7月17〜22日頃の七十二候は「鷹乃学習(たかすなわちわざをならう)」。鷹の子が巣立ち、飛ぶ練習を始める季節という、優しいネーミング。
梅雨の名残の雲が切れて、空の色がふっと明るくなるころ。まだ湿った風のなかに、たしかに夏の匂いが混じりはじめます。暦の上では、一年を七十二に分けた細かな季節——七十二候のうち、三十三番目にあたる時期です。
七十二候は、二十四節気をさらに三つずつに分け、およそ五日ごとに季節の移ろいを言葉にした暦です。「鷹乃学習」は、そのなかでも一、二を争うほどやわらかく、そして具体的な情景を持つ候ではないでしょうか。空の高いところで、まだ飛び慣れない鷹の子が、危なっかしく羽ばたいている。そんな一場面が、たった四文字に収められています。
この記事では、「鷹乃学習」の読み方と正確な時期から、暦そのものの成り立ち、実際の日本の鷹たちの子育て、鷹と日本人の長いつきあい、そしてこの季節に咲く植物と手入れのことまで、ゆっくりとご案内します。花屋の視点から見ると、この候は「植物がいちばん力を蓄えている時期」でもあります。

動物の子供たちが「練習中」の季節。ぼくたち植物も、新葉が「展開練習」してる季節だよ!見守ってあげてね。
📅 「鷹乃学習」はいつ? 読み方と意味をやさしく
まず読み方から。「鷹乃学習」は「たかすなわちわざをならう」と読むのが一般的です。「たかすなわちがくしゅうす」と読まれることもあり、暦を紹介する資料でも両方の読みが並んでいます。どちらが間違いということはなく、七十二候の候名は漢文のような四文字を、日本語として読み下しているため、読み方に幅が生まれます。
意味を分解すると、こうなります。
- 鷹……タカ類の鳥。ここでは、その年に生まれた雛のこと
- 乃……「すなわち」。「そこで」「いよいよ」といった、場面が動くときの接続の言葉
- 学習……現代の「勉強」ではなく、わざ(技)を習い覚えること。飛び方、風の読み方、獲物のとらえ方
つまり「鷹乃学習」は、「鷹の子が、いよいよ生きるための技を習いはじめる」という意味になります。机に向かう学習ではなく、命をつなぐための実地訓練。そう思って読むと、四文字の手ざわりがずいぶん変わってきます。
時期は「小暑の末候」——おおむね7月17日〜22日ごろ
「鷹乃学習」は、二十四節気の「小暑(しょうしょ)」の末候、七十二候全体では第三十三候にあたります。小暑はおよそ十五日間で、それを三つに分けた最後の五日ほどが、この候の期間です。
節気の日付は、太陽の位置で決まるため年によって前後します。国立天文台が毎年公表している「暦要項」によると、2026年(令和8年)の小暑は7月7日、次の大暑は7月23日。小暑の期間を三等分すると、末候にあたる「鷹乃学習」はおおよそ7月17日ごろから、大暑の前日である7月22日ごろまでということになります。
資料によって「7月17日〜21日」「7月18日〜22日」など一日ほどのずれがあるのは、この三等分のしかたや、端数の扱いが資料ごとに違うためです。七十二候は「その日の行事」ではなく「このあたりの季節感」を表すものなので、一日二日の差はあまり気にせず、七月の半ばすぎとおおらかに受け取っていただくのがちょうどよいと思います。
小暑の三候(日本の七十二候)
- 初候 温風至(あつかぜいたる)……南から熱を含んだ風が吹きはじめる
- 次候 蓮始開(はすはじめてひらく)……蓮の花が咲きはじめる
- 末候 鷹乃学習(たかすなわちわざをならう)……鷹の子が飛ぶ技を習う
風・花・鳥と、五日ごとに主役が移っていきます。並べて眺めると、小暑という節気そのものが一本の短い物語のように読めてきます。
📜 二十四節気と七十二候——五日ごとの、細かな季節のものさし
「鷹乃学習」を味わうために、暦の仕組みを少しだけ整理しておきます。難しい話は最小限にします。
二十四節気は「太陽の位置」で決まる
立春・春分・夏至・立秋……といった二十四節気は、太陽が空のどこにいるかで決まります。天球上の太陽の通り道(黄道)を三百六十度とし、そこを十五度ずつ二十四に区切ったものが二十四節気です。国立天文台の説明でも、小暑は太陽の黄経が105度になる瞬間と定義されています。だから節気の日付には「7月7日10時57分」というように時刻まで付いていて、年によって一日ずれるのです。
月の満ち欠けで決まる旧暦の日付とは違い、二十四節気は太陽基準。季節と必ずぴったり対応するのはそのためで、農作業の目安として長く使われてきました。
七十二候は、それをさらに三つに割ったもの
七十二候は、二十四節気ひとつひとつを初候・次候・末候の三つに分けたもの。24×3で七十二。一候はおよそ五日です。もともとは古代中国で考案されたもので、気象の動きや動植物の様子を短い言葉で示す、いわば自然観察のメモのような暦でした。
ここが面白いところなのですが、二十四節気が古代のものをほぼそのまま受け継いでいるのに対し、七十二候は何度も書き換えられてきました。土地が違えば、鳴く虫も咲く花も違う。中国の黄河流域でつくられた候の文言が、そのまま日本の風土に当てはまるとはかぎらないからです。
渋川春海と「本朝七十二候」
その書き換えを日本で本格的に行ったのが、江戸時代の暦学者渋川春海(しぶかわ・はるみ)です。春海は1685年(貞享2年)に「貞享暦」を施行した際、日本の気候風土に合うように候の名前を改め、「本朝七十二候」と呼ばれる日本版をつくりました。日本で初めて、輸入ではなく自前でつくられた暦です。
その後も改訂は重ねられ、いま私たちが雑誌やカレンダーで目にする七十二候は、こうした日本版の系譜にあるものです。「鷹乃学習」も、そのなかで日本の空に合わせて選ばれた言葉ということになります。
中国の原文では、同じ時期の鷹は何をしているか
では、中国の七十二候で小暑のころはどう表現されているのでしょうか。中国側の小暑三候は「温風至」「蟋蟀居壁(きりぎりすかべにおる/蟋蟀居宇とも)」「鷹始鷙(たかはじめてうつ/鷹始撃とも)」とされています。
注目したいのは末候です。日本の「鷹乃学習」に対して、中国は「鷹始鷙」——鷹が獲物を襲いはじめる、という意味になります。地上の暑さを避けて涼しい高空に上がり、そこから狩りをする、という解釈が中国側の資料には見られます。
同じ「鷹」という主語でありながら、片や獲物を襲う猛々しさ、片や技を習う幼さ。視点が親から子へ、狩りから学びへと移されているわけです。日本の暦がどこに目を留めたのかが、この一語の違いによく表れています。初候の「温風至」だけが共通で、次候も日本は「蓮始開」、中国は虫の話——小暑という節気は、日本と中国でずいぶん景色の違う十五日間になっているのです。
🦅 「鷹乃学習(たかすなわちわざをならう)」——子育ての季節
七十二候の「鷹乃学習」は、鷹の雛が飛び方を学ぶ季節。春に生まれた鷹の雛が、夏になって独り立ちのための練習を始める時季。「自然界の子育ての節目」を表す美しい言葉です。
ここで少し立ち止まりたいのは、この候が「巣立ち」そのものではなく、「学習」を切り取っていることです。巣を出た瞬間がゴールなのではありません。巣から出たあとの、飛べるようで飛べない、あの頼りない数週間。暦はそこに名前をつけました。
猛禽類の子は、巣を離れてすぐ独り立ちするわけではなく、しばらくは巣のまわりの枝から枝へ飛び移りながら、風の受け方や着地を体で覚えていきます。親はその間もえさを運びつつ、少しずつ与える量や渡し方を変えていく——という段階を踏みます。できるようになるまで、そばで待つという時間が、この候には流れています。

鷹の親子って、ちゃんと「巣立ちの練習」をするんだ!自然界でも、子育てって愛情と忍耐の連続なんだよね。
🪶 日本の鷹たちは、いつ巣立つのか
「鷹」とひとくちに言っても、日本には何種類ものタカの仲間がくらしています。暦の言葉が実際の自然とどれくらい合っているのか、代表的な種類の繁殖のスケジュールを見てみましょう。
オオタカ——巣立ちは6月中旬から7月
日本の鷹の代表格ともいえるオオタカ。およそ3月から6月ごろにかけて繁殖し、マツなどの大きな針葉樹や広葉樹の高い場所に、枝を積み上げて皿のような巣をつくります。産卵数は淡い青白色の卵を2〜4個。雛は孵化からおよそ35日で巣立つとされ、時期としては6月中旬から7月にあたります。
つまり、七月半ばすぎの「鷹乃学習」は、巣立ち直後の若鳥が、飛ぶことと狩ることを覚えている、まさにその時期。暦の言葉と実際の生態が、きれいに重なります。昔の人が空をよく見ていた証拠のようで、少し感動すらおぼえます。
サシバ——里山の鷹、孵化から約36日
サシバは、田んぼと雑木林が入り混じった里山を代表するタカです。3月下旬から4月上旬に日本へ渡来し、すぐに求愛と巣づくりを始めます。産卵は4月中旬から5月上旬、抱卵はおよそ一か月、雛は2〜3羽。孵化からおよそ36日で巣立つとされています。
逆算すると、巣立ちはやはり7月ごろ。カエルやヘビ、バッタといった里山の小さな命を親が運び、若鳥はそれを追いかけるうちに狩りを覚えていきます。田んぼの上を舞う鷹を見かけたら、その年に生まれた子かもしれません。
ノスリ、ツミ——身近な空にもタカはいる
ノスリは、北海道から九州まで、日本各地で繁殖するタカの仲間です。北の地域で繁殖した個体は、冬になると南へ移動することが知られています。ゆったりと帆翔(羽ばたかずに輪を描いて飛ぶこと)する姿は、車で郊外を走っていても見かけることがあります。
ツミは、日本にすむタカのなかでもとても小型の種類。小さな体で、街の緑地や社寺の林など、意外に人の暮らしに近い場所でも姿が見られる鳥として知られています。「鷹は山奥のもの」というイメージは、じつはそれほど正確ではないのです。
東京のまんなかで、オオタカが巣立っている
都会に住んでいると、「鷹の子育て」はずいぶん遠い話に聞こえるかもしれません。ところが、そうでもないのです。
東京・港区にある国立科学博物館附属自然教育園では、2017年6月にオオタカが営巣を始め、翌年には巣立ちも記録されました。その後も営巣場所を変えながら繁殖が続き、日本野鳥の会東京の研究部の報告によれば、2024年までに19羽の雛が巣立ったとされています。ビルに囲まれた緑地のなかで、毎年きちんと「鷹乃学習」が起きているわけです。
都市の公園や大きな緑地は、樹木が守られ、ハトやムクドリなどの餌になる鳥も多い。条件がそろえば、猛禽類にとって決して悪い場所ではないということなのでしょう。散歩のとき、ふと空を見上げてみる。それだけで、この候はぐっと身近になります。
🏹 鷹と日本人——鷹狩り、家紋、そして初夢
七十二候にわざわざ鷹が登場するのは、偶然ではありません。日本人にとって鷹は、千数百年にわたって特別な鳥でした。
鷹狩りは『日本書紀』にまでさかのぼる
鷹狩りとは、訓練した鷹を放ち、鳥や小動物をとらえさせる狩りのこと。日本で最も古い記録は『日本書紀』の仁徳天皇の条にあり、百舌鳥野(もずの/現在の大阪府堺市あたり)で、飼い慣らした鷹を用いたと伝えられています。日本への伝来は四世紀ごろとみられており、五世紀から七世紀の、鷹を据えた人物埴輪も各地で見つかっています。
古代には天皇や貴族の遊びとして、中世以降は武士のたしなみとして広まりました。獲物をとるためだけでなく、領地を見回り、家臣や土地の人々と接する機会でもあったといわれます。
鷹匠という職能と、家康の「健康法」
鷹を育て、しつけ、狩りで扱う専門職が鷹匠(たかじょう)です。諏訪流をはじめとする流派が受け継がれ、織田信長に招かれた鷹匠が、のちに豊臣秀吉、徳川家康に仕えたという系譜も伝わっています。
とりわけ徳川家康は鷹狩りを好んだことで知られ、幕府の公式記録『徳川実紀』には、鷹狩りは単なる遊びではなく、体を動かして健康を保つためのものであるという趣旨の考えが記されています。若いころから鷹を育て、山野を駆け、晩年まで熱心に続けたと伝えられます。
「鷹の羽」は日本十大紋のひとつ
鷹への敬意は、家紋にもはっきり残っています。二枚の羽を交差させた「違い鷹の羽(ちがいたかのは)」をはじめとする鷹の羽紋は、日本十大紋のひとつに数えられるほど広く使われた紋です。
武士に好まれた理由は二つあるとされます。ひとつは、獲物を狙う鷹の勇猛さと賢さ。もうひとつは、鷹の羽が矢羽根(矢の後ろにつける羽)の材料として重んじられたこと。武具に直結する素材だったのです。浅野家や肥後の菊池氏が用いた紋としても知られ、同じ「違い鷹の羽」でも、羽の重ね方や渦の有無で細かく種類が分かれます。
「一富士二鷹三茄子」——鷹は縁起の二番手
初夢に見ると縁起がよいとされる「一富士二鷹三茄子(いちふじ・にたか・さんなすび)」。ここでも鷹は堂々の第二位です。由来には諸説あり、代表的なものを挙げると次のようになります。
- 語呂合わせ説……富士は「無事」、鷹は「高い(高く上がる)」、茄子は「成す(成し遂げる)」にかけたもの
- 駿河の名物説……徳川家康ゆかりの駿河国で、高いものの順に富士山・愛鷹山(あしたかやま)・初物の茄子の値段を並べたという説
- 家康の好み説……家康が富士山・鷹狩り・初物の茄子を好んだことに由来するという説
ちなみにこの言葉には続きがあり、「四扇(しおうぎ)五煙草(ごたばこ)六座頭(ろくざとう)」と数えられていきます。正月の言葉が、家康と鷹狩りを介して、真夏の七十二候とゆるやかにつながっている——暦を追っていると、こうした思わぬ橋が見つかります。
☀️ 梅雨明け、そして盛夏の入り口
「鷹乃学習」の五日間は、日本の気候にとっても大きな節目にあたります。
梅雨明けの平年値と、ぴったり重なる
関東甲信地方の梅雨明けの平年値は7月19日ごろ。まさに「鷹乃学習」のまんなかです。ちなみに2026年は、7月20日に関東甲信と東海の梅雨明けとみられると発表され、平年より1日遅い梅雨明けとなりました。
暦の言葉が「鷹の子が飛ぶ練習を始める」と告げるころ、空からは雨雲がとれ、入道雲が立ちのぼる。空が広くなる時期と、空を使う鳥が育つ時期が重なっているのは、考えてみればとても自然なことです。
すぐそこに大暑、そして夏の土用
この候が明ければ、次は一年でもっとも暑いとされる「大暑」。2026年は7月23日です。さらに、季節の変わり目の約18日間を指す「土用」もこの時期に入ります。国立天文台の暦要項では、2026年の夏の土用の入りは7月21日。うなぎでおなじみの土用の丑の日は7月26日とされています。
土用は本来、夏だけのものではありません。立春・立夏・立秋・立冬それぞれの直前にあり、年に四回あります。夏の土用だけが有名なのは、それだけこの時期の体力の消耗が大きいからでしょう。
植物にとって、いちばん危ないのは「梅雨明け直後」
園芸のうえで気をつけたいのが、まさにこの梅雨明け直後の数日です。長く曇りや雨が続いたあと、いきなり真夏の直射日光が当たる。人間が急に日焼けするのと同じで、植物も葉が焼けて茶色く傷むこと(葉焼け)が起きやすくなります。
とくに、梅雨のあいだに新しく展開したやわらかい葉は、強い光に慣れていません。天気予報で「明日から晴天が続く」と聞いたら、その前にひと手当てしておくと安心です。具体的な方法は、後の章でまとめてご紹介します。
🌻 このころ咲く花、店先に並ぶ花
鷹の子が空を練習しているころ、地上では夏の花がいっせいに顔をそろえます。この候のあたりに見ごろを迎える、あるいは出回る植物を、駆け足でご紹介します。
ヒマワリ——じつは「ずっと」太陽を追ってはいない
夏の代名詞。太陽を追って首をめぐらせる性質(向日性)で知られますが、その動きが目立つのは、茎や蕾がまだ若く伸びている時期です。若い株は、朝は東を向き、日中に太陽を追って西へ、夜のあいだにまた東へ戻る、という運動をくり返します。
ところが、花が開いて茎や花首が成熟すると、その動きは弱まり、多くは東を向いたまま止まります。畑一面のヒマワリが同じ方向を向いているのは、このためです。東向きだと朝日で花が早く温まり、花粉を運ぶ昆虫が訪れやすくなるという研究も報告されています。「太陽を追いかける花」というより、「朝いちばんに客を迎える花」と言ったほうが正確なのかもしれません。
キキョウ——秋の七草なのに、夏に咲く
紙風船のようにふくらんだ蕾が、星形に開く花。秋の七草のひとつに数えられますが、実際の開花は初夏から始まり、この候のころには各地で見ごろを迎えます。「秋の七草」は現代の秋というより、旧暦の秋の草花という意味合いが強いのです。
秋の七草のもとになったのは、『万葉集』の山上憶良(やまのうえのおくら)の歌。そこに詠まれた「朝貌(あさがお)の花」はキキョウを指すという説が有力とされています。根拠のひとつが、平安時代初期に成立した現存最古の漢和辞典『新撰字鏡』で、「桔梗」に「阿佐加保(あさかほ)」の説明があること。今のアサガオが日本に広く普及したのはもっとあとの時代なので、この説には説得力があります。
ムクゲ——朝に咲いて、夕方には閉じる
アオイ科の落葉樹で、東アジアの原産。7月から9月ごろにかけて長く咲き続けますが、じつはひとつの花は一日でしぼむ「一日花」。朝に開き、夕方には閉じてしまいます。
ここから「槿花一日の栄(きんかいちじつのえい)」——栄華のはかなさを表す言葉が生まれました。それでも木全体としては次から次へと蕾を上げ、夏じゅう咲き続けます。一輪のはかなさと、株全体のたくましさ。同じ木のなかに、まったく違う二つの時間が流れています。
ハス——四日間の、決まった物語
小暑の次候が「蓮始開」であったとおり、ハスはこの節気の主役のひとつ。開いてから三〜四日で散る短い花ですが、その四日間の進み方が、じつに整然としています。
- 一日目……早朝4〜5時ごろから花びらがゆるみ、とっくり型に少し開いたところで、8時ごろにはまた閉じてしまう
- 二日目……深夜1時ごろからゆるみ出し、朝7〜9時ごろに全開になる
- 四日目……8時ごろまでに全開となり、花びらが少しずつ散りはじめ、午後3時過ぎには散り終わる
ハスを見るなら断然、朝。お寺などで早朝拝観や観蓮会が催されるのは、この性質に合わせているからです。昼過ぎに出かけて「思ったより閉じていた」となるのは、花のせいではなく時計のせいなのです。
ホオズキ——四万六千日と、ほおずき市
橙色の袋が夏の光に透ける、涼やかな鉢物。東京では、この候の少し前に開かれる浅草寺の「ほおずき市」で知られます。
浅草寺では7月10日が「四万六千日(しまんろくせんにち)」にあたり、この日にお参りすると四万六千日分(およそ126年分)の功徳があるとされています。人の一生分にあたる長さです。江戸時代、我先に参詣しようと前日から人が集まったことから、7月9日・10日の二日間が縁日となり、ほおずき市もこの二日に開かれるようになりました。
オニユリ——種をつくらない百合
濃いオレンジに黒い斑点、大きく反り返った花びら。夏の野を飾るオニユリには、ちょっと変わった事情があります。三倍体(染色体のセットが三組ある状態)のため、種子ができません。
ではどうやって殖えるのかというと、葉の付け根にできる黒い粒「ムカゴ」と、地下の鱗茎(ゆり根)の分球によります。ムカゴは条件がよければ一株から数十個できることもあり、10〜11月ごろに育苗ポットへ植えると、半年ほどで本葉が出て、二年以内に花が咲くまで育つといわれます。種のない植物が、それでもこれだけ各地に広がっている——生き延びる道は一つではない、と教えられるようです。
ナツツバキ——「沙羅の木」と呼ばれる白い一日花
花期は梅雨のころ、6月から7月初旬。直径5〜6センチほどの白い五弁の花が、朝に開いて夕方には落ちる一日花です。地面に点々と落ちた花が、そのまま形を保っている姿にも風情があります。
「シャラノキ(沙羅の木)」と呼ばれるのは、釈迦の入滅の地にあったとされる沙羅双樹と混同されたためとされています。本来の沙羅双樹は熱帯の樹木で、日本の気候では育ちにくい。その代わりとして、朝咲いて夕に落ちるこの木が寺院に植えられ、名を引き受けてきたのです。
サルスベリ——百日紅は、じつは一日花の集まり
中国南部原産のミソハギ科の落葉樹。7月から10月にかけて、100日以上も咲き続けることから「百日紅(ひゃくじつこう)」と書きます。
ところがこれも、ひとつひとつの花はわずか一日でしぼむのです。花のかたまり(花序)にたくさんの蕾を抱えていて、次から次へと開いていくので、遠目には同じ花がずっと咲いているように見える。「長く咲く花」の正体は、短い花のリレーでした。ムクゲといい、サルスベリといい、夏の花木にはこの戦略が目立ちます。暑さのなかで一輪を長持ちさせるより、毎日新しく咲き替えるほうが理にかなっているのかもしれません。
🌿 植物にも「巣立ちの季節」がある
植物にも「子育て」のような時期があります。7月は多くの植物が「種を作る・実をつける」季節。お庭の植物をよく観察すると、夏野菜や草花の「次世代を残す姿」が見られます。
- 🥒 きゅうり・トマトの実りピーク
- 🌻 ヒマワリの種ができ始める
- 🌾 稲穂が出る(地域による)
- 🌸 朝顔の蕾が次々と

鷹の親も、植物の親も——「次の世代に命をつなぐ」夏の営みは、本当に美しい。
🌱 植物にとっての「学習」——この時期に蓄えているもの
「学習」という言葉を、もう少し植物の側に引き寄せてみます。花を咲かせ、実をつけることだけが夏の仕事ではありません。この時期の植物は、目に見えないところで、次の季節の準備を蓄えています。
生長期のピーク——一年でいちばん光を使える時期
梅雨が明けると、日照時間と気温がそろい、多くの植物にとって光合成の量が一年でもっとも大きくなる時期を迎えます。つくられた養分は、葉や茎を伸ばすだけでなく、根や球根、枝の内部にも回されていきます。
言いかえれば、いまの手入れの良し悪しが、秋や来春の姿にそのまま出るということです。真夏は「なんとかやり過ごす季節」と思われがちですが、実際にはもっとも成果が積み上がる季節でもあります。
根を張る——地上より、地下のほうが忙しい
水を吸うのは、太い根ではなく先端の細い根(細根)です。細根は土の表層近くに多く、乾燥や高温で傷みやすいという弱点があります。夏に急に元気がなくなる株は、地上部の問題というより、根がやられていることが少なくありません。
水やりを「ちょっとずつ何度も」にすると、根は水のある表層に集まりやすくなります。逆に一回でたっぷり与えると、水が下まで届き、根も深いところへ伸びやすくなります。深く張った根は、暑さにも乾きにも強くなります。地味ですが、これがこの季節のいちばん大きな投資です。
花芽分化——来年の花は、もう決まりはじめている
そしてもうひとつ、この時期に静かに進むのが花芽分化(かがぶんか)です。枝や芽のなかで、葉になる予定だった細胞が「花になる」と決まっていく現象を指します。
身近な例がアジサイ。8月ごろから翌年咲くための花芽が形づくられてくるとされ、資料によっては秋(9〜10月ごろ)を挙げるものもあります。いずれにせよ大事なのは、花芽ができたあとに枝を切ると、来年の花ごと落としてしまうということ。「去年きれいに刈り込んだのに、今年は咲かなかった」の多くは、これが原因です。
だから、前の年の枝に咲くタイプ(旧枝咲き)のアジサイは、花が終わったらすぐ、遅くとも7月中に剪定を終えるのが安全とされています。「鷹乃学習」は、アジサイの剪定にとって締め切り直前のアラームのような候でもあるのです。
鷹の子が飛び方を覚えているころ、植物は来年の花の設計図を書いている。どちらも「いまはまだ形にならない準備」という点で、よく似ています。
💧 この候にやっておきたい、夏の手入れ
ここからは実務です。梅雨明けから大暑にかけて、鉢植えと庭の植物にしておきたいことをまとめます。
1. 水やりは「早朝か夕方」に、たっぷりと
真夏の水やりは、気温の低い早朝か、日が傾いた夕方に行うのが基本です。鉢底から流れ出るまでたっぷり与えます。朝に与えても昼過ぎには乾いてしまう鉢が多いので、朝だけでなく夕方にもう一度という日が出てきます。
避けたいのは炎天下の日中。鉢や土、地面が熱をもった状態で水を与えると、鉢の中が蒸れたようになり、根を傷める原因になります。日中に「しおれている」と気づいたときは、まず鉢を日陰へ移し、気温が下がってから水をやる——この順番が安全です。
- 鉢はコンクリートに直置きしない。すのこや台に載せるだけで、鉢の温度上昇がやわらぎます
- 素焼き鉢を一回り大きな鉢に入れる「二重鉢」も、根の温度を上げにくくする工夫のひとつです
- 受け皿に水を溜めたままにしない。高温期は水が傷みやすく、根も傷みやすくなります
2. 遮光は「50%前後」が扱いやすい
梅雨明け直後の葉焼け対策には、遮光ネットが役立ちます。目安として、遮光率30%は日光を好む植物向きで、真夏の西日や猛暑日には効果が足りないこともあります。50%前後がもっとも扱いやすく、日ざしをやわらげながら明るさも残せるため、鉢植えの葉焼け対策に向いているとされます。
ネットがない場合は、午前中だけ日が当たり、午後は日陰になる場所へ鉢を移すだけでもかなり違います。西日は熱量が大きいので、まず西日を切る、と覚えておくとわかりやすいと思います。
3. 追肥は「控えめに、薄く」
よく迷うのが肥料です。生長期のピークだから、と真夏に濃い肥料を与えるのは、あまりおすすめできません。高温で根の働きが落ちているところに濃い肥料が来ると、かえって根を傷めやすくなるからです。
- 次々に花を咲かせる草花(一年草・宿根草)は、規定より薄めた液体肥料を、回数を控えめに
- ゆっくり効く緩効性の肥料は、置き場所を株元から少し離すと穏やかに効きやすくなります
- すでに弱っている株・葉焼けした株には肥料を与えない。まず日陰と水で回復を待つのが先です
- 庭木は、真夏の施肥は基本的に不要と考えて構いません
4. 切り戻し——伸びすぎた草花はいま整える
梅雨のあいだに間のびした草花は、この時期に切り戻しておくと、風通しがよくなって蒸れによる傷みが減り、秋にもう一度咲きやすくなります。全体の三分の一から半分を目安に、節(葉の付け根)の少し上で切ります。作業は涼しい時間帯に、切ったあとはたっぷり水を。
- 旧枝咲きのアジサイ……花後すぐ〜7月中に。8月以降は花芽を切ってしまう心配があります
- ムクゲ・サルスベリ……その年に伸びた枝に咲くタイプなので、大きな剪定は花が終わってから、または落葉期に
- 咲き終わった花がら……こまめに摘むと、種をつくるための消耗を減らせます
5. 切り花は、水を「毎日」替える
夏の切り花は、花そのものより水の中の雑菌で傷むことが多くなります。花瓶の水は毎日替え、そのたびに茎の先を少し切り戻す。水に浸かる部分の葉は取り除く。これだけで、もちがずいぶん変わってきます。エアコンの風が直接当たる場所や、直射日光の入る窓辺は避けたほうが安心です。
🍵 七十二候を、暮らしに取り入れる
七十二候は、覚えるものではなく使うものだと思っています。難しい知識がなくても、暮らしに引き込む方法はいくつもあります。
- 五日に一度、名前を確かめる……カレンダーの端に候の名前を書き込んでおくだけで、季節の解像度が上がります
- 候に合わせて一輪飾る……「鷹乃学習」ならヒマワリ一本、キキョウ一本。花瓶を大げさにしなくても構いません
- 空を見上げる習慣にする……鷹でなくても構いません。ツバメの若鳥、群れるムクドリ。空を見る口実として使う
- その候に何が咲いていたか、一行だけ書き残す……来年の同じ候に読み返すと、庭や街の変化がはっきり見えてきます
- 台所に落とし込む……この候なら土用が目前。冷たいものばかりにならないよう、汁物を一品、といった具合に
七十二候のよいところは、五日で必ず次が来ることです。うまくいかない日があっても、五日後にはまた新しい季節の名前が渡されます。やり直しがきく暦、と言ってもいいかもしれません。
🌾 まだ飛べない者たちのために
「鷹乃学習」という言葉が長く残ってきたのは、たぶん、そこに見守る側の視線があるからでしょう。飛べるようになった鷹ではなく、まだうまく飛べない鷹を見ている。そのまなざしが、四文字のなかにそっと畳まれています。
植物の世話も、よく似ています。この時期の水やりも、遮光も、切り戻しも、すぐに花が返ってくるわけではありません。返ってくるのは秋、あるいは来年の春です。いま手をかけているものの多くは、いまはまだ形になっていない——そう思うと、暑いさなかの水やりも、少しだけ違う意味を帯びてきます。
梅雨が明け、大暑が近づき、土用が始まる。空は高く、蝉の声は日ごとに厚くなっていきます。夕方の水やりのついでに、ほんの少しだけ空を見上げてみてください。運がよければ、輪を描きながら風を探している若い鳥に出会えるかもしれません。うまくいかなくても、それはそれで。いまは練習の季節なのですから。
※本記事は日本の暦・季節文化を紹介するものです。気軽な参考としてお楽しみください。
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