2026年7月19日は、海の日+一粒万倍日+天赦日が重なる年に4日しかない「最強開運日」。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

60年に一度の丙午の年に、最強開運日が重なる節目。何か始めるなら、今日です!
七月の神楽坂は、石畳が朝から熱を持ちはじめます。坂を上がる風もぬるく、日傘の影がくっきりと落ちる季節。そんな時期に、日本には「海の日」という祝日があります。海のない街の花屋にいても、この日が近づくと、店先に並べる花の色がすこしずつ青に寄っていくのが不思議です。
この記事では、海の日という祝日がどうして生まれたのかをたどりながら、夏に涼を呼ぶ「青い花」と「水辺の植物」のことを、一種ずつゆっくり書いていきます。なぜ自然界に青い花は少ないのか、青い花はどう扱えば長持ちするのか、そして水やガラスを使って部屋に涼しさを作る方法まで。海に行けない日でも、暮らしのなかに水辺の景色を引き寄せることはできます。
🌊 「海の日」の制定の歴史
「海の日」は1995年制定、1996年から施行された比較的新しい祝日。元々は明治天皇が1876年に東北巡幸の際、汽船「明治丸」で航海し、横浜港に帰着した7月20日が「海の記念日」だったのが起源です。
2003年からは「7月第3月曜日」となり、ハッピーマンデー制度の一つとして3連休になりました。「海洋国家・日本の海への感謝」を表す祝日です。
もう少していねいにたどると、こういう流れになります。1876年(明治9年)、明治天皇は東北地方を巡幸されました。このとき帰路に使われたのが、軍艦ではなく灯台の建設や維持を担う役所の船「明治丸」でした。青森から函館を経て、7月20日に横浜港へ帰着した——この史実が、のちの記念日の土台になります。
その日付にちなんで、1941年(昭和16年)に当時の逓信大臣・村田省蔵の提唱で「海の記念日」が設けられました。ただしこの時点では、あくまで記念日であって祝日ではありません。長いあいだ「海に関わる人たちの日」として静かに続いてきたものが、海運・造船・水産といった業界や自治体からの要望を受けて、1995年に祝日法の改正が成立。翌1996年から国民の祝日「海の日」として、7月20日に施行されました。
そして2003年、いわゆるハッピーマンデー制度によって7月の第3月曜日へ移動します。日付が動くようになったことで「今年の海の日は何日だっけ」と迷う祝日になりましたが、そのぶん三連休が生まれ、海へ出かける人が増えたのも事実でしょう。祝日法に書かれた趣旨は、「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う」。感謝と、願い。祝日の言葉としては、ずいぶん素直で美しい一文だと思います。
ちなみに由来となった明治丸そのものは、いまも残っています。明治初期にイギリスで建造された鉄船で、のちに商船学校(現在の東京海洋大学)へ渡り、係留練習船として長く使われました。1978年(昭和53年)には国の重要文化財に指定されています。東京・越中島のキャンパスに保存されていて、祝日の由来になった船を実際に見に行ける、というのはなかなか珍しい話です。

2026年の7/19は「海の日+最強開運日(一粒万倍日×天赦日)」がドンピシャ重なる、年に4日の特別な日。詳しくはこちらの記事もご覧ください!
「海の日」がある国は、世界でも珍しい
海に囲まれた国はたくさんありますし、海に関わる記念日を持つ国も少なくありません。ただし「海の日」を国民の祝日にしている国は、世界でも日本だけだとされています。国土交通省もそのように紹介していて、海の日記念行事は毎年この時期に国が主催する形で続けられています。
言われてみれば、日本の暮らしは海と切れたことがありません。四方を海に囲まれ、食べるものの多くが海から来て、輸入される品物のほとんどが船で運ばれてきます。神楽坂の店に並ぶ花にしても、海外から届く品種は空路と海路の両方で運ばれてきます。そう考えると、「海に感謝する」という祝日の趣旨は、内陸で暮らす人にとっても他人事ではないのだと気づかされます。
山に感謝する「山の日」(2016年施行)とあわせて、日本には自然そのものに向けた祝日が二つある、という見方もできます。人物や出来事ではなく、海と山という風景に頭を下げる日がある。花や植物を扱う仕事をしていると、この二つの祝日はどこか身内のように感じられます。
開運日のことは、ひとことだけ
7月19日という日付には、暦のうえでも意味が重なっていました。ものごとが何倍にもなって返ってくるとされる一粒万倍日と、暦のうえで最上の吉日とされる天赦日。この二つが重なる日は一年に数日しかなく、そこへ祝日の海の日が乗った、というのがこの日でした。
暦の吉日は、当たる・当たらないというより、「そろそろ始めよう」と背中を押してくれる目印として付き合うのが心地よいと思います。花を一本買う、水を替える、部屋の模様替えをする。その程度の小さなことでも、日付が決まっていると人は動きやすいものです。
暦そのものの成り立ちや、一粒万倍日・天赦日の意味、その日に何をするとよいとされているかについては、別の記事にまとめてあります。一粒万倍日や暦の吉日については、こちらで詳しく書いていますので、暦のほうに興味のある方はそちらをどうぞ。ここから先は、この記事の本題——海の日と、夏の青の話に戻ります。
なぜ人は、夏になると「青」を探すのか
暑くなると、涼しげな色を身のまわりに置きたくなります。青いガラス、藍の暖簾、水色のシャツ。花屋でも、六月を過ぎたあたりから「涼しそうな花はどれですか」という選び方をされる方が増えていきます。これは気分の問題だけではなく、色が体の感じ方に働きかけているためだと考えられています。
色は「記憶」を経由して涼しさを運ぶ
色彩の心理では、赤・橙・黄を暖色、青・青緑を寒色と呼びます。なぜ青が涼しく感じられるのかというと、脳が色と過去の経験を結びつけているから、という説明が一般的です。青は空、水、影、氷といった冷たいものの記憶と強く結びついています。だから青を見た瞬間、実際の気温とは関係なく「涼しい」という感覚が先に立ち上がる、というわけです。
この効果はしばしば数字で語られます。有名なのはロンドンの工場の食堂の話で、明るい青に塗られた部屋では室温が21度あっても従業員が寒さを訴え、壁を橙色に塗り替えたところ体感の差はおよそ3〜4度あったと見積もられた、という例が知られています。照明の色温度を変える実験でも、体感で2度前後の差が生まれるという報告があります。ただしこれらはあくまで条件つきの調査であって、「青くすれば必ず何度下がる」という話ではありません。効くのは体温ではなく、感じ方のほうだと理解しておくのがちょうどよい距離感です。
花で涼しさを作るときの、色のバランス
実際に飾るときに覚えておくと役立つのが、青だけで組むと沈むということです。青い花ばかりを集めると、涼しいというより暗く重たい印象になりがちで、夏の部屋には向かないことがあります。涼を出したいときは、次のような組み立てが扱いやすいです。
- 青+白……いちばん失敗の少ない組み合わせ。白が光を返してくれるので、青が沈みません。
- 青+薄い緑……葉ものを多めに。水辺の草むらのような、湿度のある涼しさが出ます。
- 青+銀葉……白っぽい葉を一種混ぜると、日差しの下の海辺のような明るさになります。
- 青のなかに一点だけ濃い色……全体が眠くならず、輪郭が締まります。
もう一つ、器と置き場所も色のうちだと考えてください。透明なガラス、白い陶器、青みのある釉薬。器が光を通すだけで、同じ花がずいぶん涼しく見えます。逆に、真夏に濃い茶色の器へ暖色の花を詰めると、それだけで空気が重く感じられるものです。
夏に出会える青い花を、一種ずつ
ひとくちに「青い花」といっても、青の質はまるで違います。紫寄りの青、灰色を含んだ青、水彩のようににじむ青。ここでは夏に手に入りやすいものを中心に、それぞれの性格と扱い方をまとめます。
桔梗(ききょう)
秋の七草に数えられますが、実際に咲きはじめるのは初夏から夏。切り花としても6月頃から出回ります。青紫の五角形の花は、和にも洋にもよく馴染みます。つぼみが風船のようにぷっくりと膨らんでから開くのが特徴で、英語圏では風船の花と呼ばれるほどです。
扱いのコツは切り口から出る白い液。桔梗も切ると乳液状のものがにじむので、水の中で茎を切り直し(水切り)、にじんだ液を軽く洗い流してから活けると水が上がりやすくなります。花が終わったものはこまめに摘み取ると、後ろのつぼみが咲きやすくなります。日本の自生の桔梗は数を減らしていて、環境省のレッドリストでは絶滅危惧に近い区分に挙げられている——花屋に山ほど並ぶ花が、野では貴重、というのは覚えておきたい事実です。
竜胆(りんどう)
本来は秋の花ですが、切り花としては7月から9月にたっぷり出回ります。お盆の花としての需要が大きく、夏の花屋にはいつも青い竜胆が立っています。岩手県をはじめとする冷涼な産地で盛んに栽培されていて、夏でも品質の良いものが届きます。
茎がまっすぐで、縦の線が出せるのが強み。花もちがよく、暑い時期でも比較的長く楽しめる部類です。つぼみのまま終わってしまうことがあるので、買うときに下のほうの花がいくつか開いているものを選ぶと安心です。葉が水に浸かると傷みやすいので、水に入る部分の葉は落としておきます。
瑠璃玉あざみ(エキノプス)
細かい花が集まって、金平糖のような球になる花。灰青色の、少しくすんだ青が独特で、夏の花のなかでも群を抜いて涼しげです。切り花の出回りは5月から9月ごろ、最盛期は6〜7月。基本的に夏にしか出会えない花なので、見かけたら旬だと思ってください。
茎も葉もチクチクしますが、毒はありません。水がなくても形が崩れにくいので、そのまま吊るしてドライフラワーにできるのも魅力です。ドライにするなら、花が完全に開ききる前——球がまだ締まっているうちに、風通しのよい日陰へ逆さに吊るします。花瓶では、葉を落として茎の線を見せると涼しさが際立ちます。
デルフィニウム
青い花の代表格。すらりと伸びた穂に花が並ぶ大輪の系統と、枝分かれして小花が散る繊細な系統があります。切り花は通年ありますが、5月から7月がいちばんの旬で、流通量も増えます。宮崎の高千穂地区や北海道の産地から、質のよいものが届きます。
名前の由来はギリシャ語のイルカ。つぼみの形が泳ぐイルカに似ていることから付いたとされ、海の日に飾る花としては出来すぎたくらいです。あとで出てくる青い色素デルフィニジンも、この花の名前から取られています。
扱いで気をつけたいのは茎が空洞で折れやすいこと。持ち運ぶときは横倒しにせず、立てて運ぶのが基本です。また、花が散りやすいので、エアコンの風が直接当たる場所は避けてください。水はやや浅めにして、こまめに替えるとよく上がります。
ブルースター(オキシペタラム)
南米原産の、淡い水色の星形の小花。青というより空色で、咲き進むにつれてすこしずつ紫がかっていく変化も楽しめます。ブーケの隙間に入れると、そこだけ空気が抜けたように軽くなる、便利な花です。
この花には、はっきりした扱い方のコツがあります。切り口から白い液がにじむのです。この液が切り口に残ったままだと導管をふさいでしまい、水の上がりが悪くなります。切ったら水で洗い流すか、やわらかい紙で拭き取る。一度で止まらないことも多いので、液が出切るまで繰り返してください。
もう一点、この白い液は肌に付くとかぶれることがあります。素手で扱ったあとは石けんでしっかり洗い、目をこすらないように。小さなお子さんのいるご家庭では、活ける作業は大人が引き受けてください。元気がなくなったときは、切り口を熱湯に数秒だけ浸してすぐ冷水に移す「湯揚げ」で戻ることがあります。このとき花や葉が蒸気に当たらないよう、上半分は紙で包んでおきます。
ネメシア
小さな唇の形をした花がびっしりと咲く、鉢や寄せ植えでおなじみの花。青紫から白、桃色まで色幅が広く、香りのある品種もあります。ただし正直に書いておくと、ネメシアの本領は春と秋で、高温多湿の日本の真夏はやや苦手です。
夏に楽しみたいなら、風通しのよい半日陰に置き、梅雨入り前に半分ほどの高さまで切り戻しておくのが現実的な方法です。蒸れると株元から傷むので、鉢は地面に直置きせず、少し浮かせて空気を通します。うまく夏を越せれば、秋にもう一度たっぷり咲いてくれます。
アガパンサス
南アフリカ原産の球根植物で、長い茎の先に青紫の小花が花火のように放射状につきます。開花は5月から7月ごろ、切り花の出回りも4〜7月。梅雨のころ、街路や公園でいっせいに立ち上がるあの花です。
一本で絵になるので、大きめのガラス器に一〜二本だけという飾り方が似合います。花もちは1週間ほど。花が終わったあとも緑の玉のような姿が残り、それはそれで涼しげです。庭で育てる場合は丈夫で放任でも育ちますが、株が混みすぎると花つきが落ちるので、数年に一度株分けをすると調子が戻りやすくなります。
露草(つゆくさ)
道端や公園の隅に、朝だけ現れる青。二枚の花びらが耳のように開く独特の形で、日本人が古くから親しんできた青の代表です。万葉集にも詠まれ、その花の汁は、染めの下絵を描くための消える絵の具としても使われてきました。水で洗えば色が落ちるという性質を、昔の人は逆手に取っていたわけです。
難点は一日花であること。朝に開いて、昼にはしぼんでしまいます。だからこそ、切り花としてはほとんど流通しません。露草を楽しむなら、朝の散歩でひとつ見つけて、その場で眺めるのがいちばんです。庭やベランダに生えてきたら、抜かずに残しておくと、夏じゅう毎朝あたらしい青が咲きます。
朝顔(あさがお)
夏の青といえば、やはりこれを外せません。もともとは薬用の植物として日本に持ち込まれたと考えられていて、種は生薬として扱われてきました。観賞用として爆発的に広まったのは江戸時代。花の形や葉が大きく変わった「変化朝顔」を競い合う流行が起き、当時の園芸文化の水準の高さを今に伝えています。
朝顔の青は、咲いている最中に色が変わるのが面白いところです。花の中の細胞の酸性・アルカリ性の具合が開花にともなって変わるため、開いたときは青く、しぼむころには赤紫に寄っていくものがあります。育てるうえでのこつは、水を切らさないことと肥料をやりすぎないこと。窒素分が多いと葉ばかり茂って花が減ります。つるを横方向に誘引すると、脇芽が出て花数が増えやすくなります。
紫陽花(あじさい)の、残り
七月に入ると紫陽花の盛りは過ぎますが、色が枯れて渋くなった「秋色紫陽花」と呼ばれる状態が出回りはじめます。青が緑や赤茶に沈んでいく途中の、複雑な色。生花としてもドライとしても人気があり、夏から秋にかけての花合わせによく使われます。
紫陽花で花びらに見えているのは、じつはがくです。土の性質で色が変わることはよく知られていて、酸性に傾くと青、アルカリ性に傾くと赤に寄ります。これは土の中のアルミニウムが根から吸収されやすいかどうかで決まると考えられています。日本の土は雨が多いぶん酸性寄りになりやすく、それが「日本の紫陽花は青い」と言われる背景の一つです。
切り花としての紫陽花は水が下がりやすいのが弱点。切り口を斜めに大きく切り、茎の中の白いわたを少しかき出してやると水が上がりやすくなります。しおれたときは、花全体を水に沈めて30分ほど置く方法で戻ることもあります。
青い花が自然界に少ないのは、なぜか
ここまで青い花を並べてきましたが、あらためて花屋の店先を見渡すと、本当に青い花はごくわずかだと気づきます。赤、桃、白、黄、橙は数え切れないほどあるのに、青は探さないと見つかりません。これは偶然ではなく、色素の仕組みに理由があります。
デルフィニジンという鍵
花の赤や青の色は、おもにアントシアニンという色素のグループが担っています。このなかで青系の色を出す代表がデルフィニジン——先ほど出てきたデルフィニウムの名にちなむ色素です。青い花の多くは、この色素を作る力を持っています。
ところが、植物の種類によってはこの色素を作る酵素の設計図そのものを持っていないものがあります。バラやカーネーション、チューリップ、菊などがそれで、どれだけ交配を重ねても青にはたどり着けません。「青いバラ」が長らく不可能の代名詞として使われてきたのは、そういう事情です。しかも話はもう一段ややこしく、デルフィニジンさえあれば青くなるわけではありません。花びらの中の酸性度、金属イオンとの結びつき方、色素どうしの重なり方——こうした条件がそろって、はじめて澄んだ青が現れます。だからこそ、あの色は貴重なのです。
青いカーネーションと、青いバラができるまで
その不可能に挑んだのが、サントリーとオーストラリアの企業による共同研究でした。1990年に始まったこの取り組みは、ペチュニアやパンジーが持つ青い色素の遺伝子を、他の花に組み込むという方法を取ります。
先に実を結んだのはカーネーションでした。世界初の青いカーネーション「ムーンダスト」が生まれ、日本では1997年から販売が始まります。紫がかった、静かな青。これが成功したことで、バラにも道があるという確信が生まれました。
バラのほうは難航しました。青い遺伝子を入れても咲かない、あるいは赤黒くなってしまう。パンジーの遺伝子を使うことで2004年に青いバラの開発に成功し、実際に切り花として世に出たのは2009年11月。「アプローズ」という名で発売されました。喝采を意味する言葉です。研究開始からおよそ20年。植物の色ひとつに、それだけの時間がかけられたことになります。
なお、いわゆる「青いバラ」として花屋に並ぶものの多くは、白いバラに染色液を吸わせて着色したものです。こちらは開発された品種とは別のもので、鮮やかな水色や群青が出せるのが特徴。どちらが良い悪いではなく、成り立ちが違うということだけ知っておくと、選ぶときに迷いません。
水辺の植物を、暮らしに引き寄せる
青い色と並んで、夏の涼しさを担ってくれるのが「水に関わる植物」です。水の上に葉を広げる姿そのものが涼しく、実際に器の水が蒸発するときに周囲の熱を少し奪ってくれます。ここでは代表的なものを見ていきます。
蓮(はす)
七月がまさに旬。夜明け前につぼみがほどけ、昼にはまた閉じる、というのを数日繰り返して散っていきます。花の寿命はおよそ3日ほどとされ、いちばん美しいのは開いて二日目の朝だと言われます。蓮を見に行くなら早起きが必須、というのはこのためです。
花の大きさは10〜30センチにもなり、水面から高く立ち上がるのが特徴。葉も水面より上に伸びて、傘のように広がります。葉の表面は水をはじき、雨粒が銀の玉になって転がります。花のあとに残る蜂の巣のような花托(かたく)も、そのままで飾りになります。切り花の蓮は水が下がりやすく扱いが難しいので、無理をせず、蕾のうちに深めの器へ入れて短く楽しむのが現実的です。
睡蓮(すいれん)
蓮とよく混同されますが、別の植物です。近年の研究では、遺伝子の並びや花粉の構造から、両者はかなり離れた仲間だとされています。見分け方はかんたんで、葉と花が水面に浮いていれば睡蓮、水面から高く立ち上がっていれば蓮。睡蓮の葉には切れ込みがあり、蓮の葉は丸くつながっています。
花期は5月から10月ごろと長く、花のもちも蓮より長め。花の大きさは温帯性のもので5センチ前後と、ずっと小ぶりです。ベランダで楽しむなら、水を張った鉢に小型の品種を植える方法があり、蓮より場所を取らずに済みます。日当たりだけはしっかり必要で、半日以上日が当たらないと花が上がりにくくなります。
河骨(こうほね)
日本各地の池や沼、流れのゆるい川に育つ在来の水草。6月から10月にかけて、3〜6センチの濃い黄色の花を、水面より少し上に立てます。花びらのように見えるのは5枚のがくで、その内側に小さな花びらが巻き込むように並びます。
名前は、水中にある白い根茎がごつごつして骨のように見えることから。地味ながら、生け花の世界では夏の水物として古くから使われてきました。葉の緑と黄色い花の取り合わせは、青一辺倒になりがちな夏の飾りに、ほどよい体温を与えてくれます。
パピルス
茎の先から細い線が放射状に噴き出す、花火のような姿の水生植物。カヤツリグサの仲間で、古代エジプトで紙の材料にされたことで知られます。茎の芯を薄く剥いで並べ、圧して乾かすと、書くための面になる——紙という言葉の語源にもつながる植物です。
鉢植えで育てるときは、受け皿にたっぷり水を張って、常に湿らせておくのが基本。ふつうの観葉植物とは逆で、水のやりすぎを気にしなくてよいのが気楽です。日当たりを好み、夏はぐんぐん伸びます。寒さには弱いので、冬は室内の明るい場所へ。切って花瓶に立てても長く保ち、一本あるだけで部屋が水辺の空気になります。
ウォーターマッシュルーム
丸い葉が、細い茎の真ん中からきのこの傘のように広がる小さな水草。うちわ銭草(ぜにぐさ)とも呼ばれます。水に沈めても、湿った土でも育つという強さがあり、初めて水の植物を置く方にはいちばん扱いやすい種類です。
ガラスの器に水を張り、根の部分を入れておくだけで育ちます。ただし繁殖力がとても強く、放っておくとあっという間に器を埋め尽くすので、混みすぎたら間引くことが必要です。そして重要な注意点として、増えすぎた株を川や池に捨てないでください。水草は少しの断片からでも増えるため、在来の生きものの居場所を奪ってしまいます。処分するときは、しっかり乾かしてから燃えるごみへ。
🐚 「海」をテーマにしたお部屋の演出
- 💙 青いガラスベース+白い花
- 🌿 水耕栽培の観葉植物
- 🐚 貝殻や流木をアクセントに
- 💧 透明な器に水と一輪挿し
この四つは、そのまま夏の飾りの基本形です。もう少し詳しく、それぞれの理由と失敗しないための加減を書いておきます。
ガラスの器は「水を見せる」ための道具
夏にガラスが涼しく見えるのは、透明だからというより水そのものが見えるからです。陶器の花瓶では隠れてしまう水面と茎の揺らぎが、ガラスなら全部見える。それが涼しさの正体です。
ただしガラスには弱点があって、水が汚れると一気にみすぼらしくなります。濁りも、茎のぬめりも、器の内側の水垢も、全部見えてしまうからです。夏場は毎日、水を全部替えるくらいの気持ちで。替えるときは器の内側を指かスポンジで軽くこすり、ぬめりを落としてください。ぬめりの正体は細菌の膜で、これが茎の吸い口をふさぎます。花が早く傷む原因のかなりの部分は、ここにあります。
置き場所は、直射日光の当たらない明るいところ。窓辺のガラス器は光を集めて水温が上がりやすく、夏は思った以上に危険です。光は入るが日は差さない場所が理想です。
水盤に浮かべる——いちばん静かな涼しさ
平たい器に水を張り、花を数輪浮かべる。これは夏の飾り方のなかでも、手間の少なさと効果の大きさの釣り合いが群を抜いています。茎を短く切ってしまうので、傷んで捨てるはずだった花の頭を再利用できるのも利点です。
- 器は浅く、口が広いものを。深皿、大鉢、洗面器でも構いません。
- 水は器の縁から1〜2センチ下まで。なみなみ張ると、動かすたびにこぼれます。
- 浮かべる数は奇数にすると、なんとなくおさまりが良くなります。
- 浮かぶ葉を一枚添えると、水面に影ができて奥行きが出ます。
- 浮かべる花は、花びらの厚いものが向きます。薄い花は水を吸って透けてしまいます。
水盤は水量が多いぶん、水温が上がるとまとめて傷みます。朝と夕方の二回、水面をすくって新しい水を足すだけでも、だいぶ違います。夜のあいだ室温が上がる部屋なら、寝る前に水を替えておくと朝の姿がきれいです。
氷を使う演出と、その落とし穴
透明な器に氷を入れて花を飾る——写真映えのする方法で、夏になるとよく紹介されます。ただし、実際にやる前に知っておいてほしいことがいくつかあります。
まず、冷えすぎて傷む花があるということ。熱帯や亜熱帯の生まれの花——蘭の仲間、アンスリウム、ブーゲンビリア、ハイビスカスなどは、低い温度に長く置かれると花びらが透けたり、黒ずんだりすることがあります。これは冷蔵庫に入れた南国の果物が変色するのと似た現象です。氷を使うなら、まずは涼しい土地生まれの花——竜胆、デルフィニウム、瑠璃玉あざみなどから試すのが安全です。
次に、氷は水を薄めるという当たり前の点。切り花延命剤を入れている場合、氷が溶けるにつれて濃度が下がっていきます。そして溶けた水は器のなかでほとんど動かないため、かえって傷みやすいこともあります。
現実的なおすすめは、氷は「飾りの時間だけ」使うという割り切りです。お客さまを迎える数時間、食卓に出す間だけ氷を浮かべ、終わったら取り除いて新しい水に戻す。一日中氷を入れっぱなしにするより、花への負担がずっと小さくなります。器のまわりの結露も忘れずに。木のテーブルに直接置くと輪染みが残るので、布か小皿を一枚敷いてください。
貝殻・流木を使うときの一点だけの約束
貝殻や流木は、海の景色をひとことで呼び込んでくれます。ただし水に入れるなら、必ずよく洗って乾かしたものを。海で拾ったものには塩分と有機物が残っていて、そのまま花の水に入れると水が急速に傷みます。真水でしっかり洗い、完全に乾かしてから使ってください。
そもそも水に沈めず、器のまわりに置くだけでも十分に効きます。花のそばに白い貝殻がひとつあるだけで、見る人の頭のなかに海が立ち上がる。それが飾りの面白いところです。

海の日には「水と緑」のディスプレイを!涼やかで開運日にもぴったり。
潮風のなかに立つ植物たち
海の日にちなんで、もう一歩踏み込んだ話を。海のそばで生きる植物は、内陸の植物とはまったく違う工夫を身につけています。
塩分は、植物にとって基本的に毒です。細胞の中より外の塩分濃度が高くなると、水が吸えないどころか吸い出されてしまいます。それでも砂浜に育つ植物たちは、塩を細胞の中に閉じ込めてしまう、葉の表面の膜を厚くして塩の侵入を減らす、吸い込んだ塩を葉の特別な袋から捨てるといった仕組みを持っています。海辺の葉が厚くつやつやしているのは、そういう理由です。
ハマヒルガオ
砂浜を這うように茎を伸ばし、初夏から夏にかけて直径5〜6センチの漏斗形の花を咲かせます。姿は朝顔によく似た淡い桃色。厚くつやのある丸い葉が砂の上に点々と続く景色は、日本の海岸の夏そのものです。
地下茎を長く伸ばして砂を押さえるため、砂浜そのものを支える役割も担っています。近年は海岸の開発で減っている地域も多く、見かけたら踏み荒らさずにそっと眺めてください。
ハマユウ(浜木綿)
夏の海辺に、細長い白い花びらを房のように広げて立つ大きな草。標準的な和名はハマオモトといい、葉がオモトに似ていることから付きました。ハマユウという呼び名のほうは、白い花を、神事に使う白い布(木綿=ゆう)に見立てたものだとされています。
この植物のいちばん面白いところは、種が海を旅すること。直径2〜3センチほどの丸い種はコルクのような厚い皮に包まれていて、水に浮きます。海に落ちた種は潮の流れに乗って運ばれ、たどり着いた砂浜で芽を出す。南方の生まれで、暖かい海流の届く範囲にしか定着できないため、本州では房総半島あたりが北の限界とされています。植物の分布が、海流の地図をなぞっている——海の日にふさわしい話だと思いませんか。
ソテツ、オリーブ、その他の潮に強い木
ソテツは、南九州から沖縄の海岸の岩場に自生する、きわめて古い系統の植物です。かたく分厚い葉は乾燥にも潮にも強く、その姿だけで南の海を思わせます。鉢で育てる場合は、水のやりすぎが最大の失敗要因。土がしっかり乾いてから、たっぷりが基本です。
オリーブは地中海沿岸の生まれで、常緑・乾燥に強く、潮風にもよく耐えます。海沿いの庭木として世界中で使われてきたのはそのためです。銀色を帯びた葉が光を返すので、夏の玄関先に置くと涼しく見えるという利点もあります。風通しと日当たりを確保すること、そして実を採りたいなら別の品種をもう一本並べることが要点です。
ほかにも、トベラ、マサキ、ハマヒサカキ、シャリンバイなど、日本の海岸沿いで昔から植えられてきた木があります。共通しているのは葉が厚く、つやがあり、小ぶりだということ。海沿いや、風の強いベランダで植物を選ぶときは、この「厚くて小さい葉」を目安にすると外しにくくなります。
夏の花を長持ちさせる、基本の五つ
どれだけ涼しげに飾っても、二日でうなだれてしまっては台無しです。夏の切り花は冬の半分ももたないことがありますが、原因のほとんどは水の中の細菌と温度です。ここを押さえるだけで、ずいぶん変わります。
その一・水は毎日、全部替える
足すのではなく、捨てて、洗って、新しく入れる。夏は水温が上がって細菌が一気に増えます。器の内側のぬめりを落とすところまでが「水替え」です。ここが最も効きます。
その二・水に浸かる葉は、すべて落とす
水中の葉は必ず腐ります。腐れば水が濁り、細菌が増え、茎の吸い口をふさぎます。花瓶に入れる前に、水面より下になる葉を指で落とす。これを習慣にしてください。上の葉も、多すぎるようなら半分ほど減らすと、花に水がまわりやすくなります。
その三・水の中で、斜めに切り直す
いわゆる水切りです。空気中で切ると切り口から空気が入り、水の通り道をふさいでしまいます。洗面器などに水を張り、その中で茎を斜めに切る。斜めにするのは吸う面積を広げるためです。切れ味の悪い鋏は茎をつぶすので、よく切れるものを使ってください。数日に一度、切り直してやると持ち直すことがあります。
その四・置き場所は、涼しく・風が直接当たらない場所
直射日光、テレビや冷蔵庫の上(熱を出します)、エアコンの風の通り道。この三つは避けてください。特にエアコンの風は、花から水分を奪って一日で花びらを乾かします。涼しい部屋でも、風が当たる場所は別です。もう一つ、果物の近くも避けるのが基本。熟した果物から出る気体には、花を早く老けさせる働きがあります。
その五・元気がないときは、深水と湯揚げ
うなだれてしまった花は、新聞紙などでまっすぐに巻いてから、深いバケツに首まで近く水を張って一〜二時間置く——これが深水(ふかみず)です。巻くのは、戻ったときに茎がまっすぐになるようにするため。
それでも戻らないときの最後の手段が湯揚げです。花と葉を紙でしっかり包んで蒸気から守り、切り口だけを熱湯に数秒から数十秒ひたし、すぐに冷たい水へ移す。茎の中の空気が押し出され、細菌も減るため、水が上がりやすくなります。ただし茎の柔らかい花や、球根から出る花には向きません。まずは深水から試すのが安全です。
なお、切り花用の延命剤は、糖分(花の栄養)と抗菌剤を組み合わせたもので、夏はとくに効果を感じやすいものです。使う場合は表示どおりの濃さで。濃くすれば効くというものではありません。
海のない場所で、海の日を過ごすということ
祝日の趣旨は「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う」。感謝と願いを、大げさな行事にしなくても表す方法はあります。
- 青い花を一本だけ買って、透明な器に活ける
- 浅い皿に水を張り、花の頭を三つ浮かべる
- 朝早く起きて、公園の蓮か、道端の露草を見に行く
- その日の食卓に、海から来たものを一品のせる
- 洗った貝殻をひとつ、花のとなりに置く
どれも十分もかからないことばかりですが、こういう小さな手つきが、暑い一日の温度をひとつ下げてくれます。青は目から入って涼しさになり、水は蒸発しながら熱を運び去ります。植物は、そのどちらもを一度に引き受けてくれる存在です。
七月の終わり、神楽坂の坂道には夕立の匂いが降りてきます。窓辺の器の水が、朝より少し減っている。そのぶんだけ部屋の熱が持っていかれたのだと思うと、たった一輪の花が、ずいぶん大きな仕事をしているように見えてきます。海に行けない年でも、水辺の景色はこうして手元に置いておける。海の日は、そのことを思い出すのにちょうどよい一日です。
※本記事は日本の暦・季節文化を紹介するものです。気軽な参考としてお楽しみください。
KIKYOYA FLOWERS
東京・神楽坂の花屋 桔梗屋
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