2026年7月もそろそろ終わり。1ヶ月の暦と植物の流れを振り返り、8月の準備を始めましょう。
7月が「夏の入口をひたすら駆け上がる月」だとすると、8月は少し性格が違います。暑さのピークはむしろこれから。それなのに暦の上では秋が始まり、お盆があり、祝日があり、送り火があり、月末には台風の季節の入口が待っています。一年のなかで、行事と暦がいちばん密に詰まった月と言ってもいいくらいです。
そして花屋にとって8月は、一年で最も動きの読みにくい月でもあります。お盆に需要が集中し、暑さで花の日持ちが落ち、産地は端境期に入る。だからこそ「8月に何があるか」を先に把握しておくと、暮らしの段取りがぐっと楽になります。
この記事は、そんな8月をひと月分まとめて予習するための「歳時記のカレンダー」です。暦の話、お盆の話、行事の話、そしてその時期に出回る花の話まで、順番にたどっていきます。
- 8/7 立秋
- 8/13-16 旧盆(多くの地域)
- 8/15 月遅れ盆
- 8/22 処暑

暦上は8/7に「秋」が始まります。残暑は厳しくても、植物は確実に「秋モード」へ移行していきますよ。
📅 8月の暦——8/7「立秋」で「季節は秋」になる
暑さが続く8月でも、暦の上では8月7日が「立秋」。この日から、お手紙の挨拶は「暑中見舞い」から「残暑見舞い」に変わります。
この「8月7日」という日付は、なんとなくの慣習ではなく、毎年きちんと計算されて決まっています。日本の暦の公式な発表元は国立天文台で、前年の2月に翌年分の「暦要項(れきようこう)」が官報で公表されます。二十四節気の日付も、祝日も、日の出入りも、すべてここが元になっています。
国立天文台の令和8年(2026年)暦要項によれば、2026年の立秋は8月7日、処暑は8月23日です。年によって1日前後するのは、二十四節気が「日付」ではなく太陽の位置(太陽黄経)で定義されているためです。地球が太陽のまわりを一周する時間はぴったり365日ではないので、その端数のぶんだけ、節気の瞬間が年ごとに少しずつずれていきます。
なお、下の表は記事作成時点の目安として作成したものです。処暑は年によって8月22日と8月23日のあいだで動きますので、その年の正確な日付は毎年の暦要項でご確認ください。2026年は8月23日です。
| 日付 | 暦・行事 |
|---|---|
| 8/7 | 立秋(暦上の秋の始まり) |
| 8/13-16 | 旧盆(多くの地域) |
| 8/15 | 月遅れ盆 |
| 8/19 | 旧暦7月7日「伝統的七夕」(本物の天の川) |
| 8/23 | 処暑(暑さが収まる頃) |
立秋の七十二候——涼風至・寒蝉鳴・蒙霧升降
二十四節気は、さらに三つずつに分けられます。それが七十二候(しちじゅうにこう)。1年を72に割るので、ひとつあたりおよそ5日。「今週はこういう気配の週です」という、とても細かい季節のものさしです。
- 涼風至(すずかぜいたる)/立秋の初候・8月7日ごろ〜11日ごろ——涼しい風が立ち始めるころ。日中はまだ猛烈に暑くても、日が落ちたあとの風に、ほんの少しだけ湿気の抜けた瞬間が混じります。
- 寒蝉鳴(ひぐらしなく)/立秋の次候・8月12日ごろ〜16日ごろ——ヒグラシが鳴くころ。夕暮れに響くあの声は、ちょうどお盆の時期と重なります。
- 蒙霧升降(ふかききりまとう)/立秋の末候・8月17日ごろ〜22日ごろ——深い霧が立ちこめるころ。山あいや水辺で、朝の空気が白く見え始めます。春の「霞始靆(かすみはじめてたなびく)」と対になる候だとされます。
処暑の七十二候——綿柎開・天地始粛・禾乃登
処暑は「暑さが処(お)さまる」と書きます。実際に涼しくなるのはもう少し先ですが、日ざしの角度と、日暮れの早さは確実に変わり始めます。
- 綿柎開(わたのはなしべひらく)/処暑の初候・8月23日ごろ〜27日ごろ——綿の実を包む「柎(はなしべ・花のがく)」が開き、白い綿がのぞくころ。
- 天地始粛(てんちはじめてさむし)/処暑の次候・8月28日ごろ〜9月1日ごろ——ようやく暑さが落ち着き始めるころ。
- 禾乃登(こくものすなわちみのる)/処暑の末候・9月2日ごろ〜6日ごろ——稲が実り、穂が重く垂れるころ。
並べてみると、8月というひと月のなかで、「風」から「霧」へ、「霧」から「実り」へと関心が移っていくのがわかります。暑さで身動きが取れない月にも、ちゃんと季節の物語が敷かれている。そう思うと、8月の後半が少し違って見えてきます。

特に8月19日の「伝統的七夕」は要チェック!梅雨が明けた夜空に、本物の天の川が見えるベストタイミング。詳しくは七夕記事もどうぞ。
なぜ一年で最も暑い時期が「立秋」なのか
「暦の上では秋」と聞くたびに、少しもやっとする方は多いと思います。8月7日といえば、実際には猛暑日が並ぶ真っ盛り。どうしてこれが「秋の始まり」なのでしょうか。理由は大きく二つあります。
理由その1:二十四節気は「気温」ではなく「太陽の位置」で決まる
二十四節気は、太陽が天球上のどこにいるかで厳密に決められています。春分が黄経0度、夏至が90度、秋分が180度、冬至が270度。そして立秋は135度——ちょうど夏至と秋分の真ん中です。
つまり立秋とは、「暑さが引いた日」ではなく、「日ざしの強さのピークから、秋分までの折り返し地点」のこと。実際、夏至(6月下旬)を過ぎたあたりから、太陽の高さも昼の長さも、じわじわ減り続けています。立秋のころにはもう、日の入りは夏至のころより20分以上早くなっています。体感の暑さとは別のところで、光はすでに秋へ向かっているわけです。
理由その2:気温は日ざしより1ヶ月半ほど遅れてついてくる
もうひとつが、「熱の貯金」の話です。日ざしのピークは夏至。でも気温のピークは8月上旬。この1ヶ月半ほどのずれは、お風呂の追い焚きにたとえると腑に落ちやすいと言われます。
火力を少し弱めても、入ってくる熱が逃げていく熱より多いあいだは、お湯の温度は上がり続けます。温度が頭打ちになるのは、入る熱と逃げる熱がつり合った瞬間。地球の夏もこれと同じで、日ざしが弱まり始めても、地面や海があたたまり続けているあいだは気温が上がり続けます。その「つり合いの瞬間」が、ちょうど立秋のあたりに来る——だから立秋は暑い。むしろ「最も暑いところが折り返し地点」というのは、理屈としてはとても素直なのです。
理由その3:そもそも日本の気候でつくられた暦ではない
加えて、二十四節気はもともと古代中国、黄河流域あたりの内陸性の気候を目安につくられた農業のものさしです。それが日本に伝わり、平安時代ごろから暮らしのなかに定着していきました。
内陸の大陸性気候は、海に囲まれた日本より季節の切り替わりが早く、湿度も低い。一方で日本の夏は、太平洋高気圧と湿った空気に長く覆われます。「体感より暦のほうが半月ほど早い」と感じるのは、この生まれの違いが理由だと説明されます。
ですから「立秋なのに暑い」は、暦が間違っているのでもなく、気候がおかしくなったのでもありません。暦は「これから向かう方向」を示し、体感は「今いる場所」を示している。その二つがずれているのが、日本の8月です。この記事も含め、8月の予習は「暦が半歩先を歩いている」という前提で読むと、ちょうどよく噛み合います。
暑中見舞いから残暑見舞いへ——切り替えはいつ、どう書く
立秋がいちばん実用的に効いてくるのが、この「季節のお便り」の切り替えです。
- 暑中見舞い……立秋の前日まで(2026年なら8月6日まで)
- 残暑見舞い……立秋から(2026年なら8月7日から)。届く目安は8月末まで
- 遅れてしまった場合でも、白露に入る前——9月上旬までには届くように、とされることが多いです(2026年の白露は9月7日)
「暑さのピークだから暑中見舞い」ではなく、暦の立秋できっぱり切り替わるのがポイント。8月7日以降に「暑中お見舞い申し上げます」と書いてしまうと、知っている方には少し気になります。逆に言えば、この一行を変えるだけで、季節をわかっている人の便りになります。
残暑見舞いの組み立て方
- 1行目:「残暑お見舞い申し上げます」(少し大きめに、単独の行で)
- 2行目以降:時候のあいさつと、相手を気づかう言葉。「立秋とは名ばかりの暑さが続いております」「朝夕に少しずつ秋の気配を感じるころとなりました」など
- 中ほど:近況をひとこと。長く書かず、2〜3文で十分です
- 結び:相手の健康を願う言葉。「まだしばらく暑さが続きます。どうぞご自愛ください」
- 日付:「令和八年 晩夏」「令和八年 八月」のように、和暦+季節の言葉で結ぶ書き方が一般的です
拝啓・敬具といった頭語・結語は付けないのが通例とされています。季節の見舞い状は、堅苦しい書状ではなく「気にかけていますよ」という合図だからです。
なお、お相手に不幸があった年でも、残暑見舞いはお祝いごとではないため出してよいとされるのが一般的です。ただし、はがきのデザインは派手なものを避け、文面も控えめにする——といった配慮をすることが多いようです。このあたりは地域や家の考え方もありますので、迷ったら身近な年長の方に一度うかがってみると安心です。
8月のお盆——7月盆と8月盆、どうして地域で違うのか
8月最大の行事が、お盆です。ところがこのお盆、「うちは8月」「うちは7月」と地域によって時期が違うという、ちょっとややこしい行事でもあります。
きっかけは、明治の改暦
もともとお盆は、旧暦(太陰太陽暦)の7月15日を中心に行われる行事でした。ところが明治6年(1873年)、日本は旧暦から新暦(太陽暦)に切り替わります。このとき、行事の日付をどう引っ越させるかで、対応が分かれました。
- 日付をそのまま新暦に移した……新暦7月15日ごろにお盆を行う。「7月盆」「新盆(しんぼん)」
- ひと月ずらして季節感を合わせた……新暦8月15日ごろに行う。「8月盆」「月遅れ盆」
- 旧暦の日付を追い続けた……その年の旧暦7月15日に行う。年によって日付が動く(沖縄・奄美などで今も行われています)
なぜ分かれたのか。よく説明されるのは農作業との兼ね合いです。新暦7月中旬は、農村では田の手入れなどでいちばん忙しい時期にあたります。そこに数日のお盆行事を入れるのは現実的ではなかった。そこで多くの地域が、ひと月遅らせて8月に行うようにした、というわけです。
一方で、改暦を進める明治政府のお膝元だった東京とその周辺、そして都市部では、新暦の7月にそのまま移行した地域が多かったとされています。東京・横浜・金沢の一部・静岡の都市部などが7月盆、それ以外の多くの地域が8月盆、というおおまかな分布は、この経緯の名残です。
神楽坂は東京ですから、地元のお盆は7月。けれど帰省先は8月、という方も多いはずです。「7月にも8月にも、二度お盆がある」という感覚は、東京で暮らす人にはむしろ自然なのかもしれません。
「新盆」という言葉のややこしさ
ひとつ注意したいのが「新盆」という言葉です。これには二つの意味があります。
- 新暦7月に行うお盆という意味の「新盆(しんぼん)」
- 故人が亡くなって四十九日を過ぎたあと、初めて迎えるお盆という意味の「新盆(にいぼん・あらぼん・しんぼん)」=「初盆(はつぼん・ういぼん)」
会話のなかで「今年は新盆で」と言われたときは、たいてい後者——初めてのお盆のことです。この場合、通常のお盆より丁寧に営まれることが多く、白い提灯を用意したり、法要を行ったり、親族が集まったりします。お花のご注文でも「初盆なので」という前置きがつくと、意味合いがかなり変わります。
なお、四十九日がお盆より後に来る場合は、その年ではなく翌年が初盆になると考えるのが一般的です。ただしこれも地域やお寺の考え方で異なることがありますので、菩提寺に確認するのが確実です。
お盆の四日間——迎え火・送り火・精霊馬のこと
8月盆の場合、13日から16日までの四日間が基本の流れになります。
- 8月13日(迎え盆)……夕方に迎え火を焚き、ご先祖をお迎えする
- 8月14日・15日(中日)……お供えをし、お参りをし、家族で過ごす
- 8月16日(送り盆)……夕方に送り火を焚いて、お見送りする
7月盆の地域では、これがそのまま7月13日〜16日に置き換わります。
迎え火・送り火の一般的なやり方
もっとも広く知られている形は、玄関先や庭で焙烙(ほうろく)という素焼きの平皿の上におがら(麻の茎を乾かしたもの)を置き、火をつけて燃やすというものです。火は古くから「霊を導く灯」とされ、迎え火は帰り道を照らし、送り火は「また来年」と見送る合図だと説明されます。
- 時間帯の目安……日が落ちる前後、17時〜19時ごろに焚かれることが多いようです
- 必要なもの……焙烙、おがら、着火するもの、そして消火用の水。おがらと焙烙はセットで市販されています
- 集合住宅などで火が使えないとき……盆提灯や、電池式のろうそく・行灯で代える方法が広く紹介されています。火を焚くこと自体が目的というより、「迎える気持ち・送る気持ちを形にすること」が中心だと考えれば、無理をする必要はありません
マンションのベランダや共用廊下での火の使用は、規約で禁じられていることがほとんどです。安全と管理規約を最優先に、ご自宅に合った形を選んでください。
精霊馬——きゅうりの馬と、なすの牛
お盆の飾りといえば、きゅうりとなすに割り箸などを刺した、あの素朴な四本足の姿を思い浮かべる方も多いでしょう。精霊馬(しょうりょううま)と精霊牛(しょうりょううし)と呼ばれるものです。
- きゅうり=馬……足の速い馬に乗って、少しでも早く帰ってきてほしいという気持ち
- なす=牛……歩みのゆっくりな牛に乗って、名残を惜しみながらゆっくり戻ってほしい、あるいはお供えを牛に載せて持ち帰ってほしい、という気持ち
由来の説明は地域によって少しずつ違い、「行きは牛、帰りは馬」と逆に伝わる地域もあります。どちらが正しいというより、その土地に伝わってきた形が正解と考えるのがよさそうです。
大切な前提——宗派・地域でまったく異なります
ここまで書いてきた迎え火・送り火・精霊馬は、あくまで「広く見られる形のひとつ」です。お盆の作法は宗派によっても地域によっても、さらには家によっても異なります。
たとえば浄土真宗では、故人はすぐに浄土に往生すると考えるため、「霊が帰ってくる」という前提の飾りつけ——精霊馬や迎え火・送り火——を行わないのが一般的だとされています。お盆の時期には「歓喜会(かんぎえ)」と呼ばれる法要が営まれ、亡き人をしのびながら、教えに耳を傾ける機会として過ごす、という考え方が紹介されています。
迷ったときは、菩提寺やご家族の年長の方に確認するのがいちばん確実です。この記事の内容を「決まりごと」として持ち込まないよう、どうかご注意ください。
お盆のお花、どう選ぶ?——本数・色・避けられがちな花
花屋の立場から、いちばんご相談の多いところです。ただしここでも大前提として、お供えの花のならわしは地域と家で本当に幅があります。「こうしなければいけない」ではなく、「こう考えられていることが多い」という目安として読んでください。
本数は「奇数」が目安とされます
仏花は3本・5本・7本といった奇数で束ねるのが一般的だと説明されます。偶数は「割り切れる=別れ」を連想させるため避けられてきた、という理由づけがよく紹介されます。
- 3本……過去・現在・未来の三世を表すという説明があります
- 5本……仏教の五戒になぞらえる説明があります
- 一般的な大きさのお仏壇では、花立ひとつにつき5本または7本あたりが、見た目のバランスも取りやすい本数だとされます
そして忘れずに——仏花は左右一対(二束)でお供えするのが基本とされます。「3本を2束」といった数え方になりますので、ご注文の際は「片側ぶんか、一対か」をはっきり伝えていただけると確実です。
色の考え方
- 四十九日を迎える前……白を中心にまとめるのが無難とされます
- 四十九日以降・通常のお盆……白に加えて、淡い黄色・紫・ピンクなどを入れる形が広く受け入れられています
- 初盆……白を基調にする考え方が根強い一方、「故人が好きだった色を」という選び方も近年は広く受け入れられています
五色(白・黄・赤・紫・ピンクなど)で組む考え方もありますが、これも地域差があります。お届け先のご家庭に前例があるなら、それに合わせるのがいちばん間違いがありません。
避けられることが多い花と、その理由
「タブー」と強く言い切る書き方をよく見かけますが、実際にはそこまで厳格でないご家庭も多いです。理由のほうを知っておくと、判断しやすくなります。
- とげのある花(バラ、アザミなど)……とげが殺生や痛みを連想させるため、とされます。どうしても使いたい場合は、とげを丁寧に取り除いて用いるという考え方もあります
- 毒をもつ花(スイセン、スズラン、キョウチクトウ、ヒガンバナなど)……お供えに毒を上げるのは避けたい、加えて小さなお子さんやペットが触れる危険を避けたいという実際的な理由もあります
- 香りの強い花(強香のユリ、キンモクセイなど)……お線香の香りや、お供えのお食事の香りを邪魔してしまうため、とされます
- つる性の花……巻きつく姿から避けられることがあります
- 花首から落ちる花(ツバキなど)……散り方の印象から避けられることがあります
ユリについては、香りの強い品種は花粉を取り除いたうえで使う、あるいは香りの穏やかな品種を選ぶ、という対応が現実的です。花粉はお仏壇や敷物を汚しやすいので、いずれにせよ取っておくと安心です。
菊以外の選択肢と、夏に持ちやすい花
菊が仏花の定番になったのには理由があります。日持ちがよく、花びらが散らかりにくく、香りが穏やか——夏場のお供えに必要な条件をひととおり満たしているのです。ただ、菊だけである必要はありません。
- リンドウ……秋の花ですが8月から出回り始めます。青紫が落ち着いていて、仏花に組み込みやすい花です
- ケイトウ……夏から秋の花。花もちがよく、赤・オレンジ・淡い色と幅があります
- スターチス……乾いた質感で、暑さに強く、非常に長く楽しめます
- グラジオラス……縦のラインが出るので、お仏壇まわりの姿が決まりやすい花です
- トルコキキョウ……夏が旬で水揚げがよく、夏場でも2週間ほど楽しめるとされます。白や淡い紫は特にお供えに向きます
- カーネーション……日持ちがよく、色の選択肢も広い花です
また、お盆ならではの草花としてミソハギとホオズキがあります。ミソハギは7〜9月に咲く小さな紅紫の花で、「盆花」「精霊花」とも呼ばれます。「禊(みそぎ)」に通じる名として、水を清める意味を託されると説明されることが多く、水辺に育つ姿から「ご先祖の喉をうるおす」という言い伝えも各地に残ります。ホオズキは、赤く丸くふくらんだ袋が盆提灯に見立てられ、灯りの代わりとして飾られてきました。
夏のお供えを長持ちさせるために
- 水はできれば毎日替える……夏場は水中の細菌が一気に増え、茎の吸水口をふさいでしまいます。日持ちの差はここでいちばん大きく出ます
- 水は浅めに……たっぷり入れたほうがよさそうですが、水に浸かる茎が長いほど傷みやすくなります。花立の三分の一ほどでも十分なことが多いです
- 水に浸かる葉は落とす……水中で葉が腐ると、一気に水が濁ります
- 置き場所……直射日光、エアコンの風の直撃、テレビや家電の熱を避けます
- 切り戻し……2〜3日に一度、茎の先を1センチほど斜めに切り直すと、吸い上げが戻りやすくなります
切り花の延命剤を使うのもひとつの方法です。抗菌成分が水の傷みを抑えるため、気温の高い時期ほど効果を感じやすいと言われています。
お盆の花は「早めに」——需要が集中する時期の段取り
これは花屋として、いちばんお伝えしたい実務の話です。お盆の花は、直前ではなく早めに手配してください。
理由はシンプルで、お盆は一年で最も切り花の需要が集中する時期のひとつだからです。日本中の家庭とお寺とお墓が、ほぼ同じ数日間に、同じような花を必要とします。その一方で、8月は暑さのために産地の生育が不安定になりやすく、質のよい花の数はむしろ絞られます。需要が跳ね上がり、供給が細る。当然のこととして、品薄と価格の上昇が起こります。
近年は、そもそもの切り花の単価が上がっている点も見逃せません。生産に使う燃油・肥料・資材・輸送費の上昇が続いており、切り花全体の平均単価は数年前と比べて明確に高い水準にあると報じられています。「去年と同じ予算では、去年と同じ量が入らない」ことが起こりうる——これはお客様側でも知っておいていただくと、当日の落差が小さくて済みます。
おすすめの段取り
- 7月下旬〜8月上旬……必要な数を数える。「お仏壇に一対」「お墓に一対」「実家に持っていくぶん」など、置き場所ごとに数えると漏れません
- 8月上旬(立秋の前後)……花屋に相談・予約。初盆の場合や、決まった形がある場合は、この段階で伝えておくと確実です
- 8月10日〜12日ごろ……受け取り。迎え火の13日に間に合わせるなら、この数日が本番です
- 8月13日〜16日……水替えを毎日。中日に一度、傷んだ花だけ抜いて整えると、最後まできれいに保ちやすくなります
遠方へお届けする場合は、さらに数日の余裕を見てください。運送も同じ時期に混み合いますし、真夏の輸送は花にとって負担が大きいものです。「13日必着」ではなく「11日か12日に届く」よう組んでおくと、万一の遅れも吸収できます。
また、お盆の直前は多くの花屋・市場が特別な営業体制になります。市場の休市日も年により動きますので、お盆の週の営業日は事前に確認しておくのが安心です。
8月の行事カレンダー——八朔から送り火まで
お盆以外にも、8月には季節を区切る行事が並びます。順に見ていきましょう。
8月1日:八朔(はっさく)
「八朔」は八月朔日(はちがつさくじつ)=8月1日の略。旧暦の8月1日ごろは、ちょうど稲の穂が実り始める大切な時期にあたりました。そこで豊作を祈る行事が行われるようになり、「田の実の節供(たのみのせっく)」と呼ばれます。
おもしろいのはこの先で、「田の実」が「頼み」に通じることから、日ごろ世話になっている相手に初穂や品を贈るあいさつの日へと意味が広がっていきました。言葉の音の重なりから風習が生まれるというのは、いかにも日本らしい成り立ちです。
今もこの日を大切にしているのが、京都の花街です。祇園などでは、8月1日の午前中、芸妓さん・舞妓さんが黒紋付の正装でお茶屋や芸事のお師匠さんのもとへあいさつに回ります。真夏の京都に黒紋付という取り合わせは、暑さのなかにきりりとした緊張感があり、夏の名物のひとつになっています。
8月7日:立秋
前述のとおり、暦の上の秋の始まり。ここから秋分(9月23日ごろ)までのあいだが「残暑」と呼ばれる期間です。お便りの言葉が切り替わり、店先の花も、少しずつ秋の色を混ぜ始める節目になります。
8月11日:山の日
比較的新しい祝日です。2014年(平成26年)に祝日法が改正され、2016年(平成28年)1月1日から施行されました。趣旨は祝日法に「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」と定められています。
誕生のきっかけは、「海の日があるのに山の日がないのはどうか」という素朴な問題意識だったと伝えられます。超党派の議員連盟が法案をまとめ、2014年5月に成立しました。
日付の選定にはいくつか事情があったとされます。当初は祝日のない6月や、海の日の翌日なども候補に挙がりましたが、お盆休みとつなげて連休にしやすいことから8月が有力になりました。当初案にあった8月12日は、1985年の日本航空123便墜落事故の日にあたるため配慮され、11日に落ち着いたと報じられています。「八」が山の形に見える、漢数字の八に11を添えると木が二本立つように見える、といった説も語られますが、これらは後づけの語呂合わせとされています。
実務的には、山の日から旧盆に向けて、一気に人が動き始めるという意味を持つ日です。花の手配も、この日までに済ませておくと落ち着きます。
8月12日〜15日:徳島市阿波おどり
お盆期間に行われる、日本を代表する盆踊りです。約400年の歴史をもつとされ、徳島藩祖・蜂須賀家政が天正14年(1586年)に徳島へ入って以降、藍や塩で栄えた商人たちの力に支えられて、年を追うごとに華やかになっていったと説明されています。
盆踊りはもともと、お盆に帰ってきた霊を慰め、送り出すための踊りという性格をもっていました。全国各地の盆踊りが8月中旬に集中しているのは、お盆の日程とそのまま重なっているからです。夏祭りの賑わいの底に、静かな供養の意味が流れている——そう思って眺めると、少し見え方が変わります。
8月15日:長崎の精霊流し
その年に初盆を迎えた家が、提灯や造花で飾った「精霊船(しょうろうぶね)」を作り、故人の霊を乗せて「流し場」まで運ぶ行事です。船には家紋や町名が大きく記され、大小さまざまな船が街を進みます。
特徴的なのが爆竹です。魔除け、道を知らせる音、盛大な見送り——複数の意味が語られます。中国・福建省の「彩舟流し」の文化が、江戸期に長崎の華僑を通じて伝わり、日本のお盆の文化と結びついたものと考えられている、と説明されています。しめやかな行事を想像して訪れると驚くほど賑やかですが、これは悲しみを賑やかに送るという長崎独特の弔い方です。
8月16日:京都五山送り火
お盆の締めくくりとして、もっともよく知られた行事でしょう。京都盆地を囲む山々に、五つの送り火が次々に灯ります。
- 20時00分……大文字(東山・如意ヶ嶽)
- 20時05分……松ヶ崎妙法(「妙」「法」の二字)
- 20時10分……船形万灯籠
- 20時15分……左大文字
- 20時20分……鳥居形松明
反時計回りに5分ずつずれて灯っていくこの順番は、1963年に観光の便を考えて固定されたものだと説明されています(点火時刻は年により調整されることがありますので、その年の発表をご確認ください)。
これは観光イベントではなく、お盆に帰ってきた「お精霊(おしょらい)さん」をあの世へ送り返す仏教行事です。起源には諸説あり、戦国時代に山腹で行われた万灯会が送り火になった、という説が知られています。文献としてはっきり確認できるのは1662年刊行の俳書あたりで、そこにすでに松ヶ崎の妙法、大文字、帆かけ舟が記されています。
言い方についてもひとこと。京都では「大文字焼き」ではなく「送り火」あるいは「五山送り火」と呼ぶのが通りです。焼くのではなく、送るのですから。
8月19日:伝統的七夕(旧暦の七夕)
2026年は8月19日が「伝統的七夕」にあたります。これは国立天文台が2001年から呼びかけている考え方で、定義は「処暑を含む日か、それより前で、処暑にもっとも近い新月の日から数えて7日目」。旧暦7月7日にあたる日を、現在の暦のうえで求めたものです。
新暦7月7日の七夕は、多くの地域で梅雨の真っ最中。星を見るには分の悪い日です。ところが伝統的七夕のころは梅雨が明けた夏空で、しかも旧暦は月の満ち欠けと日付が対応しているため、七日目の夜は必ず半月前後の細めの月——早い時間に沈んでくれて、天の川を見るのに都合がよいのです。2026年は上弦の2日前にあたり、半月よりやや細い月が出ます。
笹飾りは7月に済ませたとしても、8月19日の夜は空を見上げるだけの日にしてみてもいいかもしれません。
8月下旬:各地の花火大会と、夏祭りの終盤
花火大会は7月から8月に集中しますが、もともと川開きや、疫病・飢饉の犠牲者を弔う慰霊の行事として始まったものが少なくありません。打ち上げ花火が夏の夜に上がるという習慣そのものが、お盆の季節と無関係ではないのです。
8月の下旬になると、祭りの数は目に見えて減ります。かわりに始まるのが、秋の気配を先取りする行事——そして、次の節目です。
🌻 8月に楽しみたい花
- 🌻 ヒマワリ(8月もまだ咲く)
- 🌸 桔梗・撫子(秋の七草の早咲き)
- 🪷 蓮(8月上旬まで)
- 🌺 ハイビスカス(南国の夏)
- 🌾 ススキ(お月見準備)
ここに、店頭で出会える花をもう少し足しておきます。8月の花屋は、「夏の名残」と「秋の走り」が同じバケツに並ぶ、一年でいちばん季節の混じった売り場になります。
まだ夏——8月前半に元気な花
- ヒマワリ……8月いっぱいは出回ります。大輪の一本挿しも、小輪を数本まとめるのも夏らしい姿です。茎が水を汚しやすいので、水は浅めに、こまめに替えるのがコツ
- ケイトウ……夏から秋にかけての長い出回り。とさか状のもの、ろうそくのような槍鶏頭、羽毛状のものと形の幅が広く、花もちも良好です
- トルコキキョウ……夏が旬。水揚げがよく、夏場でも2週間ほど楽しめるとされます。八重の品種は華やか、一重はすっきりと。お供えにも贈り花にも使いやすい万能選手です
- グラジオラス……真夏の代表格。下から順に咲き上がるので、咲き終わった花を摘みながら長く楽しめます
- スターチス/千日紅……乾いた質感で暑さに強く、そのままドライフラワーにもなります
- ミソハギ・ホオズキ……お盆まわりの草花。季節がはっきり出ます
もう秋——8月後半から顔を出す花
- リンドウ……お盆の需要に合わせて8月から本格的に出回ります。深い青紫は、この時期の売り場でひときわ涼しく見えます
- ワレモコウ(吾亦紅)……7月から10月ごろが花期で、出回りのピークは9月ごろとされます。細い枝先につく、小豆色の小さな穂。ススキやリンドウと合わせると、一気に秋の景色になります
- ススキ……8月下旬から「走り」が出始めます。中秋の名月に向けて、9月に本番を迎えます
- ダリア……本来の旬は秋。関東のダリア園の最盛期は9月から10月ごろとされ、8月の暑さのなかでは日持ちが落ちやすい花です。茎が空洞で傷みやすいため、夏場は仕入れを控える花屋もあります。8月に飾るなら、涼しい産地のものを選び、水を浅く・こまめに替えるのが前提になります
- 輪菊・小菊・スプレーマム……お盆の需要期。とくに8月上旬から中旬は、一年で最も動く時期のひとつです
ひとつだけ、8月の花選びの心得を。この時期は「暑さに勝てる花」を軸に組むのが正解です。繊細で美しい花ほど、真夏の室内では実力を出しきれません。ケイトウ、スターチス、トルコキキョウ、菊——一見地味に思える顔ぶれが、8月にはいちばん頼りになります。

7月から8月へ——夏のピークから、ゆっくり秋へ。植物も着実に「次の季節」を準備してるんだよ。
8月の終わりから9月へ——二百十日と、秋の予習
送り火が終わり、処暑を過ぎると、8月はもう仕舞いに入ります。ここから先は、次の季節の準備期間です。
9月1日ごろ:二百十日(にひゃくとおか)
二十四節気とは別に、日本で独自に加えられた季節の目印を「雑節(ざっせつ)」と呼びます。節分、彼岸、八十八夜、入梅、半夏生、土用——このあたりはおなじみですが、そのひとつが二百十日です。
これは立春から数えて210日目のこと。2026年は9月1日にあたります。さらに10日後の「二百二十日」も同じ性格の日です。
なぜこの日が印になったのか。ちょうど稲の開花期にあたるうえ、台風の襲来しやすい時期と重なるからです。稲の花が咲くタイミングで強風にやられると、その年の実りが決定的に損なわれます。天気予報のなかった時代、農家にとってこの日は「油断ならない厄日」でした。
そこで各地で行われたのが風祭(かざまつり)——風を鎮め、収穫の無事を祈る祭りです。その代表格が、富山県富山市八尾で毎年9月1日から3日に行われる「おわら風の盆」。約300年続くとされるこの行事も、もとは風の災いを鎮め、豊作を祈るために始まったものだと説明されています。胡弓の音に合わせた、静かで艶のある踊り。夏の終わりを見送る行事として、これ以上ないたたずまいです。
9月の予習——白露・重陽・お彼岸
- 9月7日ごろ:白露(はくろ)……草に朝露が結び始めるころ。残暑見舞いを出すなら、この前日までが目安とされます
- 9月9日:重陽(ちょうよう)の節句……五節句のひとつで、「菊の節句」とも呼ばれます。陽の数(奇数)で最大の「九」が重なるおめでたい日。菊を飾り、花びらを浮かべた酒で長寿と無病息災を願うならわしが伝わります。桃の節句や端午の節句にくらべると影が薄いのですが、花屋にとっては一年で最も菊が主役になる日です
- 9月20日〜26日:秋のお彼岸(2026年)……中日である秋分の日は9月23日(水)。お墓参りの時期で、再びお供えの花の需要が高まります
ちなみに2026年の9月は、敬老の日(21日・月)と秋分の日(23日・水)に挟まれた22日(火)が祝日法により休日となり、9月19日(土)から23日(水)までの5連休になります。お彼岸と大型連休が重なりますので、お墓参りの花も、お盆と同じく早めの手配が安心です。8月のうちにカレンダーを見ておくと、慌てずに済みます。
8月をひと目で——予習チェックリスト
7月末までに
- 帰省・お盆の日程を家族と確認する(7月盆か、8月盆か)
- お供えの花が何組必要か数える(お仏壇・お墓・持参ぶん)
- 暑中見舞いを出すなら、8月6日までに届くように
8月上旬(1日〜10日)
- 1日・八朔。お世話になっている方へのごあいさつを思い出す日
- 7日・立秋。ここから便りは「残暑お見舞い」に切り替え
- お盆の花を予約・手配する(初盆なら早めに相談を)
- 遠方へ贈る花は、この時期に発送日を押さえる
8月中旬(11日〜16日)
- 11日・山の日。ここから人も物流も一気に動き出す
- 13日・迎え火。お供えの花は前日までに整えておく
- 14日・15日・中日。水替えを毎日、傷んだ花は抜く
- 16日・送り火。京都では五山送り火が20時から
8月下旬(17日〜31日)
- 19日・伝統的七夕。夜空を見上げる日にする
- 23日・処暑。日暮れの早さを意識してみる
- 残暑見舞いは月内に届くように
- 9月のお彼岸・重陽をカレンダーに書き込んでおく
おわりに——暦は、半歩先を歩いている
8月というひと月を並べてみると、この月がいかに「送る」ことに満ちているかがわかります。ご先祖を送る迎え火と送り火、山に灯る五つの火、川を下る精霊船、風を鎮める祭り。そして、夏そのものを送る行事の数々。
暦の上で秋が始まるのは、いちばん暑い日です。夏の盛りにもう次の季節の名前がついている——最初は理不尽に思えるこの仕組みも、ひと月の行事をたどったあとでは、少し違って感じられるのではないでしょうか。暦は「今」ではなく「向かう先」を教えてくれるもの。だから半歩先を歩いていて、だから予習ができるのです。
今日はまだ7月の終わり。ヒマワリが元気で、蝉が朝から鳴いていて、秋の気配などどこにもありません。それでも、来週には風の名前がつき、再来週にはお盆が来て、月末には霧の候になります。
花屋の店先は、その半歩先を先に映します。ヒマワリの隣に青いリンドウが並び、その横に小豆色のワレモコウが立つ。売り場が季節の変わり目を先に知らせてくれるのは、この仕事のいちばん静かな楽しみかもしれません。8月の予習を済ませたら、あとはその移り変わりを、ゆっくり眺めていただければと思います。
※本記事は日本の暦・季節文化を紹介するものです。気軽な参考としてお楽しみください。行事の作法や日程は、宗派・地域・ご家庭によって異なります。二十四節気・雑節の日付は国立天文台の暦要項に基づく目安であり、年により前後します。
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