先に。防虫効果も期待できます。
- 花瓶に活ける:細長い葉のシャープな線は、シンプルな花瓶に一束入れるだけで凛とした空間を作ります。和室にも洋室にも馴染みます。
- 枕の下に敷く:「菖蒲枕」という風習も。5月4日の夜に枕の下に忍ばせると、良い夢が見られるといわれています。
今年の5月5日、菖蒲と過ごしてみてください
菖蒲は、花が目立つわけでも、育てやすいわけでもありません。でも、その香りと歴史には、他の植物にはない深みがあります。
5月5日という一日だけ、この細長い葉の束に少し注目してみてください。お風呂に浮かべて、深呼吸してみてください。何千年もの時を越えた植物の力が、静かに伝わってくるはずです。
桔梗屋でも、端午の節句に合わせた菖蒲をご用意しています。根つきのものもございますので、ぜひ今年の菖蒲湯に使ってみてください。

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