7月末の和の花は、桔梗(キキョウ)・撫子(ナデシコ)・女郎花(オミナエシ)。早咲きの秋の七草が顔を出し始める時期です。
外はまだ真夏。アスファルトの照り返しで目が眩むような日でも、市場に並ぶ花はもう秋の顔をしています。青紫の桔梗、黄色い泡のような女郎花、細い茎の先で揺れる撫子。まだ暑いのに、花のほうが先に季節をめくっていく——花屋の店先では、毎年そういうことが起こります。
この記事では、盛夏から初秋にかけて出回る「和の花」を一種ずつ、科名・特徴・出回り時期・日持ち・扱い方(水揚げのコツ)まで、できるだけ具体的にご紹介します。和室がないお住まいでも大丈夫。和の花は、洋室のほうがむしろ映えることもあります。その考え方も後半でお話しします。

「桔梗」は桔梗屋の屋号の由来でもあります。星形の青紫の花、ぜひ一輪お部屋に。
そもそも「和の花」とは、どんな花のことなのか
「和の花をください」とご相談をいただくことがあります。ただ、実は「和の花」という植物学上の区分はありません。バラ科・キク科のような分類ではなく、あくまで暮らしの中で育ってきた呼び方です。だからこそ、人によって指す範囲が少しずつ違います。
それでも、おおむね次の三つのどれかに当てはまる花が「和の花」と呼ばれています。
- 日本に古くから自生している草花——桔梗、撫子、女郎花、萩、薄(すすき)、藤袴、吾亦紅(われもこう)など。野山で見かけてきた顔ぶれです。
- 渡来したけれど、長い時間をかけて日本の暮らしに溶け込んだ花——槿(むくげ)、芙蓉、秋海棠(しゅうかいどう)など。数百年単位で庭や俳句の中に居場所を得てきた花たちです。
- 茶花(ちゃばな)として使われてきた花——茶室の床に生けられる花。派手さより、季節の気配を静かに伝えることを重んじます。
茶花の考え方——「花は野にあるように」
和の花を語るとき、必ず出てくるのが茶花という言葉です。茶の湯で床の間に生ける花のことで、千利休が残したとされる心得「利休七則」の中に「花は野にあるように」という一節があります。
これはよく「野に咲いていたそのままの姿で生けなさい」と読まれますが、伝えられている解釈はもう少し繊細です。たった一輪であっても、それを見た人の心に、野に咲いていた景色が浮かぶように生ける——大切なのは形の再現ではなく、その花が立っていた場所を思い出させることだ、という考え方です。
だから茶花は、技巧を見せません。何本も組み合わせて豪華に見せることも、めったにしません。多くは一輪挿しに一種、多くても二〜三種。花の顔を正面から見せつけるのではなく、少しうつむいた角度や、茎の自然な曲がりをそのまま活かします。
この「引き算」の感覚こそが、和の花の扱いの土台です。和の花は、たくさん買わなくていい花。むしろ一本か二本のほうが、その花らしさが立ちます。花束を作るのが前提の洋花とは、そこが大きく違います。
和の花を選ぶときの、ゆるい目安
- 本数は少なく。一種一本から始めて、物足りなければ足す。
- まっすぐな茎ばかり選ばない。少し曲がった茎のほうが景色が出ます。
- 咲きすぎているものより、つぼみが残っているものを。夏場はとくに、開ききった花から傷みます。
- 葉も一緒に見る。和の花は葉の表情が半分を担っています。
🌸 「秋の七草」の予兆——夏の終わりに咲き始める花
7月下旬、店頭に少しずつ並び始めるのが「秋の七草」の早咲き組。意外と知られていませんが、秋の七草は「鑑賞用」(春の七草は「食用」)です。
- 🌸 萩(はぎ)
- 🌾 尾花(おばな=ススキ)
- 🍂 葛(くず)
- 🌷 撫子(なでしこ)
- 🌼 女郎花(おみなえし)
- 🌸 藤袴(ふじばかま)
- ⭐ 桔梗(ききょう)——桔梗屋の屋号の由来

万葉集の山上憶良が詠んだ歌「萩の花 尾花葛花 なでしこの花 女郎花 また藤袴 朝貌の花」が、秋の七草の由来。1300年前の人と、同じ花を愛でる楽しみ。
歌は「二首セット」で伝わっている
秋の七草は、奈良時代の歌人・山上憶良(やまのうえのおくら)が『万葉集』に残した二首の歌がもとになって広まったと伝えられています。一首目が前置きで、二首目が花の名前を並べた歌です。
- 秋の野に 咲きたる花を 指折り(およびをり) かき数ふれば 七種(ななくさ)の花
- 萩の花 尾花葛花 なでしこの花 女郎花 また藤袴 朝貌(あさがお)の花
一首目で「秋の野の花を指を折って数えたら、七種類あった」と言い、二首目でその七つを挙げる。指を折って数えるという、ひどく身近な仕草が入っているのが、この歌の親しみやすいところだと思います。約1300年前の人も、私たちと同じように野の花を一つ二つと数えていたわけです。
「朝貌の花」は、朝顔ではなく桔梗と考えられている
歌の最後に出てくる「朝貌(あさがお)の花」。これは今の朝顔ではなく、桔梗を指すという説が有力とされています。ほかに木槿(むくげ)説、昼顔説などもありますが、現在「秋の七草」として数えられているのは桔梗です。
理由の一つとして挙げられるのが、朝顔が日本に本格的に入ってきたのは奈良時代の終わり頃、薬用として渡来したという経緯です。憶良が野で数えた花に含めるには、当時まだ身近ではなかった——という見方があります。断定はできませんが、「秋の七草の最後の一つは桔梗」というのが、今日いちばん広く共有されている理解です。
春の七草は「食べる」、秋の七草は「眺める」
春の七草は1月7日に七草粥にして食べる、体をいたわるための草。対して秋の七草は、食べるためのものではなく、眺めるための七草です。粥にする行事もなければ、決まった日付もありません。
行事に縛られていないぶん、好きなときに好きな一種だけ飾ればいいのが秋の七草のいいところです。七つ全部を揃える必要はまったくありません。実際、藤袴や葛は切り花としてはあまり流通せず、七種類を同時に手に入れるのは花屋でも簡単ではありません。今日の一本が、七草のうちの一つ——それで十分に季節が立ちます。
⭐ 桔梗(キキョウ)——星形の青紫の花
「桔梗屋」の屋号の由来でもある桔梗(キキョウ)。星形の青紫の花は、明智光秀の家紋・安倍晴明の五芒星でも知られる、神秘的な花です。詳しくは桔梗の歴史記事もどうぞ。
つぼみが「紙風船」になる花
桔梗はキキョウ科キキョウ属の多年草。学名をPlatycodon grandiflorusといいます。この花のいちばん愛らしいところは、実は咲いた姿ではなくつぼみかもしれません。
開く前の桔梗のつぼみは、五枚の花びらのふちがぴたりとくっついたまま、内側から空気を入れられたようにぷっくりと膨らみます。角ばった、紙風船そっくりの形。英語で桔梗をバルーンフラワー(balloon flower=風船の花)と呼ぶのは、この姿からです。
そして、この風船はある日ぱかっと割れて、五角の星になります。買うときに、開いた花よりつぼみが多い枝を選ぶのが桔梗を長く楽しむコツです。開いている花は数日でしぼみますが、大きく膨らんだつぼみは、家に来てからちゃんと開いてくれます。花瓶の中で風船が割れる瞬間は、和の花のなかでも屈指の見どころです。
切ると出る「白い液」の扱い方
桔梗を扱ううえで、これだけは知っておいていただきたいことがあります。桔梗の茎を切ると、切り口から白い液(乳液)が出ます。キキョウ科の植物に共通する性質です。
この白い液が困りもので、そのまま水に挿すと切り口をふさいで、水を吸い上げる管を詰まらせてしまうと言われています。桔梗が「水が下がりやすい(=しおれやすい)」花とされるのは、主にこれが理由です。
桔梗の水揚げ・手順
- 1. 水の中で切り直す(水切り)。ボウルなどに水を張り、茎を水に沈めたまま斜めに切ります。空気を吸わせないためです。
- 2. 白い液を流すか、拭き取る。切り口から白い液がにじんできます。水中でしばらく置いて液が出なくなるのを待つか、ティッシュなどでそっと拭き取ってから水に戻します。拭き取ったほうが花瓶の水が汚れにくくなります。
- 3. 深めの水に、1時間ほど休ませる。切ったあとすぐ飾らず、深めの水に立てて休ませてから生けると、水の上がり方が違ってきます。
- 4. 切り花延命剤(品質保持剤)を使う。桔梗はもともと水が下がりやすい花なので、市販の延命剤を規定量入れておくと安心です。
※白い液が肌に付いたときは、洗い流してください。肌の弱い方は、作業のときに手袋をお使いになると安心です。
出回り時期と、日持ちさせるコツ
切り花の桔梗は、初夏から秋にかけて出回ります。もっとも数が揃うのは6月から9月ごろで、お盆前後は仏花の需要もあって店頭に並びやすい時期です。色は青紫が基本ですが、白、淡いピンク、二重咲きなど、園芸品種もあります。
- 咲いた花は数日、つぼみ込みなら一週間前後が目安。個体差・室温で変わります。
- しぼんだ花はこまめに摘む。咲き終わった花をつまんで取ると、残ったつぼみに力が回りやすくなり、見た目も整います。
- 水は浅めでも構いません。茎が水に浸かりすぎると傷みやすいので、3〜5cmほど浸かっていれば十分です(水揚げのときだけ深水にします)。
- 水に浸かる部分の葉は取る。葉が水中で腐ると水がすぐ濁ります。
- 直射日光とエアコンの風を避ける。これは和の花すべてに共通です。
なお、桔梗は根を桔梗根(ききょうこん)と呼び、古くから生薬として用いられてきた歴史があります。星形の花の美しさだけでなく、暮らしの実用のなかにも居場所があった花です。

桔梗屋の名前の由来の花、ぜひ7月のお部屋に一輪!
盛夏から初秋へ——一種ずつ知っておきたい和の花
ここからは、7月下旬から9月にかけて手に入りやすい和の花を、一種ずつ見ていきます。科名・見た目の特徴・出回り時期・日持ちの目安・扱い方・合わせやすい花の順にまとめました。日持ちはあくまで目安で、室温や個体差で変わります。
女郎花(オミナエシ)——黄色い泡のような花
オミナエシ科(分類の見直しによりスイカズラ科に含める考え方もあります)の多年草。学名はPatrinia scabiosifolia。細い茎がすっと伸び、その先で小さな黄色い花が霞のように広がります。一本あるだけで、花束の輪郭がふわりとやわらぐ花です。
- 出回り:7月〜9月ごろ。夏の和の花のなかでは手に入りやすいほうです。
- 日持ち:5日〜1週間ほど。細かい花が順に咲きます。
- 扱い方:茎が中空で細く、折れやすいので束ねるときは力を入れすぎないこと。水が汚れると独特のにおいが出やすいので、水替えはこまめに。水に浸かる下葉は必ず落とします。
- 合わせやすい花:桔梗、撫子、薄(すすき)。黄色は青紫と相性がよく、桔梗と二種だけでも和の景色になります。
近縁に男郎花(オトコエシ)という白花の種があり、女郎花より姿がたくましいことからこの名がついたと言われます。並べてみると、確かに女郎花のほうが繊細です。
撫子(ナデシコ)——「撫でたくなるほど愛おしい子」
ナデシコ科の多年草。秋の七草に数えられるのは、日本の野に自生するカワラナデシコ(河原撫子)です。花びらの先が糸のように細かく裂けているのが特徴で、この繊細な切れ込みが、いかにも和の花らしい表情をつくります。
- 出回り:ほぼ通年(洋種のダイアンサス類を含む)。カワラナデシコ系は初夏〜秋。
- 日持ち:1週間前後と、和の花のなかでは長持ちする部類です。
- 扱い方:茎の節がふくらんでいてポキッと折れやすいので、節を避けて切ります。水は浅めで大丈夫。
- 合わせやすい花:桔梗、女郎花、りんどう。小花なので、大きめの花の足元をまとめる役にも向きます。
「撫でたくなるほど愛おしい子」から撫子——という語源の説が広く知られています。花屋で並んでいる「ナデシコ」の多くはヨーロッパ原産の園芸種(ダイアンサス)ですが、和の景色を作りたいときは、花びらの裂け方が深いものを選ぶと雰囲気が出ます。
萩(ハギ)——枝ごと生ける、こぼれる花
マメ科の落葉低木。秋の七草の筆頭に挙げられる花で、細くしなる枝いっぱいに、小さな蝶の形をした赤紫や白の花をつけます。マメ科なので、花をよく見ると豆の花そっくりです。
- 出回り:8月〜9月ごろ。切り枝としての流通量は多くありません。
- 日持ち:花そのものは短めで、次々と咲いては散ります。散ることを楽しむ花と思っておくとよいでしょう。
- 扱い方:木もの(枝)なので、切り口を斜めに大きく切るか、太い枝なら縦に切れ目を入れて水の吸い口を広げます。葉が多いときは少し落とすと、花に水が回りやすくなります。
- 合わせやすい花:薄、吾亦紅。枝の流れを活かすので、口の細い花瓶より、少し重さのある器が安心です。
萩は「秋」の字を含む「萩」と書くとおり、秋の代表選手ですが、実際には夏の終わりから咲き始めます。お彼岸のおはぎの語源になったとも言われる、暮らしに近い花です。
薄(ススキ)——景色をつくる「線」
イネ科の多年草。秋の七草では「尾花(おばな)」という名前で登場します。動物の尾に似た穂の姿からの呼び名です。
- 出回り:8月下旬〜10月ごろ。十五夜(中秋の名月)の時期がいちばん多く出ます。
- 日持ち:葉は長持ちしますが、穂は開いて綿毛になり、やがて散ります。散らしたくない場合はドライにする方法もあります。
- 扱い方:葉のふちが鋭く、手を切ることがあります。扱うときは葉を握らず、根元を持ってください。水は浅めで十分です。
- 合わせやすい花:ほぼ何にでも。とくに桔梗・女郎花・吾亦紅と合わせると、そのまま秋の野原になります。
薄は「花」というより「線」です。生け花でも、まず薄で空間の骨格を作り、そこに花を置いていくという使い方をします。一本入れるだけで、器の上に風が吹く——和の花を始めるなら、まずここから、というくらい便利な素材です。
藤袴(フジバカマ)——乾くと桜餅の香りがする花
キク科ヒヨドリバナ属の多年草。淡い紫がかった白の小花が、房のように集まって咲きます。花期は8〜9月。川岸のやや湿った土地に自生してきた草ですが、環境省のレッドリストで準絶滅危惧に指定されているほど、野生のものは減っています(園芸・切り花として流通しているものは栽培品です)。
この花のいちばんの面白さは香りです。生えているときはほとんど無香なのに、刈って生乾きになると、桜餅の葉のような甘い香りを放ちます。含まれるクマリン配糖体が分解して、香りの成分に変わるためと説明されています。平安時代には香草として、髪を洗う水や湯に用いられたとも伝えられます。
- 出回り:9月ごろが中心。切り花としての流通量は多くありません。
- 日持ち:小花が順に咲くので、1週間ほど。
- 扱い方:茎が固くなりやすいので、切り戻しはこまめに。葉が多い場合は落として水の負担を減らします。
- 合わせやすい花:桔梗、吾亦紅、薄。色が淡いので、濃い色の花の隣に置くと引き立ちます。
葛(クズ)——七草でいちばん見かけない花
マメ科のつる性多年草。秋の七草の一つですが、切り花としてはまず流通しません。つるがどんどん伸びる旺盛な植物で、飾るより野で出会う花です。
その代わり、私たちは葛粉(くずこ)や葛根湯(かっこんとう)という形でこの植物とよく付き合っています。根を掘って作るのが葛粉、生薬にしたのが葛根。七草のうち唯一、口に入る形で暮らしに残っているとも言えます。散歩の途中、フェンスに絡んだ大きな葉と赤紫の花房を見つけたら、それが葛です。
鬼灯(ホオズキ)——夏を告げる、朱色の提灯
ナス科の多年草。花よりも、実を包む朱色の袋(萼=がく)で知られます。ナス科と聞くと意外に思われますが、トマトやピーマンの仲間です。
東京では、浅草寺の「ほおずき市」が夏の到来を告げる風物詩。毎年7月9日・10日に開かれます。この日は四万六千日(しまんろくせんにち)という功徳日で、お参りすると4万6千日分の功徳があるとされる特別な日。ほおずき市そのものは江戸中期に始まったと伝えられています。
- 出回り:7月がピーク。お盆の花材としても使われます。
- 日持ち:袋は非常に長持ちします。乾かして透かしほおずき(葉脈だけを残した網目状の袋)にする楽しみ方も。
- 扱い方:水が下がると袋がしわになります。葉が付いている場合は、葉から傷むので早めに落とすと見た目が保てます。
- 合わせやすい花:りんどう、女郎花、薄。朱色は和の色合わせのなかで強い色なので、一本だけにとどめると品よくまとまります。
※ホオズキはナス科で、実などに口にすべきでない成分を含みます。観賞用のものは食べないでください。小さなお子さまやペットのいるお部屋では、手の届かない場所に飾るのが安心です。
槿(ムクゲ)と芙蓉(フヨウ)——どこが違う?
夏の和の花で、いちばんよく「どっちですか?」と迷われるのがこの二つ。実はどちらもアオイ科フヨウ属の落葉低木で、非常に近い仲間です。そのうえどちらも一日花——朝開いて夕方にはしぼむ花を、毎日新しく咲かせ続けます。
- 葉で見る:ムクゲの葉は小さめで、ふちに切れ込み(鋸歯)があり、色は深い緑。フヨウの葉は大きくて手のひら状、色は明るい緑。これがいちばん確実です。
- 花の大きさ:ムクゲは直径8〜10cmほど、フヨウは10〜15cmほどでひと回り大きい。
- 咲く時期:ムクゲは6〜10月と長く、フヨウは8〜10月。7月に咲いていればムクゲと考えて、おおむね外れません。
- 樹の姿:ムクゲは直線的に上へ、フヨウは放射状に横へ広がり、やわらかい印象になります。
一日花なので、切り花としてはあまり流通しません。庭木や鉢で楽しむ花です。ムクゲは茶花としてよく用いられ、とくに白地に中心が赤い「宗旦木槿(そうたんむくげ)」は茶室で好まれてきました。もし枝を一本切って飾るなら、その日一日限りの花と割り切って、朝いちばんに生けるのがおすすめです。
「一日で終わるなんて、もったいない」と思われるかもしれません。でも、朝開いて夕方には閉じる花を毎朝新しく迎えるというのは、季節の過ごし方として、なかなか贅沢なことです。
りんどう(竜胆)——夏から出回る、秋の青
リンドウ科リンドウ属の多年草。深い青紫の筒状の花が、茎の上部にまとまって付きます。「秋の花」の印象が強いのですが、切り花としては7月ごろから出回り始め、7〜9月が最盛期。お盆やお彼岸の需要が大きい花です。
- 日持ち:10日ほどと、和の花のなかでは特に長持ちします。夏の贈り物にも向く花です。
- 扱い方:茎が丈夫で扱いやすい花。下葉を取り、水を浅めに、こまめに替えるだけで十分もちます。
- 知っておくと安心:りんどうには「咲くタイプ」と「あまり開かないタイプ」があります。お盆に出回るエゾリンドウ系は、つぼみのままの姿を楽しむ品種が多く、咲かないのは不良ではありません。開く姿を見たい場合は、店で「咲くタイプですか」と尋ねてみてください。
- 合わせやすい花:撫子、女郎花、薄。青紫は和の花の背骨のような色で、桔梗と同系色で重ねても美しくまとまります。
吾亦紅(ワレモコウ)——花に見えない花
バラ科ワレモコウ属の多年草。学名はSanguisorba officinalis。日当たりのよい草原に生え、高さは1mほど。枝分かれした先に、赤褐色から暗い紅紫の、小さな俵のような穂を付けます。
バラ科と聞いて驚かれる方が多い花です。花びららしい花びらがなく、初めて見ると「花なのか、実なのか」迷う姿をしています。この地味さが、和の花の世界では逆に重宝されます。
- 出回り:8月〜10月ごろ。
- 日持ち:長く、そのままドライフラワーにもなります。水が切れても形が崩れにくい、扱いやすい花材です。
- 扱い方:茎が細く長いので、器に対して高さを出して使うと持ち味が生きます。短く切って束ねると魅力が半減します。
- 合わせやすい花:薄、桔梗、藤袴。花束の中で「点」として効くので、明るい花のなかに二〜三本散らすと、途端に景色が締まります。
秋海棠(シュウカイドウ)——日陰に咲く淡紅の花
シュウカイドウ科シュウカイドウ属——つまりベゴニアの仲間です。江戸時代に中国から渡来し、そのまま日本の湿った日陰に住み着いた花。花期は8〜10月、草丈は70cm前後、2〜3cmほどの淡紅色の花を咲かせます。
特徴は左右非対称の、いびつな心臓形の葉。ベゴニアの仲間に共通する形です。名前は、花の色が「海棠(かいどう)」という春の花に似ていて、秋に咲くことから。日の当たらない庭の北側でも咲いてくれる数少ない和の花で、玄関脇の暗がりを明るくしてくれます。
- 出回り:切り花よりも、鉢や庭の花として親しまれています。
- 扱い方:茎が水分を多く含んで柔らかいので、切り花にすると水が下がりやすい花です。短く切って、小さな器に浮かべるような飾り方が向いています。
- 置き場所:直射日光より、明るい日陰を好みます。乾燥が苦手です。
水引草(ミズヒキ)——細い赤い線
タデ科の多年草。細い茎の先に、ごく小さな花が点々と並ぶだけの、極めて控えめな草です。上から見ると赤、下から見ると白に見えることから、紅白の水引(贈答の飾り紐)に見立ててこの名がつきました。
- 出回り:8月〜10月ごろ。茶花としてよく使われます。
- 日持ち:小花なので長くもちますが、触ると花がこぼれます。生けたら動かさないほうが長く楽しめます。
- 扱い方:茎が非常に細いので、口の細い一輪挿しが合います。剣山や花留めがなくても自立します。
- 合わせやすい花:桔梗、吾亦紅。単独でも成立する、数少ない「線だけの花」です。
ミズヒキは、和の花の中でもいちばん「何もしていないように見せる」花かもしれません。白い壁の前に一本挿すと、赤い点線が空中に浮かんでいるように見えます。
この時期の街——天神祭の頃に
7月24日・25日は、大阪天満宮の天神祭。24日が宵宮、25日が本宮で、日本三大祭の一つに数えられる大きなお祭りです。祀られているのは、学問の神様として知られる菅原道真公。
祭りの熱気と、店先に並び始めた秋の七草。同じ7月末に、夏の頂点と秋の予兆が同居しているのが、この時期の面白いところです。天神祭と菅原道真については、こちらの記事で詳しく書いています。
一輪挿しで飾るコツと、器の選び方
和の花を買ったものの、「どう生けたらいいか分からない」というのが、いちばん多いお悩みかもしれません。結論から言うと、いちばん簡単で、いちばん様になるのが一輪挿しです。技術がほとんど要りません。
一輪挿しで失敗しない、四つの手順
- 1. 長さを決めてから切る。目安は器の高さの1.5〜2倍。この比率にすると、たいていバランスが取れます。迷ったら長めに切って、器に当ててから詰める——切りすぎは戻せません。
- 2. 正面を決める。花を手に持ってぐるりと回し、いちばん良い顔を探します。ほんの少し正面から傾けて挿すと、写真のような硬さが消えます。
- 3. 葉を減らす。洋花の感覚で葉を残すと、和の花は途端に重くなります。迷ったら葉を落とすのが和の生け方です。
- 4. 水は少なめでいい。一輪挿しなら3〜5cm浸かれば十分。器の口が細いほど水が減るのが早いので、毎日確認します。
器は「花を主役にする」ものを選ぶ
和の花に合わせる器の基本は、器のほうが引っ込むこと。花より器が目立つと、途端にちぐはぐになります。
- 色は無地。白・生成り・黒・鉄色・灰色・くすんだ青。柄物は花と喧嘩します。
- 質感はマット寄りに。陶器のざらついた肌、竹、木、砂気のある釉薬。ぴかぴかのガラスより、和の花の茎に馴染みます。ただし透明なガラスは夏だけ例外——涼しさが出て、盛夏の桔梗や撫子によく合います。
- 口は細く。口が広い花瓶に一本挿すと、花が中で倒れて情けない姿になります。口径2〜3cmの一輪挿しが一本あると、和の花の九割は解決します。
- 意外な代用品:ぐい呑み、蕎麦猪口(そばちょこ)、小さな薬瓶、湯呑み。お家にあるもので十分です。蕎麦猪口は口径・高さともに一輪挿しに近く、和の花と非常に相性がよい器です。
置き場所は「目線より低く」
床の間がなくても構いません。座ったときの目線より少し低い位置——ダイニングテーブル、玄関の靴箱の上、洗面台の隅、書棚の一段。和の花はうつむいて咲くものが多いので、見下ろす位置に置くと、花の顔がよく見えます。
もう一つ大事なのが背景です。和の花は輪郭が細いので、後ろがごちゃごちゃしていると消えてしまいます。壁際、無地のカーテンの前、白い壁の角。背景を一つ空けてあげるだけで、同じ花がまったく違って見えます。
和の花は、洋室にこそ似合う
「うちはマンションで和室がないので、和の花は合わないと思って」——そう思い込んでいらっしゃる方は多いかもしれません。でも実際には、和の花は洋室でこそ引き立ちます。
理由ははっきりしています。和室は、畳・障子・柱・土壁と、すでに情報量が多い空間です。そこに和の花を置くと、同じ調子のものが重なって、花が景色に溶けてしまうことがある。逆に、白い壁とフローリングの洋室は余白そのもの。細い茎と小さな花が、驚くほどくっきり立ちます。
洋室に和の花を置くときの、三つの考え方
- 「和風の演出」をしないこと。すだれや和柄の敷物を添えると、途端に「和のコーナー」という作り物になります。花だけをぽつんと置くほうが、ずっと自然です。
- 器を洋のものにしてしまう。白磁のミルクピッチャー、無地のガラスコップ、実験用のフラスコ型の瓶。器が洋、花が和——この組み合わせが、いまの住まいにはいちばん馴染みます。
- 色数を二色までに絞る。桔梗の青紫+薄の枯れ色。女郎花の黄+壁の白。洋室では色を足すより、引くほうが効きます。
もう一つ、和の花が現代の住まいに向いている理由があります。香りが強くないこと。桔梗も撫子も女郎花も、部屋を満たすほどの香りは出しません。ワンルームや、食卓の上、寝室の枕元でも邪魔になりにくい。閉じた空間で暮らす人にとって、香らないことは長所です。
夏の花を長持ちさせる、基本の五つ
夏は、一年でいちばん花が短命な季節です。気温が高いと花の呼吸が速くなり、水の中では雑菌が一気に増えます。逆に言えば、「温度」と「水の清潔さ」の二つを押さえるだけで、もちはかなり変わります。
1. 買って帰ったら、まず水切りをする
花が水を吸わなくなる最大の原因は、茎の中に空気が入ってしまうことです。これを防ぐのが水切り——ボウルに水を張り、茎を水中に沈めたまま、斜めにすっと切る方法です。斜めに切るのは、水を吸う断面を広げるためです。
それでも元気が出ない場合は深水(ふかみず)という方法があります。新聞紙で花全体を筒状にきつめに巻いて姿勢を固定し、深いバケツにたっぷり水を張って、1〜2時間つけておく。しおれかけた茎が、しゃんと立ち直ることがあります。
2. 水は「毎日」替える(夏は一日一回)
冬は二〜三日に一回で足りますが、夏は一日一回が目安です。水を替えるときは、水を捨てるだけでなく器の内側をぬめりが取れるまで洗うこと。ぬるっとしているのは雑菌の膜で、これが残っていると新しい水もすぐ濁ります。
あわせて、水に浸かる部分の葉はすべて取ってしまうこと。水中の葉は腐ります。これは花を長持ちさせるうえで、いちばん簡単で、いちばん効く一手です。
3. 水替えのついでに、切り戻す
切り戻しとは、茎の先を1〜2cm切り直すこと。切り口は日が経つと詰まってくるので、水替えのたびに少しずつ切り直すと、水の吸い上げが復活しやすくなります。夏は毎日でも構いません。
ハサミはよく切れるものを。切れ味の悪いハサミは茎の細胞を潰して、水の通り道をふさいでしまいます。園芸用の花ばさみがなければ、清潔なキッチンばさみでも構いません。
4. 置き場所——涼しく、日が直接当たらず、風が来ないところ
- 直射日光を避ける。窓辺は、夏はいちばん過酷な場所です。レースのカーテン越しでも、南向きの窓際は花には暑すぎます。
- エアコンの風を直接当てない。冷房の効いた部屋そのものは花に好都合ですが、風が直接当たると乾いて一気に傷みます。サーキュレーターの前も同じです。
- テレビや冷蔵庫の上を避ける。家電の上は、思っている以上に温かい場所です。
- 果物のそばを避ける。熟した果物から出るガスが、花の老化を早めることがあると言われています。食卓に置くなら、果物かごとは少し離して。
5. 延命剤を使う/夜だけ涼しくする
市販の切り花延命剤(品質保持剤)には、栄養分と、雑菌の繁殖を抑える成分が入っています。規定の量を守って使うと、水の濁りが遅くなり、もちが伸びやすくなります。とくに桔梗のように水が下がりやすい花では、入れておく価値があります。
もう一つ、道具の要らない方法として、夜のあいだだけ涼しい場所に移すというやり方があります。冷房を切って寝る夏の夜、部屋の温度は思った以上に上がります。廊下や北側の部屋など、少しでも涼しいところに一晩避難させておくと、翌朝の花の様子が違ってくることがあります。
夏の和の花・よくある失敗
- 水を入れすぎる。「たっぷり」が良いのは水揚げのときだけ。飾るときは3〜5cmで十分です。深すぎると茎が水中で傷みます。
- 葉を残しすぎる。葉は水を蒸散させます。夏は思い切って減らすほうが花はもちます。
- 咲き終わった花をそのままにする。しぼんだ花を取るだけで、全体の印象が保たれ、残ったつぼみにも力が回ります。
- 桔梗の白い液を放置する。切り口をふさぐ原因になります。拭き取ってから水へ。
- 買ってすぐ生けて、そのまま。ひと手間の水切りが、一日二日の差になります。
まだ暑いのに、花は秋を連れてくる
7月の終わりに桔梗や女郎花が店に並ぶのを、不思議に思われるかもしれません。「秋の七草でしょう? まだ真夏なのに」と。
けれど、秋の七草は「秋に咲く花」ではなく、旧暦の秋、つまり今の8月ごろから咲き始める花です。旧暦では立秋(8月7日ごろ)から秋。萩も女郎花も、実際には夏の盛りに咲き出します。暦のほうが、私たちの体感より少し先を歩いているのです。
そして日本の暮らしは、昔からその「先取り」を楽しんできました。まだ蝉が鳴いているうちに秋の花を飾る。汗をかきながら、風が変わる日のことを思う。季節を後から追いかけるのではなく、少しだけ早く迎えにいく——和の花の飾り方には、そういう時間の感覚が染み付いています。
桔梗を一輪、蕎麦猪口に挿す。それだけのことですが、部屋の空気が少し変わります。エアコンの音がしていても、白い壁の前に立つ青紫の星は、確かにこれから来る季節の色をしています。
1300年前、指を折って野の花を数えた人がいました。同じ花を、同じ夏の終わりに、私たちも数えることができます。七つ全部でなくていい。今日の一本から。まだ暑い日々のなかに、花が連れてくる小さな秋を置いてみてください。
※本記事は日本の暦・季節文化を紹介するものです。気軽な参考としてお楽しみください。
KIKYOYA FLOWERS
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