7月8日は入谷朝顔市の最終日。鉢で連れて帰った朝顔と、これから3ヶ月をどう楽しむか?家族で楽しむための過ごし方をご紹介します。
朝顔市は3日で終わりますが、朝顔そのものの季節はここからが本番です。うまく世話をすれば、七月の終わりから九月の初めごろまで、毎朝どこかの蔓の先で花が開きます。この記事は「市の最終日」をきっかけに書いていますが、内容はいつ読んでも使える「朝顔の育て方と楽しみ方」としてまとめました。今年の鉢の前で読んでも、来年の種まきの前に読んでも、そのまま役に立つはずです。
朝顔は、園芸の入口としてこれ以上ないほどよくできた植物です。育て方が単純で、育つ速度が速く、結果(花)が毎朝はっきり見える。しかも花が終われば種が採れて、翌年へつながります。「植物を育てるとはどういうことか」を、ひと夏でひと通り体験させてくれる。子どもの観察日記の題材に選ばれ続けているのには、ちゃんと理由があります。

朝顔は「家族の朝の合言葉」になるよ!「今日いくつ咲いた?」って毎朝の会話のきっかけになるんだ。
🌸 入谷朝顔市の歴史——江戸からの夏の風物詩
入谷の朝顔市は、江戸の末から明治にかけての朝顔づくりを源にもつ、東京の夏の風物詩。最盛期には百軒を超える朝顔売りが並んだとも伝えられ、現在の人出はおよそ10万人、資料によっては40万人とも紹介される、日本最大級の朝顔市です。
なぜ「入谷」だったのか——明治のころ、この地域には朝顔栽培の名人が多く住んでいたからです。当時の朝顔ブームを支えた「入谷の朝顔師」たちの伝統が、今も縁日として息づいています。
御徒町の下級武士から、入谷の植木屋へ
もう少し細かく辿ると、朝顔市の前史は江戸末期の文化・文政のころにさかのぼります。当時、御徒町(今の台東区南部)一帯には下級武士の住まいが集まっていて、その庭先で朝顔づくりが盛んに行われていました。石高の低い武士にとって、狭い庭でも取り組めて、腕次第で見事なものができる朝顔は、内職と趣味を兼ねた格好の対象だったといわれます。
やがて御徒町が市街として発展し、幕府の体制も終わりを迎えると、その栽培の技術は近くの入谷の植木屋たちへ受け継がれていきました。入谷の土が朝顔づくりに向いていたこともあって、ここで作られる朝顔は評判を呼びます。明治の中ごろには、通りを止めたり木戸銭(見物料)を取ったりして見せるほどの人気になり、明治二十四〜二十五年ごろが栽培の最盛期で、朝顔を手がける植木屋は十数軒を数えたと伝えられます。
一度は消え、戦後に復活した
意外に知られていないのが、入谷の朝顔がいったん途絶えていることです。地価の上昇や街の変化で植木屋が次々に廃業し、大正のはじめには入谷から朝顔栽培が消えてしまいました。今の朝顔市は、昭和二十三年(1948年)に、地元の有志と観光団体の手で戦後の復興行事として復活させたものです。
つまり、私たちが「江戸からずっと続く夏の風物詩」として親しんでいるあの賑わいは、一度失われたものを、地元の人がもう一度立ち上げ直したもの。三十数軒の朝顔業者と、百軒近い露店が言問通りに並ぶ光景の背景に、そういう来歴があると知ると、鉢ひとつの重みが少し変わります。
なぜ七夕の時期なのか——「牽牛花」という別名
朝顔市が毎年七月六日から八日という、七夕をはさむ三日間に開かれるのには理由があります。朝顔は古く中国から「牽牛花(けんぎゅうか)」という名で伝わり、種を「牽牛子(けんごし)」と呼びました。この「牽牛」が、七夕の彦星=牽牛星に重なる。だから七夕の時期に朝顔を愛でる、という結びつきが生まれたのです。
会場の中心にあるのは入谷鬼子母神(真源寺)。鬼子母神は子どもを守る神さまとして信仰されてきたお堂で、家族連れが朝顔を選びに来る縁日として、この組み合わせは実によく似合っています。夜明け前から鉢が並び、朝の光の中で花が開いていく——市そのものが「朝の行事」なのも、朝顔ならではです。

朝顔市は「江戸の人々が夏を迎える儀式」のような行事。鉢を一つ買って帰る、それだけで「夏が始まった」と感じる、季節の節目です。
🎨 江戸の朝顔ブームと「変化朝顔」という文化
入谷の話の背景には、江戸の人たちの尋常でない園芸熱があります。朝顔の大流行は大きく二度あったと整理されていて、一度目が文化・文政期(およそ1804〜1830年)、二度目が嘉永・安政期(およそ1848〜1860年)。江戸と大坂を中心に、木版刷りの朝顔図譜が何冊も出版され、品評会(花合わせ)に出た朝顔の優劣を相撲の番付のように並べた番付表まで刷られました。
このとき人々が競ったのは、大きくて整った花だけではありません。むしろ主役は「変化朝顔(へんかあさがお)」でした。花びらが細く裂けて糸のようになるもの、八重に重なって牡丹のようになるもの、葉の形が笹や柳のように変わるもの、雄しべ雌しべまで花びらに変わってしまうもの——ひと目では朝顔と分からない姿のものが、次々と生み出されました。
「種ができない花」をどうやって受け継ぐのか
変化朝顔の面白さと難しさは同じところにあります。もっとも変わった姿のもの(出物と呼ばれます)は、しべまで花びらに変化しているため、自分では種を作れないのです。ではどうやって受け継ぐのか。答えは、見た目は普通の朝顔だけれど変化の性質を内に隠し持っている株(親木)から種を採り、そこから育てた中に一定の割合で現れる変化株を選び出す、という方法です。
江戸の人たちは遺伝の仕組みが解明される前から、経験だけでこの理屈をつかみ、系統として維持していました。今の言葉でいえば劣性の形質を管理していたわけで、これは世界の園芸史のなかでも相当に早い達成だと評価されています。「朝顔は日本の遺伝学の教材になった」といわれるのも、この蓄積があったからです。
今も守られている江戸の朝顔
明治維新を境に朝顔熱は下火になり、さらに第二次世界大戦で多くの系統が失われました。散逸を免れたものを国立遺伝学研究所が集めて保存し、その系統は一九九三年に九州大学へ移されて、現在も研究材料として維持されています。夏には各地の植物園や博物館で「伝統の朝顔」「変化朝顔」の展示が行われ、江戸の人が見ていたのと同じ姿を、私たちも見ることができます。
朝顔市で売られている鉢の多くは、青・紫・桃・白といった見慣れた大輪の朝顔ですが、その背後にはこれだけの厚みがある。「ただの夏の花」ではなく、日本人が二百年かけて遊び倒した花だと思って眺めると、鉢のひとつひとつが違って見えてきます。
🌱 そもそも朝顔とは、どんな植物なのか
育て方の話に入る前に、相手の素性を知っておくと世話の勘どころが分かります。朝顔はヒルガオ科サツマイモ属のつる性の一年草。名前のとおり、あのサツマイモと同じ仲間です。畑のサツマイモの花を見たことがあれば、朝顔をそのまま小さくしたような姿に驚いたはずです。
薬として日本にやってきた
朝顔が日本に入ってきたのは奈良時代の終わりごろ、遣唐使が種を薬として持ち帰ったのが最初とされています。観賞用ではなく、まず薬用でした。種子は牽牛子(けんごし)という生薬で、強い下剤・利尿の作用があるとされ、むくみや尿の出が悪い症状に使われてきました。
⚠️ 種は口に入れないでください。朝顔の種は生薬として使われてきた歴史がありますが、それは専門家が量を管理して用いる場合の話です。作用が強く、素人が口にすると腹痛や吐き気などを起こすことがあります。小さなお子さんやペットのいるご家庭では、採った種は手の届かない場所で保管してください。「昔から薬に使われている=安全」ではない、という点だけは、家族で共有しておきたいところです。
「牽牛子」から「朝顔」へ
牽牛という名の由来については、この薬がたいそう貴重で、牛を牽いて(引いて)お礼にするほどだった、という話が中国の古い医書に見えます。日本では平安時代になるころから「朝顔」という和名が使われるようになりました。「朝の顔」——朝にだけ見せる顔、という意味あいで、これほど的確な名づけもありません。
ただし古い和歌に出てくる「あさがお」は、今の朝顔とは限らず、桔梗やムクゲ、ヒルガオを指していたという説もあります。植物の名前は時代とともに移り変わるもので、そのあたりの曖昧さも含めて、朝顔は日本の言葉と一緒に歩いてきた花だといえます。
日本朝顔と西洋朝顔——同じ「朝顔」でも性格が違う
お店で「朝顔」として売られているものには、大きく二つの系統があります。育て方の力の入れどころが変わるので、自分の鉢がどちらなのか見当をつけておくと役に立ちます。
- 日本朝顔……江戸以来改良されてきた系統。葉に細かな毛があり、三つに切れ込んだ形。つるの伸びはおとなしめで、行灯仕立ての鉢向き。七月ごろから咲きはじめ、盛りは真夏。朝顔市の鉢はたいていこちら。
- 西洋朝顔……ソライロアサガオなどの系統で、「ヘブンリーブルー」の名で知られる澄んだ青が代表格。葉に毛がなくハート形。つるがよく伸びるのでグリーンカーテン向き。咲きはじめが八月後半と遅く、そのぶん秋の遅くまで咲き続けます。
- 大輪朝顔……花の直径が20センチを超えるものもある、見せるために磨き上げられた系統。鉢と土と肥料の管理をきちんとするほど大きく咲きます。
「八月に入っても咲かない」と心配になる鉢が、じつは西洋朝顔だった、というのはよくある話です。品種の性質を知っていれば、待てばいいだけのことだと分かります。
⏰ なぜ朝に咲いて、昼にはしぼむのか
子どもに聞かれていちばん答えに詰まるのがこれです。「なんで朝に咲くの?」——太陽が昇るから、と答えたくなりますが、じつは違います。
開花の合図は「日没」——暗くなってから8〜10時間後
朝顔のつぼみは、前の日に暗くなってから、およそ8〜10時間後に開くことが分かっています(品種によって幅があります)。つまり朝顔が数えているのは「朝日」ではなく「日が沈んだ時刻」。暗くなった瞬間に砂時計をひっくり返して、時間が来たら開く、というイメージです。
この仕組みが分かると、面白い予測が立ちます。日の入りが遅い七月は開花も遅くなり、日の入りが早くなる九月には開花時刻がどんどん早まって、まだ暗いうちに咲いてしまう。実際、真夏は朝五時ごろ、九月には夜中の三時台に開いていることもあります。「朝顔なのに朝じゃない」——これは観察の題材として本当によくできています。
実験も簡単です。夕方、まだ明るいうちに鉢を段ボール箱でかぶせて暗くしてやると、その分だけ早く咲きます。逆に夜のあいだ明るい照明の下に置けば、開花はずれ込みます。植物が光を「見て」時間を測っていることを、道具なしで確かめられる数少ない例です。
つぼみを開かせているのは「水の力」
時間が来ると、花びらの細胞に水が送り込まれ、内側からぐっと押し広げる力が高まります。これがつぼみをほどく力です。朝は気温が低く空気も湿っているので、開いた花びらが乾きにくい。涼しい時間に開いて、涼しいうちに虫に来てもらう——受粉の相手が動いている時間に合わせた戦略だと考えられています。
しぼむときに色が変わるのはなぜ?
朝顔の花は、開いてから数時間でしぼみます。このとき、青かった花が赤紫っぽく変わっていくのに気づいたことはありませんか。あれは色素の性質です。
朝顔の花色のもとはアントシアニンという色素で、これは液の酸性度によって色を変えます。酸性で赤、中性で紫、アルカリ性で青。咲いているあいだ、花びらの細胞はエネルギーを使って液をアルカリ寄りに保ち、澄んだ青を出しています。しぼむというのは花びらの細胞が寿命を終えていく過程で、エネルギーが尽きるとアルカリを保てなくなり、細胞の仕切りもゆるんで中身が混ざり、全体として酸性側に傾く。結果として色が赤に寄る、というわけです。
「花がしぼむ」という日常の光景の裏で、こんなことが起きている。しぼんだ花を摘みながら子どもに話してやると、翌朝から花の見方が変わります。
🪴 朝顔の鉢、買った後にどう育てる?
- ☀️ 置き場所:午前中の日光が当たる場所(東〜南向き)
- 💧 水やり:朝にたっぷり、暑い日は夕方も
- 🌿 支柱:行灯仕立てを保つか、グリーンカーテンに変える
- ✂️ 摘心:本葉5-7枚で頂芽を摘んで花数アップ
- 🌱 追肥:液体肥料を週1回
要点は以上ですが、ここから一つずつ「なぜそうするのか」を添えて詳しく見ていきます。理由が分かっていると、天気や生育に合わせて自分で判断できるようになります。
まずは置き場所を決める
朝顔は日光が大好きです。基本は一日を通してよく日の当たる場所ですが、都会のベランダで真夏の西日を長時間浴びせると、鉢の中が高温になって根が傷みます。理想は午前中にしっかり日が当たり、午後の強い西日はやわらぐ場所。東向き、または南向きで午後に建物の影が入るあたりが扱いやすいです。
もう一つ大事なのが風通しと鉢の温度です。ベランダのコンクリートに直に鉢を置くと、照り返しで土が過熱します。すのこや鉢台で数センチ浮かせるだけで、根の環境がずいぶん楽になります。エアコン室外機の吹き出し口の前も避けてください。乾いた熱風が当たり続けると、葉がすぐに傷みます。
そして意外な落とし穴が夜の明かり。玄関灯、街灯、部屋から漏れる光が当たり続ける場所は、朝顔にとって「夜が来ない」場所です。理由は後の章で説明しますが、置き場所を決めるときは「夜、そこは本当に暗いか」も一緒に確かめておくと、あとで悩まずに済みます。
水やり——夏に朝夕2回になる理由
朝顔の世話の八割は水やりだと言っていいくらい、ここが要です。基本は「土の表面が乾いたら、鉢底から流れ出るまでたっぷり」。少量をちょろちょろ与えるのは、表面だけ濡れて底の根に届かないので、いちばんよくないやり方です。
真夏に朝夕2回が必要になるのは、朝顔が葉の面積のわりに鉢が小さい植物だからです。大きな葉を何十枚も広げ、そこから水をどんどん蒸散させる。晴れた真夏の日には、朝たっぷり与えた水を夕方までに使い切ってしまいます。行灯仕立ての5号鉢(直径15センチほど)なら、なおさらです。
- 朝:気温が上がる前にたっぷりと。これがその日の主食です。
- 夕方:日が傾いて涼しくなってから、土の乾き具合を見て。乾いていれば与えます。
- 日中の水やりは避ける:昼に与えると鉢の中が蒸れて、根を蒸し焼きにしてしまいます。どうしても日中に萎れきってしまった場合は、まず鉢ごと日陰へ移し、それから水を与えてください。
- 受け皿に水を溜めない:溜まった水は熱くなり、根腐れと蚊の発生源にもなります。
昼間に葉がぐったりしていても、夕方に涼しくなって回復するなら、それは一時的な自衛反応(葉を垂らして蒸散を減らしている状態)で、すぐに枯れるわけではありません。判断は朝にするのがこつ。朝の時点でしおれているなら、それは本当の水切れです。
旅行などで数日空ける場合は、鉢をまとめて明るい日陰に移し、大きめの受け皿に少し水を張っておく(腰水)方法があります。ただし高温期の腰水は根を傷めやすいので、二泊程度までの緊急策と考え、帰宅したらすぐ通常の管理に戻してください。
肥料——「効かせすぎない」のがこつ
買ってきた鉢には、しばらくのあいだ効く肥料が入っていることが多いので、届いてすぐ足す必要はありません。咲きはじめてから、薄めの液体肥料を週に一回くらいのペースが目安です。開花には体力を使うので、花が続く時期は補ってやるとよく咲きます。
ここで大切なのが肥料の中身。袋に「N-P-K」と三つの数字が書かれていますが、それぞれ窒素(葉と茎を作る)・リン酸(花と実を作る)・カリ(根と株を丈夫にする)です。朝顔で失敗しがちなのは、窒素が多い肥料を与えすぎて、葉ばかり茂って花が咲かなくなること。花を見たい時期はリン酸の割合が高い(真ん中の数字が大きい)肥料を選ぶと安心です。
そして「濃いほうがよく効く」は間違いです。規定より濃い液肥は根を傷めます。規定の倍率を守る、迷ったらむしろ薄めに。これは朝顔に限らず、鉢植え全般の鉄則です。
つるの誘引と、行灯仕立ての続け方
朝顔市で買う鉢の多くは行灯(あんどん)仕立て——三本ほどの支柱に輪をかけ、そこにつるを巻きつけた形です。この形は場所を取らず、正面から花がよく見えるようによくできています。
つるは伸びるのが速く、放っておくと輪から飛び出して空をつかもうと暴れます。数日に一度、伸びた先を輪に沿ってやさしく巻き直すのが誘引です。ここで一つ覚えておくと失敗しません——朝顔のつるは、上から見て反時計回りに巻くという決まった性質があります。逆方向に無理に巻きつけるとほどけたり折れたりするので、つるが自分から向かっている方向に沿わせてやってください。
つるは水を含んで硬く、引っぱると根元からぽきりと折れます。作業は茎がしなやかな夕方に、片手で支えながら少しずつ。巻ききれない分は麻ひもでゆるく八の字に留めると、茎を締めつけずに固定できます。
行灯がいっぱいになったら、二つの道があります。そのまま伸びた先を切り戻して形を保つか、ネットを張ってグリーンカーテンに切り替えるか。切り戻すと脇芽が出て、そこにまた花がつきます。カーテンにする場合は、ネットの下端を鉢やフェンスにしっかり固定してください。上だけ留めると風でネットごと揺れて、つるがちぎれます。
摘心(てきしん)——枝数を増やして花を増やす
朝顔の花は、主に脇から出た枝(子づる・孫づる)につきます。伸びる先端をそのままにしておくと、一本のつるが上へ上へ伸びるだけで枝分かれしません。そこで先端を摘んで枝分かれをうながすのが摘心です。
種から育てる場合は本葉が5〜7枚(本葉が10枚ほどになったころ、という目安もあります)で先端を摘み、出てきた脇芽を3本ほど伸ばします。すでに咲いている鉢を買ってきた場合は、無理に切る必要はありません。花が一段落して、つるが暴れはじめたころに先端を整える程度で十分です。
花がら摘み——毎朝の小さな習慣
しぼんだ花をそのままにしておくと、株は種を作るほうへ力を回します。種ができはじめると、次の花を咲かせる勢いが落ちる。だから、まだ長く咲かせたい時期は、しぼんだ花を摘み取ります。これが花がら摘みです。
やり方は簡単で、しぼんだ花を軽くつまんで引き抜くだけ。しぼんだ花びらが葉の上に落ちたまま濡れると、その部分が蒸れて傷むこともあるので、拾っておくと株がきれいに保てます。毎朝の水やりのついでに、しぼんだ花を摘む。この一分の習慣が、九月まで咲き続けるかどうかを分けます。
ただし、種を採りたいなら途中でやめること。日本朝顔なら株が弱りはじめる十月の一ヶ月ほど前、西洋朝顔なら十一月の一ヶ月ほど前を目安に花がら摘みを止め、そこから咲いた花に実を結ばせます。この切り替えのタイミングについては、後の章で詳しく扱います。

詳しくは入谷の朝顔市記事もどうぞ。「鉢を買って終わり」じゃなく「お迎えしてから2ヶ月の物語」を楽しんでください。
😥 よくある失敗と、その手当て
朝顔は丈夫な植物ですが、つまずき方には型があります。同じ相談が繰り返されるということは、原因もだいたい決まっているということ。代表的なものを順に見ていきます。
葉ばかり茂って花が咲かない(つるぼけ)
いちばん多い悩みです。葉は青々、つるは元気、でもつぼみが上がってこない。この状態は「つるぼけ」と呼ばれ、主な原因は二つあります。
原因その一・窒素過多。先ほど触れたとおり、窒素は葉と茎を作る成分です。これが多すぎると株は「まだ体を大きくする時期だ」と判断して、花に切り替えません。「元気がないから」と肥料を足すと、かえって咲かなくなるという逆転が起きます。心当たりがあれば、いったん肥料を止めて二週間ほど様子を見てください。それから、リン酸の多い液肥に切り替えます。
原因その二・夜が明るい。朝顔は短日植物——夜の暗い時間が一定より長くならないと、花芽(つぼみのもと)を作らない性質を持ちます。ところが現代の住まいの周りには、玄関灯、街灯、自動販売機、隣家の窓明かりと、光がいくらでもあります。夜のあいだずっと明るい場所に置かれた朝顔は、「まだ夏の盛りではない、昼が長い」と判断し続け、いつまでもつぼみを作りません。
目安として、一日に9時間以上、しっかり暗い時間が要ると言われます。対策は単純で、夜のあいだだけ光の当たらない場所へ移すか、段ボール箱や遮光の袋をかぶせて暗くしてやること。二週間ほど続けるとつぼみが上がってくることがあります。「咲かない朝顔は、夜を疑う」——これは覚えておいて損のない一行です。
なお、西洋朝顔はもともと咲きはじめが遅い系統です。八月半ばまで咲かなくても異常ではありません。「うちの朝顔だけ咲かない」と焦る前に、葉の形(毛のあるなし、ハート形かどうか)を確かめてみてください。
下の葉が黄色くなって枯れ上がる
つるの先は元気なのに、株元の古い葉から黄色くなって落ちていく。ある程度は自然な世代交代で、株が上の若い葉に養分を回している結果です。数枚ずつ静かに進むぶんには心配いりません。
ただし、急に広い範囲が黄色くなる場合は別で、考えられるのは次のあたりです。
- 水切れの繰り返し……いちど激しくしおれると、下葉から傷みます。水やりの回数を見直します。
- 根詰まり……小さな鉢に対して株が大きくなりすぎ、水を与えてもすぐ乾く状態。鉢底から根が出ていたら、ひと回り大きな鉢へ植え替えるか、水やりを増やして乗り切ります。
- 肥料切れ……咲き続けて体力を使い果たしたサイン。薄い液肥を足します。
- 根腐れ……受け皿に水を溜め続けた場合など。土がいつも湿っていて、しかも元気がないときはこちらを疑い、水やりを控えて風通しのよい場所へ。
アブラムシ・ハダニ・うどんこ病
アブラムシは、やわらかい新芽やつぼみに群れます。見つけたら手や布で払うか、勢いのある水流で洗い落とすのが基本。数が少ないうちなら、この物理的な対処でほぼ足ります。放っておくと葉が縮れ、べたつく排せつ物にすす病が出て黒く汚れます。
ハダニは、乾燥した高温期に大発生する、目に見えないほど小さな害虫です。サインは葉の表に出る白いかすり状の点。裏返すと細かい虫と、ひどいときには薄いクモの巣のような糸が見えます。ハダニは水に弱いので、葉の裏に霧吹きで水をかける——朝の水やりのときに葉裏を狙って洗い流すのが、いちばん手軽な予防になります。
うどんこ病は、葉に白い粉をふいたようになる病気で、風通しが悪く湿気がこもると出やすくなります。込み合った葉やつるを間引いて風の通り道を作り、傷んだ葉は取り除いて処分してください。株元に落ちた葉をそのままにしないことも予防になります。
いずれの場合も、薬を使う前にまず「風を通す・葉裏を洗う・傷んだ部分を取る」の三つを試してください。子どもが毎日触る鉢なら、なおさら薬に頼らない手当てから始めたいところです。薬剤を使うときは、必ず対象の植物と害虫が書かれたものを選び、使用量と回数を守ってください。
花が小さい・色が薄い
日照不足、肥料切れ、根詰まりのいずれか、あるいは重なりです。とくに大輪の朝顔は要求が高く、日と水と肥料が揃って初めて本来の大きさになります。また同じ株でも、暑さが厳しい真夏の花より、少し涼しくなった八月末から九月の花のほうが色が濃く出ることがあります。夏の盛りに色が冴えなくても、あきらめず秋まで付き合ってみてください。
🌰 種を採って、来年へつなぐ
朝顔を家族で育てるいちばんの醍醐味は、ここかもしれません。買った鉢が、来年の種になる。一年草である朝顔は、ひと夏で生涯を終える代わりに、次の年の自分をきちんと残していきます。
花がら摘みをやめる日を決める
種を採るには、しぼんだ花を摘まずに残して、実を育てさせる必要があります。切り替えの目安は、日本朝顔なら株が衰えはじめる十月の一ヶ月ほど前、西洋朝顔なら十一月の一ヶ月ほど前。それより早く全部の花がらを残してしまうと、その時点で株が種づくりに切り替わり、花の数が落ちます。「八月いっぱいは花を楽しみ、九月から種を採る」くらいの区切りが、日本朝顔なら扱いやすいでしょう。
採りどきの見分け方
花が終わっておよそ一ヶ月で、種は十分に熟します。合図は見た目にはっきり出ます。
- 実(さや)が緑から茶色にかわり、かさかさに乾く
- 実の下のがくが茶色くなって、外側に反り返る
- 振ると中でかさかさと音がする
ここで大事なのが放置しないこと。乾いた実は自分ではじけて、種を周囲にまき散らします。せっかくの種を逃さないよう、茶色くなったら順に収穫してください。実の下の茎をはさみで切り、手でさやを割ると、黒くて小さい、半月のような形の種が出てきます。一つの実におおむね6粒入っています。子どもと一緒に割ると、これがなかなか盛り上がります。
保存の仕方
採った種は、そのまま袋に入れるとかびます。風通しのよい日陰で、一ヶ月から二ヶ月しっかり乾かすのが先です。新聞紙や紙皿に広げ、ときどき混ぜてやるとむらなく乾きます。
十分に乾いたら、紙の封筒か袋に入れて採った年と品種(色)を書き、密閉できる袋に入れて冷蔵庫で保管します。温度が低く安定した場所なら、数年は発芽する力を保てるとされています。乾燥剤を一緒に入れておくとより安心です。「2026年 青い大輪 ○○のベランダ」くらいまで書いておくと、来年の春に袋を開けたとき、その夏の記憶ごと戻ってきます。
来年まく——「芽切り」というひと手間
朝顔の種は殻が硬く、そのまままくと水を吸えずに発芽がそろわないことがあります。そこで、まく前に殻に傷をつけて水を入りやすくするのが芽切りです。種の丸みのある側(へそ=白っぽいくぼみの反対側)を、紙やすりで軽くこすって薄く削るだけ。中の白い部分が少し見えたら十分です。爪切りの刃で軽く傷をつける方法もありますが、胚(芽になる部分)を切らないよう、へそのあたりは避けてください。
市販の種は、あらかじめ処理されているものも多いので、袋の説明を確認してから。まく時期は、遅霜の心配がなくなり気温が十分に上がった五月ごろが目安です。早くまきすぎると寒さで発芽がそろいません。
種ができないこともある
八重咲きなど花の形が大きく変わった品種は、しべが花びらに変化しているために種ができません。また、西洋朝顔は秋が深まってから咲くため、寒さが来るのが早い地域では種が熟しきらないことがあります。「種ができなかった」のは失敗ではなく、その品種の性質であることも多い、と知っておくと落ち込まずに済みます。
それから、朝顔は虫によって別の花の花粉がつくことがあります。採った種から育てた花が、親と違う色になることも珍しくありません。「来年、何色が出るか分からない」——これはむしろ楽しみとして受け取りたいところです。江戸の人たちがのめり込んだのも、まさにこの予測のつかなさでした。
👨👩👧 子どもと一緒に——観察と自由研究に育てる
朝顔が夏休みの定番になっているのは、毎日変化があって、記録が絵になるからです。ただ「観察日記をつけなさい」だと続きません。問いを一つ決めてから見ると、とたんに面白くなります。いくつか、うまくいきやすいテーマを挙げます。
その1・開花時刻を記録する
この記事でいちばん推したいのがこれです。毎朝、花が開いた時刻を記録し、同じ日の前日の日没時刻(新聞や気象の情報で分かります)と並べて表にします。七月から九月まで続けると、日没が早まるにつれて開花時刻も早まっていく——二本の線がきれいに並行するのが見えてきます。
ここまで来たら、引き算をしてみましょう。「日没から開花まで何時間か」を毎日計算すると、季節が進んでもその数字はだいたい一定(8〜10時間ほど)に保たれる。朝顔が測っているのは朝ではなく夜の長さだったと、自分のデータで示せます。小学生でも十分に届く、しかし大人が見ても感心する研究になります。
さらに一歩進めたいなら、鉢を二つ用意して、片方だけ夕方早くから段ボールをかぶせて暗くしてみてください。暗くした鉢のほうが早く咲くなら、仮説が確かめられたことになります。観察が実験に変わる瞬間です。
その2・花の色水で、酸性とアルカリ性を見る
しぼんだ花を集めて(花がら摘みのついでにできます)、ポリ袋に入れて少しの水と一緒にもみます。紫や青の色水ができたら、透明なコップに小分けして、片方にお酢、もう片方に重曹を溶かした水を数滴落としてみてください。
- お酢(酸性)を入れる → 赤〜ピンクに変わる
- そのまま(中性に近い) → 紫
- 重曹の水(アルカリ性) → 青〜青緑に変わる
色素のアントシアニンが、液の性質で色を変える様子がひと目で分かります。ここから「では、しぼむときに赤くなるのはなぜ?」という問いにつなげれば、花びらの中で起きていることの説明まで一本の線になります。台所の材料だけででき、写真映えもする、失敗の少ないテーマです。
石けん水など強いアルカリを使うときは、目に入らないよう気をつけて。実験に使った色水は飲まないこと、種は口に入れないこと。この二つだけ約束してから始めてください。
その3・つるはどちら回りに巻くのか
つるが支柱に巻きつく向きを、上から見て記録してみましょう。朝顔はいつも同じ向き(上から見て反時計回り)に巻きます。逆向きに巻き直しても、しばらくすると自分の向きに戻ろうとする。「植物なのに向きを知っている」という事実は、子どもにとって相当な驚きです。
ついでに、つるの先端が空中でゆっくり円を描いて回っていること(回旋運動といいます)も観察できます。数十分に一度、写真を撮って並べると、支えを探して手を伸ばしている様子が見えてきます。
その4・毎朝の「いくつ咲いた?」を数字にする
いちばん簡単で、いちばん長続きするのがこれです。毎朝の開花数をカレンダーに書き込むだけ。ひと月分たまると、天気の悪い日の後に数が落ちる、暑さのピークで一度減って、涼しくなるとまた増える——といった波が見えてきます。天気(晴れ・曇り・雨)と最高気温を横に書き添えておくと、それだけで立派なデータになります。
そして何より、これは家族の会話になります。「今日いくつ?」「三つ!」——その一往復のために鉢がある、と言ってもいいくらいです。
🍂 夏の終わり、片付けと来年の準備
九月の半ばを過ぎると、花の数が目に見えて減り、葉も色を失ってきます。一年草ですから、これは弱ったのではなく、役目を終えつつある姿です。ここで無理に肥料を足して引き延ばそうとするより、静かに終わらせてやるほうが、来年につながります。
- 種を採り終える……茶色くなった実を残らず収穫します。取りこぼした種は翌年勝手に芽を出すこともありますが、ベランダでは排水口に流れ込むので拾っておきましょう。
- つるを片付ける……根元から刈り取り、支柱やネットからつるを外します。乾いてからのほうがはるかに楽です。
- 支柱・鉢を洗う……害虫の卵や病気のもとを翌年に持ち越さないよう、水でよく洗って乾かしてしまいます。
- 土は再生させるか処分する……使った土をそのまま来年も使うと、生育が落ちやすくなります。ふるいで根を取り除き、再生用の土壌改良材を混ぜて休ませるか、自治体のきまりに従って処分してください。
そして、乾かした種を封筒に入れて、日付を書いて、冷蔵庫の隅へ。これで一年の輪がひとつ閉じます。春になって袋を開けるとき、ああ去年の夏はこの鉢の前でよく話したな、と思い出す。朝顔を育てるというのは、そういう時間の作り方でもあります。
🌅 朝、いちばんに見にいく花
朝顔のいいところは、こちらが早起きしないと会えないことだと思います。昼まで寝ていたら、その日の花はもうしぼんでいる。だから朝いちばんにベランダへ出る。水をやる。しぼんだ花を摘む。つるを一巻き直す。それだけの数分が、夏のあいだ毎日続きます。
江戸の人が夜明け前の縁日に出かけて鉢を選んだのも、明治の入谷が朝の見物客でごった返したのも、根っこは同じでしょう。朝にしか見られないものがあるという、ただそれだけのことのために、人は早起きをします。
市の三日間が終わっても、鉢の中の夏はまだ始まったばかりです。花の数が増える日があり、減る日があり、やがて実が茶色くなって、種になる。その全部を家族で見届けられるのが、朝顔という花のいちばんの贈りものだと思います。今年の一鉢が、来年の一袋になりますように。
KIKYOYA FLOWERS
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