夏の和菓子といえば水まんじゅう・水ようかん・葛切り。「氷」「水」をテーマにした和菓子に、お花を添えてみませんか?

神楽坂の和菓子は梅花亭・五十鈴・清水の3店がおすすめ(和菓子の日記事もどうぞ)。
🍡 夏の和菓子「水・氷・涼」を表現する芸術
💧 水まんじゅう
葛粉(くずこ)や寒天で作る、透明な皮の中にあんこ。冷やして食べる涼やかな夏菓子。ガラスの器に盛れば、まさに「食べる宝石」。
🧊 水ようかん
普通のようかんより水分多めで柔らかい。竹筒に詰めた「竹水ようかん」も夏の名物。冷たい緑茶と共に。
🍂 葛切り
葛粉を麺状にして冷やし、黒蜜やきな粉で。京都の名物として知られ、夏の高級和菓子の代表。

夏の和菓子って、本当に芸術ですよね…!

日本人は「目で食べる」文化。「涼を感じる季節感」を和菓子で表現する技術は、世界に誇れる文化です。
🌸 和菓子+お花のペアリング
- 💧 水まんじゅう × 青いアジサイ(涼の極み)
- 🍵 抹茶きんとん × 季節の上生菓子向け一輪
- 🌿 葛切り × ハーブティーと小さなブーケ
神楽坂の和菓子は梅花亭・五十鈴・清水の3店がおすすめ。詳しくは和菓子の日と神楽坂の老舗3店もご覧ください。
夏の和菓子は、なぜ「透きとおって」いるのでしょう
お菓子屋さんのショーケースが、夏になるとすうっと明るくなる。あの感じ、伝わるでしょうか。冬の間ずっと並んでいた、こっくりと茶色いお饅頭や栗のお菓子が、六月あたりからだんだんと姿を消して、代わりに透明なもの、ひんやり光るものが増えてくる。水まんじゅう、水ようかん、くずきり、わらび餅。どれも向こう側が透けて見えます。
これは偶然ではありません。日本の夏の涼のとり方は、昔から「本当に温度を下げる」ことよりも、「涼しさを目で感じる」ことに重きを置いてきました。風鈴の音、簾(すだれ)ごしの光、打ち水で濡れた石畳。どれも気温をほとんど変えないのに、確かに涼しい。和菓子の透明も、その仲間です。氷を映し、水を映し、光を通す。食べる前から、もう半分涼んでいる。
花の世界にも、まったく同じ考え方があります。夏の花あしらいで白や淡い青が好まれるのは、色そのものが涼しいから。桔梗の紫紺、露草の青、ホタルブクロの半透明にうつむいた花びら。ガラスの器に一輪、水をたっぷり見せて生ける——あれは「水を飾っている」んですね。夏の和菓子と夏の花は、同じことを別の材料でやっているのだと思います。

花屋も夏は「水の見せ方」がぜんぶなんですよ。ガラスの花器を出す、水を多めに張る、それだけで店の空気が変わる。和菓子屋さんと発想がそっくりで、いつも感心します。
水まんじゅう——「水の都」だから生まれたお菓子
まずは水まんじゅうから。あの、小さなガラスの器(猪口)に入って、井戸水や氷水に沈んでいる、ぷるんと丸いお菓子です。
発祥は岐阜県の大垣市。誕生は明治時代と伝えられています。ここが大事なところなのですが、水まんじゅうは「大垣だからできた」お菓子でした。大垣は地下水が自然に噴き出す土地で、「水の都」と呼ばれるほど水に恵まれています。市内には今も湧き水のスポットがいくつもあります。
冷蔵庫のない時代、大垣の家々には「井戸舟(いどぶね)」と呼ばれる水槽がありました。湧き出す冷たい地下水を絶えず流し込んで、その中で野菜や果物を冷やす。つまり、天然の冷蔵庫です。この井戸舟があったからこそ、「夏に、冷たいまま食べるお菓子」という発想が成り立ちました。水がなければ、水まんじゅうは生まれなかったのですね。
もうひとつ面白いのが、生地の工夫です。当初は葛粉(くずこ)だけで作られていたそうですが、葛だけだと水に長く漬けて冷やしたときに硬くなってしまう、という問題がありました。そこで水に強いわらび粉を合わせることで、冷やしてもやわらかく、あのぷるんとした食感が保てるようになった——と言われています。作り手が井戸舟と何度も向き合った末の答えなのだと思うと、あの小さなお菓子がずいぶん違って見えてきます。

あのガラスの器って、涼しく見せるための演出だと思っていました。もともとは本当に水で冷やしていたんですね。
水ようかん——実は「冬のお菓子」だったという話
次は水ようかん。夏の代表選手のような顔をしていますが、実はここに、和菓子好きの間で語り継がれている面白い話があります。
諸説あるので断定はしませんが、水ようかんはもともと冬に食べられていた、という説があります。江戸時代のなかごろに生まれ、お正月のおせちの、いわば締めの甘味として楽しまれていた——というものです。今の感覚だと逆に思えますよね。でも理由を聞くと納得できます。水ようかんは名前のとおり水分が多く、日持ちがしません。冷蔵庫のない時代、それを安心して作れるのは寒い季節だけだったのです。冬の寒さそのものが冷蔵庫だった、というわけですね。
その名残と言われているのが、福井県の「冬の水ようかん」の習慣です。福井では今も、冬になると水ようかんが店頭に並び、こたつに入って家族で食べるのが風物詩になっています。由来にはいくつかの説があり、関西へ丁稚奉公(でっちぼうこう)に出た若者が、年末の帰省のときに奉公先から羊羹を持たされたことが始まりだという言い伝えもよく紹介されます。どれが本当かは分かりませんが、こういう「土地が覚えている理由」がまだ残っていることのほうが、ずっと素敵に思えます。
ちなみに俳句の世界では、水羊羹は夏の季語として扱われます。冷蔵の技術が広まって、夏の涼菓として親しまれるようになった歴史のほうが、今では表に立っているのですね。ひとつのお菓子が季節を引っ越した、という珍しい例です。

季節が引っ越すお菓子……。花にも、昔と今で咲く時期の印象が変わったものがいるよね。
くずきり——室町から続く涼、そして京都の名物へ
くずきりは、葛粉を水で溶いて薄く流し、火を通して固め、細く切ったもの。黒蜜にくぐらせていただく、あの半透明の帯のようなお菓子です。
歴史はかなり古く、葛切りに近い菓子は室町時代のなかごろにはすでにあったと言われています。ただ、その後ずっと途切れずに人気だったわけではないようで、いったん世間から忘れられていた時期があったとも伝わります。
それを再び広めたのが、京都・祇園の老舗和菓子店です。昭和のはじめごろ、近隣のお茶屋さんや芝居小屋に出前していたのが始まりで、昭和三十年代に口づてで評判が広がり、店内でもお出しするようになった——と語られています。今では「京都でくずきり」と聞けば、多くの人が同じ光景を思い浮かべるほどの名物です。
くずきりが京都で花開いたのには、理由があるように思います。原材料は基本的に葛粉と水だけ。ごまかしがきかない。そして、作り置きができない。注文を受けてから一から作り、できたてを出す——という手のかけ方が成り立つ土地だった、ということなのでしょう。

材料が二つだけって、逆にすごく怖いですね。粉の質がそのまま出ちゃうってことじゃないですか。
「本葛(ほんくず)」——秋の七草の根から、ほんの少しだけ
ここからは材料の話です。ここが一番、花屋として語りたいところでもあります。
葛粉の原料である「クズ」は、マメ科のつる植物で、秋の七草のひとつ。山野に当たり前のように自生していて、夏になると恐ろしい勢いでつるを伸ばす、あの植物です。そんなありふれた植物なのに、なぜ本葛はあれほど高価なのでしょう。
根を掘り、水にさらし、二〜三か月
理由のひとつは、採れる量です。葛の根から得られるでんぷんは、おおむね原料の一割前後と言われます。つまり、根を百キロ掘っても、粉になるのは数キロから十キロ程度。しかも根は山の中にあり、掘り出すのは冬。重労働で、担い手も減っていると報告されています。
もうひとつは、作り方です。奈良・吉野に伝わる「吉野ざらし(寒晒し)」という製法では、砕いた根を冷たい水でかき混ぜ、上澄みを何度も入れ替えながら、不純物を取り除いていきます。この作業をおよそ十日間くり返し、さらに一か月以上かけて自然乾燥させる。全工程で二〜三か月かかると紹介されています。真冬の水でこれを続けるわけです。高価なのも当然だと思います。
原材料表示を見ると、ちゃんと分かります
これだけ手間がかかるものですから、市場には葛でんぷん百パーセントのものと、他のでんぷんを合わせたものの両方が流通しています。奈良県では、ブランドを守るために、葛でんぷん百パーセントのものを「吉野本葛」、葛でんぷんの使用が五割を超えるものを「吉野葛」と呼び分けています。
見分け方はとてもかんたんで、パッケージ裏の原材料名を見るだけです。
- 「葛でんぷん(葛澱粉)」だけが書かれていれば、本葛百パーセント
- 「葛澱粉、澱粉」「葛澱粉、甘藷澱粉」などと続いていれば、他のでんぷんも使われている
- 原材料名は、使用量の多い順に並ぶのが決まりです。並び順も手がかりになります
ここで、ぜひ誤解しないでいただきたいことがあります。混ざっているものが「偽物」なのではありません。馬鈴薯(じゃがいも)でんぷんやさつまいものでんぷんを合わせた葛湯やくず菓子には、あっさりして口当たりが軽い、値段が手ごろで気軽に使える、といったちゃんとした良さがあります。本葛は本葛で、あの独特のとろみと、透明感と、口に入れてすっと消えていく感じが別格です。どちらが上ということではなく、別のお菓子として楽しむのが正解だと思います。
大事なのは、自分が今食べているものが何なのかを知っていること。表示を見る習慣がひとつ増えるだけで、和菓子屋さんの店先がずいぶん面白くなります。

葛は、花屋から見るとかなり手強いつる植物なんです。あれの根っこを冬の山で掘って、真冬の水で二か月さらす。値段の理由がそこにあると知ると、見る目が変わりますね。
本わらび餅は、なぜ「すぐ食べて」と言われるのか
最後に、わらび餅の話をさせてください。これは知っておくと、次に本わらび餅を買ったときの満足度がまるで変わります。
本わらび粉は、葛よりさらに希少
わらび粉は、山菜のワラビの地下茎(根)から採るでんぷんです。ところがワラビの根は葛の根よりも細く、採れる量がとても少ない。掘り出せるのは冬に限られ、水にさらして精製するのに長い時間がかかります。結果として、本わらび粉は本葛よりもさらに高価な材料になっています。
見た目にも違いが出ます。本わらび粉で作ったわらび餅は、透明ではなく黒っぽい褐色になります。よく見かける白く半透明のわらび餅は、他のでんぷんを使って作られていることが多い。「わらび餅って白いものだと思っていた」という方は、実は珍しくありません。ここでも、どちらが良い悪いではなく、別のお菓子だと思って味わうのがいちばん楽しいと思います。
「でんぷんの老化」——固くなり、白くなる理由
さて、本題です。なぜ本わらび餅は「できたてを食べてください」と言われるのでしょう。
鍵はでんぷんの「老化(ろうか)」という現象にあります。難しい言葉ですが、中身はとてもシンプルです。
- 粉に水を加えて加熱すると、でんぷんの分子がほどけて、水を抱え込んだやわらかい状態になります(糊化・こか)。わらび餅のあのぷるんとした状態は、これです
- ところが時間が経って冷えると、ほどけていた分子がまた寄り集まり、もとの整った並びに戻ろうとします。これが老化です
- 分子が並び直すとき、抱え込んでいた水が押し出される。水が抜けるので、固くなり、白く濁って見えるのです
ごはんを炊いて置いておくとパサつく、パンが翌日ぼそぼそになる——あれと同じ現象です。わらび餅も、でんぷんでできている以上、この運命からは逃れられません。
冷蔵庫は、いちばん固くなる場所
ここが多くの方がやってしまうところです。冷たいほうがおいしいから、と冷蔵庫へ。でも、でんぷんの老化がもっとも進みやすいのは、水が凍る手前の低温——つまり冷蔵庫の温度帯だと言われています。よかれと思って入れた冷蔵庫が、いちばん固くする場所なのです。おまけに庫内は乾いているので、表面から水分も逃げていきます。
だから、本わらび餅の正解はこうなります。
- 買ったら、その日のうちに。できれば買ってすぐ
- 冷蔵庫には入れない。涼しい場所に置いて、常温でいただく
- お店で「本日中にお召し上がりください」と言われたら、それは売り文句ではなく、材料の性質からくる本当のお願いです
できたての本わらび餅の、あのとろりと崩れて口の中から消えていく感じ。あれは時間と一緒にしか存在できない味なのだと知ると、一口目の重みが変わってきます。

いつも冷蔵庫でよく冷やしてから出していました……。あれ、わたしが固くしていたんですね。

お菓子のほうから「早く食べて」って言ってたんだね。ちゃんと理由があったんだ。
花も和菓子も、「その時しかない美しさ」
ここまで書いてきて、あらためて思うことがあります。夏の和菓子の話は、そのまま切り花の話だということです。
本わらび餅は、作られた瞬間から少しずつ固くなっていきます。くずきりは、注文を受けてから作られ、すぐに運ばれてきます。水ようかんも水まんじゅうも、日持ちのしなさと引き換えに、あの水々しさを手に入れている。日持ちしないことは弱点ではなくて、おいしさの正体そのものなのですね。
切り花もまったく同じです。桔梗が咲ききる二日間、ひまわりがいちばん胸を張っている朝、白い花が夕方の光を吸って青みがかって見える数十分。どれも取っておけません。取っておけないから美しい。造花にはこれがない、というのが、わたしたちが生の花を扱い続ける理由でもあります。
もし今年の夏、本わらび餅やくずきりを買う機会があったら、家に帰ってすぐ、冷蔵庫を開ける前に食べてみてください。そしてよければ、テーブルの端に、桔梗でもりんどうでも露草でも、青い花を一輪だけ添えてみてください。透きとおったお菓子と、水を張ったガラスと、青い花。それだけで、その日の食卓がひとつの涼になります。

「今がいちばんきれいですよ」とお伝えするのが、花屋の仕事だと思っています。和菓子屋さんの「本日中に」も、きっと同じ気持ちなんでしょうね。夏の花のご相談、いつでもどうぞ。
🌸 桔梗屋からのご案内
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※本記事は日本の暦・季節文化を紹介するものです。気軽な参考としてお楽しみください。

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