朝晩の風にすこしだけ涼しさが混じりはじめると、お店の電話やカウンターで「お彼岸のお花、いつ頃がいいですか」という言葉が増えてきます。お彼岸は、毎年かならず来るのに、いざ近づくと「今年はいつだったか」「どんな花を、何本買えばいいのか」と迷ってしまう行事です。
この記事では、2026年の秋のお彼岸の日程をはっきりさせたうえで、お供えの花の選び方、買うタイミング、お墓と仏壇での供え方の違い、そして残暑が残る年に少しでも長く保たせるための手入れまでを、順番に整理していきます。読み終えたときに「今年はこれを、この日までに買えばいい」と決められることを目指しました。
なお、お彼岸の作法は宗派や地域、そしてご家庭ごとの習わしによってかなり違います。ここに書くのはあくまで「一般的にはこうされています」という目安です。迷われたときは、菩提寺(ご先祖のお墓や位牌をお願いしているお寺)やご家族の年長の方に確かめていただくのがいちばん確実です。
2026年の秋のお彼岸は、9月20日から9月26日までです
まず日程です。2026年の秋のお彼岸は、次のようになります。
2026年 秋のお彼岸
- 彼岸入り(ひがんいり):9月20日(日)
- 中日(ちゅうにち)=秋分の日:9月23日(水・祝)
- 彼岸明け(ひがんあけ):9月26日(土)
合計7日間。土日をはさむので、お墓参りの日程は組みやすい年です。
秋分の日は「毎年9月23日」と決まっているわけではありません。前年の2月に国立天文台が官報で発表する「暦要項(れきようこう)」という資料によって、その年の秋分の日が確定します。2026年については、秋分の日は9月23日(水曜日)と発表されています。太陽の動きにもとづいて決まるため、年によって22日になったり23日になったりするのです。
「入り」「中日」「明け」はどういう意味か
お彼岸は、春分の日・秋分の日を真ん中にして、その前後3日ずつを合わせた7日間を指します。真ん中の日を中日、最初の日を彼岸の入り、最後の日を彼岸明けと呼びます。
中日は、ご先祖に感謝をする日とされています。前後の6日間は、仏教で説かれる六波羅蜜(ろくはらみつ)という六つの心がけ——おおまかに言えば、与えること、決まりを守ること、耐えること、努めること、心を落ち着けること、正しく見ること——を1日にひとつずつ行う期間とされてきました。ただしこれも解釈のひとつで、今日では「7日間のうちの都合のよい日にお参りをする」というご家庭がほとんどです。
お墓参りをいつ行くかについても、「中日に行かなければならない」という決まりはありません。中日は道路も霊園も混み合いますので、前後の日を選ばれる方も多くいらっしゃいます。
そもそも「お彼岸」とは何なのか
お花選びの前に、少しだけ言葉の話をさせてください。由来を知ると、選ぶ基準がなんとなく腑に落ちるからです。
「彼岸」はサンスクリット語からきた言葉
「彼岸」は、古代インドの言葉であるサンスクリット語の「パーラミター(波羅蜜多)」を漢語に訳した「到彼岸(とうひがん)」を略したもの、とされています。パーラミターには「完成する」「成し遂げる」といった意味があり、迷いや苦しみから離れて、悟りの境地に至ることを表すと説明されます。
仏教では、迷いや悩みを抱えたまま生きているこちら側の岸を此岸(しがん)、そこを渡りきった向こう岸を彼岸と呼び分けます。つまり「お彼岸」という言葉そのものは、本来は季節の行事の名前ではなく、目指すべき境地を指す言葉だったわけです。
なぜ春分・秋分をはさむ7日間なのか
春分の日と秋分の日は、太陽がほぼ真東から昇り、ほぼ真西に沈みます。仏教では、阿弥陀如来のいる極楽浄土は西の方角にある(西方浄土)と説かれてきました。そこで、真西に沈んでいく太陽を拝み、その先にある彼岸を思う——という考え方が生まれた、とされています。沈む夕日に向かって心を澄ませる「日想観(にっそうかん)」という修行の作法も、この時期と結びつけて語られます。
加えて、春分と秋分は昼と夜の長さがほぼ等しくなる日です。偏りのない、ちょうど中間の日であることも、仏教の「中道」の教えと重ねて説明されることがあります。
彼岸会は日本で育った行事
意外に思われるかもしれませんが、お彼岸にご先祖を供養するという行事は、日本独自の風習とされています。仏教が生まれたインドにも、伝わってきた中国にも、春分・秋分にこうした法要を営む習慣は見あたらない、と説明されることが一般的です。
記録の上での最初は古く、平安時代のはじめ、806年(大同元年)にさかのぼるとされます。歴史書『日本後紀』に、崇道天皇(早良親王)のために、春分・秋分の前後7日間にわたって金剛般若経を読誦させたという趣旨の記述があり、これが彼岸会(ひがんえ)のはじまりと考えられています。その後、朝廷の年中行事となり、庶民のあいだにお墓参りの習慣として広く根づいたのは江戸時代の中期ごろからだといわれます。
つまり今のお彼岸は、仏教の教えと、日本にもともとあった祖先を敬う気持ちや農耕の節目の感覚とが、長い時間をかけて溶け合ってできあがったものだと考えられています。だからこそ、地域ごと・家ごとの違いがとても大きいのです。
お供えの花の選び方——本数・色・避けたほうがよいとされる花
ここからが本題です。花屋の店先で迷わないよう、判断のものさしを三つに分けて整理します。
本数は「奇数」が一般的とされています
お供えの花束は、3本・5本・7本といった奇数でまとめるのが一般的とされています。理由としてよく挙げられるのは、古くから奇数が縁起のよい数と考えられてきたこと、そして偶数は割り切れてしまう=「別れ」を連想させるため避けられてきたこと、といった説明です。
ただし、これも絶対の決まりではありません。四十九日の祭壇など場面によっては偶数でも構わないとされることがありますし、地域によって考え方が異なります。花屋で仕立てるお供え用の花束は、たいてい最初から奇数になるよう組まれていますので、あまり神経質にならなくてよい部分です。
本数よりも実際に効いてくるのは長さです。お墓の花立てはご家庭の墓所によって深さが違いますし、仏壇の花立ても大きさがまちまちです。花束が長すぎると倒れやすく、短すぎると花立てに沈んでしまいます。お求めのときに「墓前用です」「仏壇用です」とひとこと伝えていただければ、こちらで長さを調整できます。
色は「四十九日の前後」で考え方が変わるとされています
色については、故人が亡くなってからの時間で目安が変わる、と説明されることが多いです。
- 四十九日を迎える前……白を基本にまとめるのが一般的とされています。白菊、白い洋菊、白いカーネーション、白い胡蝶蘭など。色を入れる場合も、淡い紫や淡い青、ごく淡いピンクといった控えめな色にとどめる、という考え方です。
- 四十九日を過ぎたあと……白だけにこだわらず、淡い色を加えてよいとされます。黄色、紫、ピンク、薄い緑などがよく使われます。年数が経つほど、明るい色を選ばれるご家庭が増えます。
秋のお彼岸は、多くの場合すでに四十九日を過ぎたご先祖へのお参りですので、季節を感じる色を入れて構いません。りんどうの青紫、けいとうの深い赤、小菊の黄——秋らしい色でまとめると、お墓の前がぐっと落ち着いた雰囲気になります。
ただし、亡くなられて日が浅い方がいらっしゃる場合や、四十九日・一周忌といった法要と重なる場合は、白を基本にされたほうが無難です。この点も、ご家族やお寺の考え方を優先してください。
避けたほうがよいとされる花と、その理由
「これは供えてはいけない」と言い切れるものはほとんどないのですが、昔から避けられてきた花には、それぞれ理由があります。理由を知っておくと、判断しやすくなります。
- 棘のある花(バラ、アザミなど)……棘が殺生や傷を連想させるため避けられてきた、とされています。お手入れをする方が手を傷つけやすい、という実際的な理由もあります。どうしても供えたい場合は、棘をていねいに取り除いてから、という考え方もあります。
- 毒のある花(スイセン、スズラン、彼岸花など)……仏前に毒を持つものを供えるのは避ける、とされています。小さなお子さんやペットが触れる可能性も考えると、避けておくのが安心です。
- 香りの強い花(ユリの一部、フリージア、一部の香りの強い品種)……線香の香りとぶつかる、閉め切った室内でこもる、といった理由が挙げられます。ユリは仏花として広く使われる花でもありますので、供える場合はおしべを取り除いておくと、香りが落ち着き、花粉で衣服や墓石を汚す心配も減ります。
- つる性の花(アサガオ、クレマチスなど)……つるが絡みつく姿から連想されるものを避ける、という考え方があるほか、水あげが難しく日持ちしにくいという実際的な事情もあります。
- 花びらがぼとりと落ちる花(椿など)……花が首から落ちる姿が縁起よくないとされ、避けられることがあります。
いずれも「昔からそう言われている」という性質のもので、宗派として明確に禁じているわけではないことがほとんどです。地域によっては、避けられているはずの花を当たり前に供える習慣がある土地もあります。
秋のお彼岸によく使われる花と、その扱い方
実際に店先に並ぶ、この時期の定番を挙げていきます。日持ちの目安は、置き場所と気温でずいぶん変わりますので、あくまで室内で手入れをした場合のおおよその感覚としてお読みください。
菊(輪菊・小菊・スプレーマム)
お供えの花の中心になる存在です。ひと茎に大きな花をひとつ咲かせる輪菊(りんぎく)は、花束の軸として真ん中に据えるとかたちが決まります。小ぶりの花をたくさんつける小菊は、隙間を埋めて全体をふっくら見せてくれます。スプレーマムは洋風に改良された菊で、色数が豊富。ポンポンのように丸いもの、花びらが細いもの、緑がかったものなどがあり、「仏花らしさ」を少しやわらげたいときによく使われます。
日持ちは切り花の中でも際立っており、手入れをすれば2週間ほど、条件がよければそれ以上もつことがあります。茎が硬いので、切るときは水の中で斜めにすっぱりと。下のほうの葉は水に浸からないよう、指でしごいて落としておきます。
りんどう
秋の花としてはいちばん出番の多い花のひとつです。青紫の落ち着いた色が、菊の白や黄色と並んだときにきれいに引き締めてくれます。日持ちも比較的よく、1週間から10日ほど。つぼみが多めのものを選ぶと、供えてから徐々に開いていきます。
葉が茂っているので、そのままにすると水を吸い上げる負担が大きくなります。下葉を少し整理してから活けると持ちがよくなります。
けいとう(鶏頭)
ビロードのような質感の、赤やオレンジ、ピンクの花。名前のとおり鶏のとさかに似た形のものと、槍のように尖った形のものがあります。秋の光によく映える色で、花束に一本入るだけで季節感が出ます。日持ちはよいほうですが、茎が水を汚しやすい花でもありますので、水替えはこまめに。
スターチス
紫や白、黄色の小さな花が房になってつく花。花びらのように見える部分がかさかさと乾いた質感で、水がなくなっても縮みにくいのが特徴です。お供えの花の中でも群を抜いて日持ちするため、次にお参りに来られるまで日が空くお墓には、とても向いています。そのままドライフラワーになっていくほどです。花束の中で、他の花が終わったあとまで残ってくれます。
カーネーション
母の日の花という印象が強いかもしれませんが、お供えにもよく使われます。白やクリーム、淡いピンク、緑がかった品種など、落ち着いた色のものを選べば違和感がありません。日持ちは1週間から10日ほど。茎の節(ぷっくりふくらんだ部分)のすぐ上で切ると、水を吸いやすくなります。
グラジオラス
まっすぐ伸びた茎に、下から順に花が咲き上がっていく花。背が高いので、大きめのお墓や、床に置く花瓶に見栄えがします。下の花が終わったら摘み取っていくと、上のつぼみが順に開いていき、長く楽しめます。ただし、背が高いぶん風で倒れやすいので、風の強い日の墓前には向きません。
ミソハギ(禊萩)
細い茎に紅紫の小花を穂のようにつける、和の風情のある花です。盆花(ぼんばな)精霊花(しょうりょうばな)といった別名を持ち、古くから仏事と縁の深い花とされてきました。お盆に、この花に水を含ませて精霊棚を清めたことから「みそぎ萩」と呼ばれるようになった、という説があります。
出回りの中心はお盆の時期ですが、秋のお彼岸のころにも見かけることがあります。野の花らしい姿なので、菊だけの花束が少し硬く感じられるときに、やわらかさを添えてくれます。
なぜ菊が「お供えの花」の代表になったのか
これはよく尋ねられる質問ですが、はっきりした一つの答えがあるわけではなく、いくつもの説が重なって語られています。よく挙げられるのは、次のような理由です。
- とにかく日持ちがする……水に挿しておくだけで2〜3週間もつことも珍しくありません。急な葬儀にも間に合わせられ、お墓に供えたあとも長く保つ。この実用性がいちばん大きい、という見方です。
- 香りが穏やかで、お香に通じる……菊の独特の香りが線香とぶつからず、むしろなじむ、という説明があります。強い香りが邪気を祓うと考えられてきた、という言い伝えもあります。
- 格の高さ……菊は皇室の紋章に用いられ、日本を代表する花として扱われてきました。そのため厳粛な場にふさわしいとされた、という説です。
- 不老長寿の言い伝え……菊には長寿をもたらすという古い伝承があり、九月九日の重陽の節句には菊を用いる風習が伝わっています。
- 明治以降に定着したという見方……葬儀に菊を使う習慣そのものは比較的新しく、明治時代以降に広まったとする説明もあります。ヨーロッパで菊を弔いの花とする文化があり、それが影響したのではないか、という説も紹介されています。
どれが正解ということではなく、こうした要素が積み重なって「お供えといえば菊」という感覚ができあがっていったのだと思われます。花屋の立場から言えば、やはり日持ちの良さが決定的です。次にお参りに来られるまで、いちばん長くきれいでいてくれる花なのです。
菊以外を選んでもよいのでしょうか
結論から申し上げると、問題ないとされています。菊でなければならないという決まりは、多くの宗派にはありません。実際、最近は「故人が好きだった花を供える」という考え方が広く受け入れられるようになりました。バラが好きだった方に棘を取ったバラを、ひまわりが好きだった方に季節が合えばひまわりを、という選び方をされるご家族もいらっしゃいます。
ただ、二つだけ心に留めておいていただきたいことがあります。ひとつは、ご親族の中に伝統的な作法を大切にされる方がいらっしゃる場合は、ひとこと相談しておくと角が立ちません。もうひとつは、共同墓地や合祀のお墓など、他の方も参られる場所では、あまり個性の強い花は控えめにされたほうがよい場合がある、ということです。
迷われたときは、菊を軸にして、そこに故人の好きだった花を一本添える——という組み方が、いちばん収まりがよいように思います。
いつ買うか、どこに供えるか
買うのは「彼岸入りの前」がおすすめです
2026年でいえば、彼岸入りは9月20日(日)。その前日までに手に入れておくのが、いちばん落ち着いて選べます。理由は三つあります。
- 花屋がいちばん混むのは、彼岸入りから中日にかけてです。20日から23日はどこの花屋も慌ただしく、品数も動きます。ゆっくり相談しながら選びたい方は、19日(土)までにお越しいただくと、じっくり組めます。
- 希望の花が揃いやすい……りんどうやけいとうといった秋の花は、お彼岸の中日に近づくほど動きが早くなります。特定の色や花を決めていらっしゃる場合は、早めのほうが確実です。ご予約をいただければ、当日のお渡しに合わせてご用意できます。
- お参りの前に、家で一度水あげができる……買ってすぐお墓に持って行くより、一晩たっぷり水を吸わせてから持って行くほうが、供えたあとの持ちが変わります。
ただし、あまりに早く買いすぎるのも考えものです。近年の9月は残暑が長引く年が増えました。今年のように暑さが残る場合、彼岸入りの1週間前に買った花は、中日を迎えるころにはもう疲れが出はじめていることがあります。お参りの日の1〜2日前を目安に、涼しい場所で保管する、というのが現実的な落としどころです。
お墓の花と、仏壇の花は考え方が違います
同じ「お供えの花」でも、供える場所によって選び方が変わります。
お墓の花は、墓石の左右に花立てがあることがほとんどですので、同じ花束を二つ(一対)用意するのが一般的とされています。左右対称に供えることで、全体が整って見えます。屋外に置かれ、風や日差しにさらされますから、日持ちのする花——菊やスターチスを中心に組むのが向いています。背の高い花は風で倒れやすいので、控えめに。
仏壇の花も、左右に花立てがあるお仏壇なら一対で供えるのが基本とされますが、一つだけの場合や、小さなお仏壇で一束のみという場合もあります。室内なので、屋外ほど日持ちを気にしなくてよいぶん、香りのことは気にかけたほうがよいでしょう。閉め切った部屋で香りの強い花を供えると、線香の香りとぶつかることがあります。また、仏壇の花は仏さまではなくお参りする側に花の正面を向けるとされることが多いです。花を見て心を穏やかにするため、という説明がなされます。
墓前の花は、持ち帰るのか置いていくのか
これは霊園や墓地のルールに従うのが正解です。答えが一つに決まりません。
- 持ち帰りをお願いしている霊園……枯れた花が散らかる、水が腐って臭う、動物に荒らされる、といった理由から、その日のうちに持ち帰るよう定めているところがあります。近年はこのルールの墓地が増えています。
- 管理事務所が片づけてくれる霊園……定期的に花を回収してくださるところもあります。この場合は置いていって構いません。
- 特に定めのない墓地……この場合は、次にお参りに来られる時期を考えて判断されるとよいと思います。しばらく来られないなら持ち帰る、近いうちにまた来るなら置いていく、という具合です。
お参りのあいだだけ花を供えて、帰りに持ち帰る——という方法も、失礼にはあたらないとされています。持ち帰った花は、ご自宅の仏壇に供え直したり、玄関に飾ったりすればよいのです。
初めて行かれるお墓や、管理形態が変わったかもしれない場合は、事前に管理事務所に確認されると確実です。
残暑の残る年に、少しでも長く保たせるために
9月とはいえ、日中はまだ夏のような暑さの日があります。気温が高いと、花瓶の水の中で細菌が増えやすくなり、茎の切り口がふさがれて水を吸えなくなります。朝はきれいだった水が、夕方には白く濁っている——そんな日が続く時期です。
手間をかけずにできることを、優先度の高い順に挙げます。
1. 水を毎日替える。そのとき花瓶も洗う
これがいちばん効きます。水を入れ替えるだけでなく、花瓶の内側をスポンジでこすって洗うところまでやってください。花瓶の内側には、ぬめりのような膜(細菌の膜)ができています。これを落とさずに新しい水を入れても、すぐに濁ってしまいます。口の狭い花瓶なら、柄付きのブラシがあると楽です。
2. 茎を少しずつ切り戻す
水替えのついでに、茎の先を1センチほど切り落とします。これを切り戻しといいます。切り口は日が経つと詰まってきますので、新しい面を出してやると、また水を吸い上げるようになります。
切るときは水の中で、斜めに。水中で切ると、切り口に空気が入るのを防げますし、断面に水圧がかかって水が上がりやすくなります。斜めに切るのは、断面積を広げて吸う面を増やすためです。ハサミは、園芸用の切れ味のよいものを。切れ味の悪いハサミで茎をつぶすと、かえって水が上がらなくなります。
3. 水に浸かる葉は、あらかじめ取っておく
水中に葉が沈んでいると、そこから腐って水が一気に傷みます。花瓶に活ける前に、水面より下になる葉はすべて落としてください。葉が多い花は、水面より上の葉も少し減らしておくと、葉から蒸発する水分が減って、花に水がまわりやすくなります。
4. 置き場所は、直射日光とエアコンの風を避ける
窓際の直射日光は、水温を上げ、花を急速に消耗させます。エアコンの吹き出し口の近くも、風が直接当たって花が乾いてしまうので避けてください。風の通る、涼しくて明るい日陰がいちばんです。テレビや冷蔵庫の上といった、熱を持つ場所も向きません。
また、リンゴやバナナなどの果物のそばも避けたほうがよいとされます。果物から出るガスが、花の老化を早めることがあるためです。
5. 終わった花はこまめに取り除く
傷んだ花や落ちた花びらをそのままにすると、水が汚れ、まわりの花の傷みも早まります。ひとつ終わったら抜く、を繰り返していくと、残った花が最後まできれいに保てます。花が減ってきたら、小さめの花瓶に移し替えると、また見栄えがします。
切り花の手入れについては、切り花を長持ちさせる方法をまとめた記事でさらに詳しく書いていますので、あわせてご覧ください。
神棚のある家では、榊も替えどきです
仏壇やお墓の花を整えるとき、忘れられがちなのが神棚です。仏事と神事はまったく別のものですが、「家の中の供えものを一度そろえて新しくする」という点では、お彼岸はちょうどよい区切りになります。
榊(さかき)は、一般的には毎月1日と15日に取り替えるとされています。9月のお彼岸は15日を過ぎて月末に向かう時期ですので、「そういえば榊が茶色くなってきた」というご家庭も多いのではないでしょうか。神棚の榊の替えどきについてはこちらで詳しく書いています。1日と15日という慣習の理由や、長持ちさせる手入れの仕方にも触れていますので、あわせてどうぞ。
おはぎとぼたもち、そして彼岸花のこと
秋は「おはぎ」、春は「ぼたもち」
お彼岸のお供えといえば、花と並んでおはぎです。おはぎとぼたもちは、材料としてはほぼ同じもので、季節によって呼び分けているというのが一般的な説明です。
- 春のお彼岸=ぼたもち(牡丹餅)……春に咲く牡丹にちなんだ名前。牡丹の大輪の花に見立てて、丸く大きめに作るのが一般的とされます。
- 秋のお彼岸=おはぎ(御萩)……秋の七草のひとつ萩にちなんだ名前。萩の細長い花びらに見立てて、俵形に少し小さめに作るとされます。
あんこの違いにも理由があるとされています。小豆の収穫は秋。秋のお彼岸のころの小豆はとれたてで皮がやわらかいので、皮ごと使うつぶあんにできる。一方、春まで越した小豆は皮が硬くなっているため、皮を取り除いたこしあんにする——という説明です。花屋の話ではありませんが、季節の移り変わりと食べものが結びついている、いい話だと思います。
もっとも、これも地域差が大きく、一年を通じて「おはぎ」と呼ぶ土地、大きさで呼び分ける土地など、さまざまです。
彼岸花——なぜこの時期に、なぜ田の畦に咲くのか
お彼岸のころ、田んぼのふちや土手が真っ赤に染まります。彼岸花(曼珠沙華)です。名前のとおり、秋のお彼岸に合わせるように咲くことから、この名がつきました。
不思議なのは、その咲き方です。彼岸花は、葉が出ていない裸の茎だけがすっと伸びて、その先に花を咲かせます。花が終わってから葉が出て、冬のあいだに光を浴びて球根に養分をためこみ、春になると葉が枯れる。つまり花と葉が同時に姿を見せないという、少し変わった暮らし方をしています。
秋の決まった時期に一斉に咲くのは、気温の変化を感じ取って花芽を伸ばす性質があるためだと考えられています。だから毎年、判で押したようにお彼岸のころに咲きそろうのです。
田の畦や墓地に多いのには、理由があるとされています。彼岸花は株全体、とくに球根(鱗茎)に強い毒を持っています。リコリンをはじめとするアルカロイドという成分で、口にすると激しい吐き気や下痢を起こし、大量に摂れば危険です。この毒を、昔の人が意図的に利用したのだといわれます。畦に植えておけば、モグラやネズミが球根の毒を嫌って寄りつかず、畦に穴を開けられて水が漏れるのを防げる。土葬の時代には、墓地に植えて小動物から遺体を守った、という説明もなされます。
そういうわけで、彼岸花は仏花としては使いません。毒があること、そして墓地に自生する花という結びつきから不吉とされてきたことが、主な理由です。ただ、これは「供えてはいけない花」というより、「そもそも切って飾る花ではない」というほうが実感に近いかもしれません。切ってもあまり日持ちしませんし、あの花はやはり、風の吹く畦道で群れて咲いているのがいちばん美しいのです。
お墓参りの帰り道、赤い群れを見かけたら、そのまま眺めて帰る。それでいいのだと思います。
今年のお彼岸に向けて、まとめ
最後に、判断に必要なところだけを短くまとめます。
- 日程……2026年秋のお彼岸は9月20日(日)〜26日(土)。中日は23日(水・祝)。
- 買う日……お参りの1〜2日前が目安。19日(土)までに用意しておくと、混雑を避けてゆっくり選べます。
- 本数……奇数が一般的。花屋の花束は最初からそう組まれています。長さのほうが大事なので、用途をお伝えください。
- 色……四十九日を過ぎたご先祖なら、白に秋の色を添えて構いません。日が浅い場合は白を基本に。
- 花……菊を軸に、りんどう・けいとう・スターチスなど。お墓には日持ち重視、仏壇には香り控えめ。
- お墓は一対……左右の花立てに同じものを二つ。持ち帰るかどうかは霊園のルールに従ってください。
- 手入れ……毎日水を替え、花瓶を洗い、茎を水中で斜めに切り戻す。直射日光とエアコンの風を避ける。
- 神棚……榊も一緒に新しく。
くり返しになりますが、ここに書いたことは「一般的にはこうされています」という目安です。宗派によって、地域によって、そしてご家庭によって、作法はずいぶん違います。「うちはこうしてきた」という習わしがあるなら、それがそのご家族にとっての正解です。迷われたときは、菩提寺やご家族の年長の方に確かめてみてください。
お彼岸は、昼と夜の長さがちょうど釣り合う日をはさんだ7日間です。暑さが引き、風の匂いが変わっていくこの時期に、いなくなった人のことを思い出す時間が用意されている——そういう仕組みを、日本人は千二百年ほどかけて育ててきました。
花は、そのための小さな手がかりのようなものだと思っています。花立てに水を入れて、茎を少し切って、傾きを直す。その数分のあいだ、手を動かしながら、その人のことを考える。立派な花である必要はありません。今年も忘れずに来られた、それだけで十分なのだと思います。
秋の花が並ぶ季節です。ご用意に迷われたら、どうぞお気軽にご相談ください。
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